JP TOWER×LIXIL 復原プロジェクトを通じた歴史的景観と建築技術の継承

日本の近代建築を代表する「旧東京中央郵便局舎」のリニューアルプロジェクト。土地の高度利用を行うため、建て替え、高層化する再開発計画ですが、東京駅と並び首都の顔としてその歴史的価値を継承すべく、既存の一部が保存されることになりました。2012年5月オープン。丸の内エリアの新たなランドマークとして注目されています。
 旧東京中央郵便局舎(1933年竣工)は、逓信省の建築家・吉田哲郎によって設計された近代建築。ブルーノ・タウトに称され、DOCOMOMO日本近代建築20選にも選定されている名作です。東京駅前広場に面した北、北東の二面のファサードから内側に2スパン分が保存、復原されて、施設の低層部が形成されました。奥にガラスカーテンウォールの高層部が接続する構成です。保存部分の切断面が一望できる、吹抜の多目的広場が特徴的。このプロジェクトで、保存部分の外壁タイル、窓の復元工事に一役かったのがLIXILの技術です。部材の調査、修復、再現を行い、歴史建造物の復原を果たしました。また、高層オフィス棟のカーテンウォール、節水トイレ、商業施設の特殊ガラス手摺りなど、プロジェクト全域にわたってLIXILの技術が使われています。

地域貢献がコンセプト

復原部分の紹介に先だって、JPタワーの概要を説明します。JPタワーは、東京駅丸の内駅舎の南西側に位置する旧東京中央郵便局の敷地に建っています。かつての丸の内は完全なオフィス街で週末は閑散としていましたが、現在の丸ビルができたころから様相が変わり、最近はむしろ土曜日や日曜日に人が集まる街になっています。

東京駅丸の内駅舎とJPタワー
東京駅丸の内駅前広場(提供:日本郵便株式会社)
日本郵便株式会社 郵便局総本部
不動産部企画役 横山明彦氏

事業主である日本郵便株式会社郵便局総本部不動産部企画役の横山明彦さんは、「郵政事業は地域が発展して共存共栄することがベースになっています。JPタワーはそうした事業精神を引き継ぐ取り組みですので、丸の内界隈の発展に貢献することを重視しました」と建物のコンセプトを説明します。具体的には、東京駅や丸ビル、新丸ビルとどのように連携して賑わいをつくり上げていくかということをじっくり検討したそうです。その結果が、保存部分と新築部分をつなげた低層の商業施設と超高層のオフィス棟という組み合わせとして結実しています。

創建当時の東京中央郵便局(提供:日本郵便株式会社)

アトリウムで新旧を対比

地域貢献に加え、旧東京中央郵便局舎の歴史的景観の継承もまた重要なコンセプトの1つでした。計画の途中で保存範囲を広げることになり、「くの字型」の正面にあたる部分は創建時の構造躯体を生かして保存することになりました。

北側から見た低層部

保存部分を含む低層部と高層部を一体でつくることは難しいため、2つの建物は構造的には縁を切っています。その上で前者には免震工法が後者には制震工法が採用されています。免震装置は低層部の地下を掘って設置されますが、既存の建物の位置だと一部が道路にはみ出してしまいます。そこで、曳き家の技術を使って、建物の一部を回転するように1mほど移動しました。この工事に半年くらいかかっています。
保存・再生を行ったのは主に外壁部分で、建設当時のタイルやサッシの姿に復原を行っています。また、商業施設の新設部分はアトリウムを介して保存部分と向き合うように空間を構成しており、過去の資産を生かすとともに賑わいを創出しています。
商業施設の内装環境デザインは建築家の隈研吾氏が担当しています。隈氏は「空間の記憶」を重視し、もとの八角形の柱が建っていた吹き抜け上部の天井から、八角形の柱を表現した微細なチェーンを吊り下げました。また吹き抜けに面した新設部分のガラスの壁にはミラーテープをランダムに貼ることで、保存部分の像が映り込み、新しい建物の現像と一体となって幻想的な風景を演出しています。

5層の吹き抜けとなっているアトリウム
アトリウムでは新築部分と保存部分が向き合っている

さまざまな環境配慮技術の採用

JPタワーのもう1つの特徴は環境への配慮です。「郵政事業はユニバーサルサービスを提供し続けており、CSR活動にも積極的に取り組んでいます。開発においても、環境にも優しい建物を追求しました」と横山さんは言います。まず高層のオフィス棟からその工夫を見ていきます。この建物は床から天井まで1枚のガラスで外壁を構成しています。通常、ガラスで外壁をすべて覆ってしまうと、冷暖房負荷が増えてしまいますが、遮熱性能の高いLow−Eガラスを用いることと、エアフローウィンドウを採用することでその問題を解決しました。
エアフローウィンドウとは、サッシを二重にして、その間にブラインドを設置した窓です。ブラインドは太陽高度に応じて角度を自動的に変え、日射を防ぎます。さらに空気層が暖まるとその空気を排出し、室内に熱を取り込まないようになっています。このほか、外気を利用した冷房設備と、室内のCO2濃度をセンサーで感知して外気の取入れ量を制御するシステムを採用することで、空調の効率を高めています。

高い快適性と環境負荷低減を両立したエアフローウィンドウ(提供:日本郵便株式会社)

低層棟はアトリウム部分への日射熱を遮蔽し、太陽光を電力に変換するシースルー型太陽光発電トップライトを採用しています。加えて屋上を緑化して庭園として開放しています。このほか地中熱をヒートポンプ熱源とした冷暖房設備を組み合わせています。こうしたさまざまな工夫により、JPタワーは東京都による「東京の低炭素ビルTOP30」にも選出されています。

屋上庭園(提供:日本郵便株式会社)

原設計のよさが引き出された

丸の内界隈のさらなる活性化と歴史的景観の継承など、複雑な要件が絡んだプロジェクトだけに、担当者の苦労は絶えなかったようです。なかでも、東日本大震災の影響で、建設資材の手配には苦労したそうです。こうした苦労の甲斐があって、JPタワーは順調な滑り出しを見せています。横山さんは「新しい建物と保存部分が違和感なく調和している。賑わいもうまく演出できている」と評価します。実際、KITTE(キッテ)と名付けられた商業施設は大盛況です。KITTEの集客効果により、有楽町からの人の流れが大きくなり、街全体の価値を上げることに成功したといえそうです。「丸の内エリアに貢献できてほっとしている」と横山さんは嬉しそうに言います。では、原設計の復原の成果はどうでしょうか。グレーに風化した外壁の状態を見慣れた人には、真っ白なタイルで覆われた外壁は新鮮な驚きがあったようです。「オリジナルの白く輝くタイルによる外観を復原したことで、原設計のよさが引き出されたように思う」と横山さんは評価します。ブルーノ・タウトをして、「モダニズムの傑作」と言わしめた吉田鉄郎の設計が万人に伝わりやすいかたちで蘇りました。「復原にあたっては関係者の試行錯誤があったと思いますが、それが見事に実を結んだと思います」と横山氏は復原に当たった関係者も高く評価しました。