海外トイレ取材 4

ナイロビに見る未来を占う存在としてのスラム

浅子佳英(建築家、タカバンスタジオ)

海外トイレ取材の第4回は、ケニアの首都ナイロビにおけるパブリック・トイレのレポートである。この企画を初めた当初から、いつかはアフリカのパブリック・トイレを取り上げたいと考えており、取材先を探していたところ、じつは、このページを運営しているLIXILが、以前にツバメアーキテクツも取り上げている「SATO(Safe Toilet)」(「国内トイレ・サーベイ 5 「動く」トイレの系譜的展開 ──「トイレ・フロー」から思考する」)をはじめケニアでいくつかの興味深いプロジェクトを進行させていることを知り、ナイロビに取材に行かせていただくことになった。
とはいえ、欧米やアジアなどの他の国々と比べ、そもそもアフリカのトイレ事情がどうなっているのかについて、日本にいてもなかなか伝わってこない。そこで今回は、SATOを中心にパブリック・トイレだけでなく、郊外の住宅やスラムのトイレなどを一緒にレポートすることで、ナイロビにおける「水回り」や「公共」がどういう存在なのかについて、少しでもみなさんにお伝えする機会になればと考えている。
また、今回の取材では、LIXILの山上遊氏と、ナイロビのスラムに実際に短期間暮らしたことがあるという都市計画研究者である豊橋技術科学大学の小野悠氏の多大な協力を得て取材することができた。この場を借りてお礼を申し上げたい。

SATOのトイレ1 郊外住宅のトイレ

さて、前置きが長くなってしまったが、最初にお伝えするのはSATOを実際に設置しているカジアドというナイロビ郊外の住宅のトイレである。ただ、郊外といってもナイロビからは車を飛ばしても2時間ほどかかるので、通勤圏というにはかなり遠い。そもそも大前提として、ナイロビという都市は、周囲の村から流入してくるかたちで人口が増加し続けており、古くからのナイロビの住人というのはほとんど存在しない。さらに家賃も高く(もちろん条件等にもよるが東京とほぼ変わらない)、後述するスラムを含めナイロビの中心部は超過密状態にある。ただ、彼らは元々広大な土地に暮らしていたため、過密な都市の暮らしではなく、地元の村に近い生活を求めている人が多い。そこで一部の人々は、郊外にそれが実現できる家を建てたうえで、平日はナイロビに単身赴任というかたちで働きに出て、週末だけ家族と郊外の住宅で暮らしているという。

見せてもらった住宅のオーナーも、普段はナイロビで建設関係の仕事をしているとのこと。住宅自体は周囲を塀で張り巡らせたうえで、その中に母屋とトイレ棟+駐車場が向き合うかたちで建っている。母屋に入ると、まず玄関も兼ねた家の中で最も大きい半外部的なスペースが現われる。その奥にリビングがあり、リビングを中心に両サイドにベッドルーム、正面にキッチンが取りつく。廊下はなく、部屋同士が連結するプランである。

訪れたお宅の平面

訪れたお宅の平面。

外観

外観。

母屋は組積造の壁に木造の屋根が乗る

母屋は組積造の壁に木造の屋根が乗る。エントランス部分は木造の波板。

中庭部分

中庭部分。

駐車スペースとトイレ

駐車スペースとトイレ。

キッチン

キッチン。

肝心のトイレは、大小二つのブースがあり、大きいほうのブースのサイズは幅1633mm×奥行1688mm×高さ1984mm。小さいほうのブースは幅896mm×奥行1688mm。ブースの前面だけは屋根が伸びて駐車場の屋根と繋がっている。トイレを別棟にしているのは、下水が整備されていないからだ。周囲の住宅も同様にトイレは別棟であった。いわゆるぼっとん便所なのだが、汲み取り式ではなく、郊外では排泄物が溜まった段階で穴ごと埋めてしまい、隣にまた別の穴を掘って新たにトイレをつくるのが一般的とのこと。通常なら穴が空いているだけなので、どうしても匂いや虫の問題が起こるが、SATOを使用して解決している。SATOは500mlのペットボトル半分ほどの水で流すことができるプラスチック製の簡易式トイレだ。蓋の反対側には錘がついていて、水を流せば、水の重みでバルブが開き、流れ終わると今度は錘の重みで自動的に閉じてくれる。
こちらのトイレは、実際に使用させてもらったが、たしかに少量の水で流すことができ、蓋部分に溜まる少量の水が封水(トラップ)の役割を果たしてくれるので、匂いはほぼ上がってこない。まだ新しいということもあるだろうが、いわゆる汲み取り式とはまったく違う。これなら施工性も高く、単純に快適なので知ってさえもらえれば普及するように思う。

トイレ側面

トイレ側面。

大きいほうのブース

大きいほうのブース。

トイレの鍵

折り曲げた鍵を刺しただけの極めてシンプルなトイレの鍵。

SATOのトイレ2 小学校のトイレ

次に見たのは小学校のトイレである。ナイロビはカトリック教徒が多く、小さなものも含めればかなりの数の教会が存在する。そして、そのいくつかは学校を運営してもいる。見学させてもらったのも教会の付属小学校だ。やはり敷地の周囲は塀で閉ざされており、門をくぐると、広大な敷地の中に、まずは正面に教会があり、その隣に中庭型の校舎棟、さらにその奥にグラウンドがある。トイレはこれら3つの結節点のような場所に建っていて、どこからでもアプローチしやすいようになっている。トイレの建物自体は、片流れの小屋と切妻の小屋が隣り合うようにして建っており、片流れの小屋は一般使用者用。切妻の小屋の中は男性用ブースと女性用ブースが互いに逆を向いて背中合わせに並んでいる。男性用ブースは、ちょうど二つの小屋のあいだからアプローチするかたちになっていて、両者のあいだに生まれた半中庭的なスペースの突き当たりの壁を立ち上げ、下に溝を掘り、小便用のスペースとして使用していた。
こちらも上下水道が整備されておらず、SATOを使用していたがやはり匂いもなく快適であった。また、ここは教会と教室棟の大きな屋根を利用し、樋はすべてタンクや井戸に直結させ雨水を利用していた。

正面が小学校の校舎、左側が教会。トイレの奥にグラウンドが広がる

正面が小学校の校舎、左側が教会。トイレの奥にグラウンドが広がる。

グラウンドの様子

グラウンドの様子。

小学校の校舎

小学校の校舎。

トイレの平面

トイレの平面。

トイレ外観

トイレ外観。

片流れと切妻のあいだのスペース

片流れと切妻のあいだのスペース。正面の壁は小便用のブース。

トイレ内部

トイレ内部。

雨水をタンクに貯め、手洗い用の水に利用している

雨水をタンクに貯め、手洗い用の水に利用している。

余談だが、ちょうど校舎の一部が増築工事中だったので建設現場を見せてもらったところ、面白かったのが型枠にビニールを使用していたことだ。そういえば、前述の郊外住宅のトイレの屋根も不思議な質感をしていて気にはなっていたのだが、同様にビニールを使用していたのだろう。日本では合板にペンキを塗った型枠用のベニヤがあるが、そもそもナイロビではベニヤは高価なのかほとんど見かけなかった。スラブは人の頭の上にあるので、型枠がコンクリートに食いついていると脚立に乗って作業せねばならず、剥がすのがとても面倒なのだ。日本では岡啓輔氏以外に型枠にビニールを使用している例を知らないが、運搬や在庫の保存を考えても可能性のある素材だろう。

型枠に使用されたビニール

型枠に使用されたビニール。

増築工事中の階段。裏側がツルツルしている

増築工事中の階段。裏側がツルツルしている。

SATOのトイレ3 マーケットのパブリック・トイレ

SATOの取材で最後に見たのはマーケットのパブリック・トイレである。ここは有料のパブリック・トイレであり、利用料は一人あたり10ケニア・シリング(約10円)。オーナーはお金の受け取りや清掃などを受けもつ代わりに、利用者から利用料を得る。パブリック・トイレの維持管理費を利用料で得るモデルである。ちなみにこのトイレではマーケットがある日は、1日に200人近くの人が利用するそうで、物価を考えれば十分な収益と言っていいだろう。
建物全体はブースが一直線に並ぶとても単純なプランである。各ブースの前には壁だけで屋根のない外部廊下があり、廊下の真ん中には壁が立って左右を男女のブースに分けている。廊下の両サイドには壁と同じ高さのドアが付いていて、男性と女性はそれぞれ建物の反対側から中に入るかたちだ。各ブースのドアはセキュリティと換気のために高さが1200mmほどしかないが、廊下と外部のドアが高いので、外側からはプライバシーが保たれている。また、こちらのトイレも男性用ブースの一番手前だけは屋根や壁がなく、床には溝が掘ってあり、小便用のスペースになっていた。手洗いは外。用が済めば、管理している人が洗剤石けんと一緒に水を貸してくれ手洗いができる。

マーケットを見る

マーケットを見る。

マーケットとパブリック・トイレ

マーケットとパブリック・トイレ。

マーケットのトイレの平面

マーケットのトイレの平面。

マーケットのトイレのアクソメ

マーケットのトイレのアクソメ。

各ブースの扉の高さは1200mmである

各ブースの扉の高さは1200mmである。

ブース内部

ブース内部。

女性用ブース

女性用ブース。

男性用ブース

男性用ブース。手前のベンチの上に乗っているタンクが手洗い用。(すべて筆者撮影、筆者作成)

日本では有料のトイレは少ないが、これほどわかりやすくオーナーと管理している人が見えているときれいに利用しようという気にもなる。考えてみれば、日本でもコンビニはオーナーが自ら店に立っているケースも多く、少なくともアルバイトも含めレジに立つ人が清掃も行なっている。最近は店内で飲食できるコンビニも多く、トイレを有料にするのも維持管理を考えればひとつの方法ではあるだろう。

ちなみにSATOは約2.5ドルで売られている。上下水道のないトイレは、快不快という問題以上に、コレラなどの感染症の発生可能性が高く、また、スラムのように治安の悪い場所でトイレが離れていれば夜中に行くのは危険であり、生死に関わる問題でもある。もちろん、SATOだけで解決できるわけではないが、弁が閉じることのできるSATOは病原菌を媒介するハエなどの虫の進入や、排泄物からの臭気を防いでくれ、同時に設置しやすいので、上記のリスクを低減することができる。実際に体験してみて、改めてインフラや現地の状況を踏まえた、極めて優れたデザインだと実感した。

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