INAXライブミュージアム10周年特別展「つくるガウディ」

実測から読み解くガウディ<Vol.2>
バルセロナ在住の田中裕也さんに聞く

(『コンフォルト』2017 February No.154掲載)

コロニア・グエル地下聖堂の実測図
田中裕也さんが1983年に実測し、そのデータから4面の立面図、窓詳細図、柱詳細図、断面図などを2年越しで作図した。上の断面アイソメ図は逆さ吊り実験に合わせて、逆さに描かれている。左上はグエルの「g」を象ったエンブレム。手描きオリジナル実測図のサイズは144.5×106.5p。

INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」企画展示室で開催されているのは、「つくるガウディ─実測で読み解く」と題した田中裕也さんの実測図展だ。約40年にわたるガウディ建築の実測は、「ガウディコード」を解くスリルといくつもの発見が、田中さんを夢中にさせた。
(※展覧会は終了しています。)

装飾ではなく物語を造形した建築

田中裕也 Hiroya Tanaka
実測家、建築学博士。1952年北海道稚内市生まれ。スペイン・バルセロナ在住。国士舘大学理工学部建築学科を卒業後、建築設計事務所勤務を経て78年、スペイン・バルセロナへ渡り、ガウディ建築の実測を開始。実測を重ねて成果を上げ、92年にカタルニア工科大学バルセロナ建築学部ガウディ研究室のドクターコースを修め、博士号を取得。著書に『実測図で読むガウディの建築』(彰国社)ほか。

2016年11月4日「つくるガウディ」のオープニングイベントとして、第2会場に実測図を展示するガウディ研究家・田中裕也さんの講演が行われた。25歳でシベリア鉄道に乗り、バルセロナを目指した話から聴衆は引き込まれた。到着早々に3年分の滞在費用を盗難に遭い、それをきっかけに、そのままバルセロナに住み、自力でアントニオ・ガウディ作品の実測と作図に飛び込んでいった。以来、田中さんの人生の冒険は40年近い研究活動として続いている。翌日、お話をうかがうと、「ガウディ作品に関しては歴史的な建築論や空間論など、多くのアプローチがありますが、実測することでしかわからない世界があるんです」と目を輝かせた。
「ガウディの建築はたいへん装飾的だと思われているかもしれません。僕も最初はそうでした。しかし、実測作業を重ねながら10年ほどでスペイン語を話し、原書で資料を読めるようになり、それは誤解だと考えるようになりました。スペインの19世紀末、モデルニスモ(*)の新たな装飾が流行する中で、ガウディは日記に、表面的な装飾を取り除くことで、より美しい建築をつくることができると記しています。僕はガウディを取り巻いていた文化や、実測の結果を比較し、単なる装飾に見えていた造形に、彼が多くの意味を込めていたことに気づかされたのです」
たとえばカサ・バトリョのファサード。有機的な形の開口部や華やかな壁面装飾に目を奪われるが、田中さんは建物全体がドラゴンをテーマにつくられ、キリスト教、ギリシャ神話、カタルーニャ神話などに継承されてきたドラゴンをめぐるストーリーが表現されていると読み解く。壁面に散りばめた丸い皿状のガラスタイルは、じつはギリシャ神話を投影する星座をあらわし、3階バルコニーの間の大皿は北極星ではないか。北極星の近くにドラゴンとそれを倒すヘラクレスが位置する仮定もうまくあてはまる。また、聖書の黙示録に登場する七つの頭を持つドラゴンは七つのバルコニーの形に符合した。
カタルーニャ神話にはサン・ジョルディがドラゴンを退治するストーリーがある。小塔の立体十字架が剣の柄に見立てられ、2階中央の開口はドラゴンが剣に貫かれて口を開けているさまだ。うねる瓦屋根は鱗に覆われたドラゴンの身体。「ガウディが古くから人々の身近にあったストーリーを取り入れ、多くの市民に親しみ深い建築をつくりあげていたことがはっきりします」。地域の歴史を建築に取り入れることで、町のアイデンティティを表現する。この考え方は、現代の日本のまちづくりにも役立つと田中さんは言う。

*スペイン・カタルーニャ地方版アールヌーボー。

「つくるガウディ─実測で読み解く」
第2会場である「世界のタイル博物館」企画展示室では、立面図やアイソメ図など、田中さんが実測データから描いた図の一部を、見応えのある会場構成で展示している。左からグエル公園、カサ・ミラ、サグラダ・ファミリア、コロニア・グエル地下聖堂、カサ・バトリョ。
オープニングでの田中さんの講演。カサ・バトリョを中心に実測からの発見をほがらかに語る。ガウディ建築の新たな見方に多くの来場者が引きつけられた。
  • 1
  • 2