対談 2

パブリック・トイレからはじまるまちづくり ──
「希望の営繕」へ向けて

内田祥士(建築家)×藤村龍至(建築家)
司会:浅子佳英

パブリックか、おもてなしか

浅子佳英:

この企画全体は「パブリック・トイレのゆくえ」というものですが、この対談では、「パブリック・トイレ」の問題を「営繕」というキーワードに繋げて議論したいと思います。現在の建設産業にとって人口の減少は最大のトピックですし、それに伴い現代社会のほうも大きな変節点を迎えつつあります。これまでのようにただ量を優先することとは異なる産業のあり方が求められていくでしょう。そのなかで、これまでやはり数を主に考えられてきたパブリック・トイレは今後どのように変わっていくのか。このことについて、本日は内田祥士さんと藤村龍至さんからお話を伺いたいと思います。

内田さんは「現代建築の営繕──分譲マンションをストックとして活かすための課題」(『新建築』2017年2月号、新建築社)のなかで「営繕」という言葉をキーワードに、現代のマンションにおける設備と集住のあり方について問題提起をされています。一方、藤村さんは埼玉県大宮市などでの公共のプロジェクトを通じて、単にひとつの建築物をつくるというだけでなく、市民たちも自ら参加して都市を運営していくためのさまざまな新しい試みを実践として行なっています。お二人はともに、産業や社会、都市といった大きな枠組みを、机上ではなく建築の実践の問題として捉え直そうとしている点で、近い視点、近い問題意識をもっておられるのではないかと考えています。

まずは藤村さんが取り組んでいるプロジェクトについて伺います。大宮駅前につくられた《OM TERRACE》はまさしくパブリック・トイレを含んだ施設となっていますね。

内田祥士と藤村龍至

内田祥士(うちだ・よしお) 左
1955年生まれ。建築家、東洋大学教授。主な作品=《茅野市神長官守矢資料館》(藤森照信+内田祥士、1991)、《妙寿寺庫裏》(1995)、《秋野不矩美術館》(藤森照信+内田祥士、1998)、《人間環境デザイン学科実験工房棟》(久米設計+内田祥士、2005)ほか。著書=『東照宮の近代──都市としての陽明門』(ペリカン社、2009)ほか。『営繕論──希望の建設・地獄の営繕』(NTT出版)を近刊予定。

藤村龍至(ふじむら・りゅうじ) 右
1976年生まれ。建築家、東京藝術大学建築科准教授。RFA主宰。主な作品=《BUILDING K》(2008)、《鶴ヶ島太陽光発電所・環境教育施設》(2014)、《OM TERRACE》(2017)ほか。著書=『3・11後の建築と社会デザイン』(三浦展との共編、平凡社、2011)、『批判的工学主義の建築──ソーシャル・アーキテクチャをめざして』(NTT出版、2014)、『プロトタイピング──模型とつぶやき』(LIXIL出版、2014)ほか。

藤村龍至:

はい。私は2000年代まではインテリアや集合住宅の設計に取り組んでいたのですが、2010年代からは埼玉県の鶴ヶ島市やさいたま市、愛知県の岡崎市などで公共のプロジェクトにも携わるようになりました。

《OM TERRACE》(2017)はそうした公共のプロジェクトへの取り組みのひとつの成果として竣工しました。複数の機能をもつ施設ですが、申請上は「公衆便所」となっています。経緯から説明しますと、敷地である大宮駅東口の駅前には1970年代初頭に建てられた小さな公衆トイレがありました。繁華街の入り口にあることもあって利用率が高く、下水道の使用状況をみるとさいたま市内で段違いに頻繁に使われていたことがわかります。その設備の老朽化が進んだことと、2017年の世界盆栽大会、2020年のオリンピック、パラリンピックなどのイベントの開催を踏まえ大宮駅周辺の「おもてなし機能」を高めることを目的にプロジェクトが企画されました。

設計に際しては大宮駅周辺の「おもてなし機能」について地元と意見交換を重ねながら設計するという条件があり、設計者に選ばれました。当初はコンクリート製の公衆トイレ用の既製品を並べ、前庭を少し設える程度の想定だったと思いますが、意見交換会で議論を重ね、設計上の工夫を重ねた結果、最終的には1階にはパブリック・トイレと駐輪場、屋上に広場的な機能をもつテラスを設ける立体的な施設になりました。

今後の再開発にともない早ければ5年ほどで解体されるかもしれないという暫定利活用を前提として整備された施設ではあるのですが、状況によってはそれ以上存続する可能性もあるため、構造は恒久施設と同様の仕様でつくっています。

《OM TERRACE》

《OM TERRACE》(写真=太田拓実)

左下:1階平面図、左上:屋上平面図、右下から上へ:南北断面図、東西断面図、北側立面図、西側立面図

左下:1階平面図、左上:屋上平面図、右下から上へ:南北断面図、東西断面図、北側立面図、西側立面図(提供=RFA)[クリックで拡大]

内田祥士:

トイレの清掃はどのくらいの頻度で行なうことになっているのでしょうか。

藤村:

1日4回、6時間ごとの清掃です。旧公衆トイレは一日3回の清掃だったのですが、担当課に綺麗なトイレにしたいという意思があったため、4回の清掃を行なうことで管理の質を上げようということになりました。通常よりも多い予算を設定して、業者にも費用面などで交渉を重ねたようです。公共トイレでこれほどの頻度で清掃をやっているのは、さいたま市のなかではおそらくここだけだと思います。

内田:

公共トイレと呼ばれるものにはいろいろな種類があるなかで、どのあたりまでを「パブリック・トイレ」と呼ぶべきか、その定義についての議論をするようなことはありましたか。

藤村:

担当課の担当者から「大宮東口のまちづくりの起爆剤になるような、いままでにないトイレにしたい」という要望がありました。駅のトイレ、デパートのトイレ、高速道路のサービスエリアのトイレ、観光地のトイレなどの事例をリサーチし、近年の節水型トイレや換気の技術、ベビーカーへの対応など、最近のトレンドを一通り学習すると、印象的なのは近年のトイレがトイレそのものの役割を超えて、街の価値を高めたり、施設全体の価値を高めるブランディングの装置になっているということでした。

内田:

僕からすると、高速道路や駅中は、「パブリック・トイレ」からはやや距離があるように見えます。ですが実際にこの街で取り組まれた藤村さんは、公共/商業とは別の、もっと上位概念でこのパブリック・トイレを捉えているわけですね。

藤村:

そうですね。最近公共の場面でもよく使われる「おもてなし機能」という不思議な用語がそれに該当します。そのためには建築の意匠もそれにふさわしいものになっていなくてはいけない。例えばテラスの手摺のデザインも、多くの市民に使われる公共施設をつくる感覚だと、金属のフラットバーか荒々しくならない程度の金網などが適切かと思われますが、ここでは地元商店街の方々や担当課の方に正面だけでもフィルム貼りのガラスにしてほしいと言われました。いわゆる公共トイレ然とした無個性で堅いものとせず、商業施設に求められるような個性や柔らかい表情をもってほしいということですね。かといって商業建築のインテリアのトレンドに合わせたデザインをただ施せばよいかというと、それはそれで過剰だと批判される可能性がある。あくまでも公共施設のイメージの範疇での「おもてなし機能」を備えた施設として、どのような意匠にしていくべきかということが設計者に委ねられた課題となりました。

結果的に竣工後の反応はおおむね好意的で、特に見学会で市の幹部職員に見てもらったときには「公共施設としていいバランスですね」とのコメントがあり、手応えを感じました。

《OM TERRACE》の手摺と電照式サイン

《OM TERRACE》の手摺と電照式サイン(写真=太田拓実)