対談 6

施設から住まいへ──半パブリック空間のトイレ考

仲俊治(建築家、仲建築設計スタジオ) × 金野千恵(建築家、teco)
司会:浅子佳英

《食堂付きアパート》《五本木の集合住宅》(仲建築設計スタジオ、2014、2017)

それからもうひとつ、「住宅を開かれた存在にする」という浅子さんの文脈に沿うものとして、2014年につくった《食堂付きアパート》を紹介したいと思います。ここは職住一体型の住宅が5戸集まった集合住宅で、その1階が食堂になっているという建物です。個人の仕事や特技が外と関わっていく大きなベクトルになるのではないかと考え、家のなかにそういう「小さな経済」を生み出すための場所をつくろうと試みました。そのときに大きな問題として立ちはだかったのがトイレなんです。

《食堂付きアパート》

《食堂付きアパート》(提供=仲建築設計スタジオ)

実際にプランを見てもらうのがわかりやすいかと思いますが、スタジオと呼ばれる仕事場が玄関側にあって、その奥にプライベートな場所として寝室やサニタリー(トイレ、浴室)がある。これはどの住宅も形は違えど同じ仕組みになっています。このトイレに寝室側から行けるようにするか、仕事場から行けるようにするか、そこが設計をしていて悩みに悩んだところです。ふつうの住宅であれば家族しかいないので、寝室からトイレに行けるようにしても問題はありませんが、仕事場にスタッフやお客さんが来るとなると、トイレにアクセスするために寝室を通らなければいけません。では仕事場からトイレに入れるようにすればいいかというと、今度は逆にふつうに生活するうえでは不便だったり、壁が少しでも多いほうが物が置けて都合がいいということもあり、それはそれでベストの解決とはいいがたい。それで頭を悩ませながらあれこれスタディをして、最終的には寝室から入れるかたちにして、スタッフやお客さんには半地下にある食堂とシェアオフィスの共用トイレを使ってもらうように整理しました。

ここで重要なのは、家がふつうとは少し違った機能や用途――この場合は仕事場ですが――を持ち始めると、途端にトイレのあり方が大きく変わってしまうという点です。ふつうのトイレならこうだろうという前提が通用しなくなって、基本的なところから考え直さざるをえなくなる。じつはそういう問題は家中のあちこちに転がっています。たとえば、テレビやLANの端子をどこに付ければいいかとか、キッチンの大きさをどうするかとか、あらゆることが問題として立ち上がってくる。そのことで家中のいろいろな設備や家具が、じつは強固な前提に支えられていたことに気づかされるわけです。

同、3F平面図

同、3F平面図(提供=仲建築設計スタジオ)[クリックで拡大]

同、2F平面図

同、2F平面図(提供=仲建築設計スタジオ)[クリックで拡大]

同、1F平面図

同、1F平面図(提供=仲建築設計スタジオ)[クリックで拡大]

同、B1F平面図

同、B1F平面図(提供=仲建築設計スタジオ)[クリックで拡大]

同、断面

同、断面(提供=仲建築設計スタジオ)[クリックで拡大]

最近竣工した《五本木の集合住宅》(2017)も、仕事場を内包した住宅が3戸集まった集合住宅です。《五本木の集合住宅》では玄関側にある仕事場からも、その奥にある寝室からもトイレに行けるようにしています。そうなると動線が長くなるぶんトイレも大きくなるので、それを逆手にとって、サニタリーを仕事場のバックアップのスペースとして捉え直そうとしました。そこにコピー機を置いたり棚をつくって備品をストックできれば、仕事場のほうもスッキリするだろうと思い、トイレをパブリックな仕事場とプライベートな個室の中間領域として位置づけようとしました。

《五本木の集合住宅》

《五本木の集合住宅》(撮影=鳥村鋼一)

同、1階平面

同、1階平面(提供=仲建築設計スタジオ)[クリックで拡大]

浅子

トイレのあり方について言うと、《五本木の集合住宅》のほうが広くしたことでよりうまく解決しているように見えます。しかし、《食堂付きアパート》のほうは解決しているかいないかのギリギリのせめぎ合いが垣間見えるぶん、かえってより面白い事例になっていると感じました。《食堂付きアパート》のトイレの場合、住宅であるにもかかわらずほとんど公衆トイレのような機能を持っている。しかも、最初からそうしようと意図したのではなく、住宅と仕事場を一緒にしたときに、機能的に解決しようとしたら結果的に公衆トイレを生んでしまったといえるわけで、非常に示唆的です。もしかしたらこういうトイレこそが、住宅とトイレのせめぎ合いのなかから生まれてくる新しい公共のあり方といえ、次のパブリック・トイレのひとつのひな型になりうるかもしれないと感じました。とても面白い展開だと思います。

金野

公衆トイレが嫌厭されるのは、やはりどうしても清掃がなされていない、清潔といえないという印象のトイレが多いことだと思います。《食堂付きアパート》の共用トイレは、どこの所有ともつかない、不思議な場所に位置するトイレだと思いますが、このトイレは誰がメンテナンスするんですか?

食堂のシェフの方がやります。はじめは食堂のなかにつくろうとしたのですが、ただでさえ10坪しかないなかでトイレをつくるというのもうまくないだろうと。使用時の音の問題などもありますし。それでひとまずは保留にしておいて、住宅が5つもあるのでまずはそちらから整理していこうと考えたのですが、先ほども言ったように住宅は住宅でトイレの問題が出てきた。そのときに、だったら地下にあるシェアオフィスのトイレの占有を緩めて共用化すれば、上階の仕事場を訪れた人も食堂に来た人も利用できるんじゃないか――という具合に、一気にパズルが解けたのです。

浅子

共用部にトイレがひとつあるだけで、全体のプログラムが劇的に変わったわけですね。しかも、この建物は「街に開かれた住宅」を目指したということですから、コンセプトともうまく合致します。

廊下とテラスを兼ねたスペースを路地と呼んでいるのですが、その路地には駐輪場があったり、洗濯機が置けるようになっていたりして、そのひとつとしてトイレがあるという感じですね。建物のなかを行き来しながら生活するイメージです。

浅子

路地の空間は完全なパブリックというわけでもないですよね。半分外に開いてはいるけれど、誰もが入れる場所でもない。「半パブリック」という不思議な状況をつくり出している。

金野

たしかにそうですね。駐輪場、洗濯機、トイレなど、建物全体のなかで、顔の見える共同体によって管理されている部分が多く、それらが半分街に開いて半パブリックになっているというのが面白いですね。食堂のシェフのように、専門の管理人さんじゃないメンバーが管理をして支えていることもポイントかもしれませんね。たしか、見学させてもらったときに宅配物まで受け取ってくれると聞き、食堂をはるかに超えた機能を果たしていると感じました。

それは大きかったですね。とくに初代のシェフの方は前例がないなかでいろいろ気を利かせてやってくださって感謝しています。

浅子

ちょっと敷衍して言えば、いまはコンビニがそういう施設になっていますよね。トイレもあるし、宅配物も受け取ってくれるし、もちろんご飯もある。しかし一方で、コンビニで働いている人を僕たちはロボットのように扱っているところってありませんか。僕個人がそう思っているわけではないのですが、一般的には言葉を交わすことすら面倒と思われているフシがあるというか。

金野

店員さんの名前を知らなくても、機能的には問題ありませんからね。

ただ、機能はしますが、実際は行きつけのコンビニだと知っていたりするじゃないですか。買い物に行って「あの人、よくシフト入ってるな」と気になったり(笑)。個人的にはそういう人間的なところに可能性を感じますね。

浅子

僕はどうしてもシステムのことが気になってしまうのですが、たしかにいまは非人間的になりすぎているのかもしれません。いまのコンビニはかなり無理をしている感じがして、24時間営業していることもそうですが、それを支えている店員にしても棚卸しから、宅急便の受け付けをしたり、唐揚げを揚げたり、トイレを掃除したり……と考えると、あまりにもやることが多すぎる。利用する側としてはすごくありがたいのですが、正直、僕はあれはやめたほうがいいと思っています。夜は0時くらいで店を閉めて、規模も小さくして、コンビニによって売っているものもまちまちだけれど、店員の顔が見える――。つまり、《食堂付きアパート》の食堂のような存在に近づいたほうが、じつはみんな幸せになれるんじゃないかという気がするんです。1階がコンビニになっているマンションって多いじゃないですか。そこが荷物を受け取ってくれて、ご飯も提供してくれるとなれば、自然と顔の見える人間的な関係になるし、そこのトイレを使うときには、掃除している人の顔がわかるから汚さないように気をつけるようになる。そういう循環が生まれればいいですよね。