パブリック・トイレ×パブリック・キッチンを提案する 1

K大学本館トイレ改修計画

村山徹+加藤亜矢子(ムトカ建築事務所)

これまでの「パブリック・トイレのゆくえ」では、リサーチによる考察が多く見られ、その展開の可能性を感じさせるものであった。そこで私たちは次のフェイズとして、実践的な計画を元にした、現実的なアイデアをもった提案をしたい。

パブリック・トイレについて考える時に、大学キャンパスのトイレというのは、とても興味深い場所である。大学は、知的好奇心旺盛な未来を担う若者が集まり、つねに新しい思想やアイデアが生まれるイノベーションが起こりやすい場所だと言える。お茶の水女子大学が2020年度から、戸籍上は男性だが、心の性別が女性のトランスジェンダーの学生を全学部で受け入れることを決めたことは記憶に新しいが、はたして、これからの大学のトイレはどうあるべきなのだろうか? そのようなことを踏まえて、以前にわれわれが実際の仕事として提案を行なった「K大学本館トイレ改修計画」を紹介する。

K大学の本館トイレの改修計画は、老朽化および台数不足の解消、女子学生への配慮を主な目的とし、ムトカ建築事務所とINAX(現LIXIL)の共同で設計を行なったものである。K大学は、キリスト教系の大学であり、「世界人権宣言」(国際連合総会決議、1948)の原則を重視した大学である。すなわち、社会における個人の権利が尊重され、性、人種、宗教、年齢、性的指向などに基づく差別をなくすべきだという理念をもっている。これは日本において、トランスジェンダーの人々にとっては大変受け入れられやすく、肌身にあった環境だと言える。

日本のトイレ・ピクトグラム・サインは、男性が青、女性が赤であることが一般的である。これは、1964年の東京オリンピックが契機となったと言われている。そして、現在でもその認識は根強く定着している。内装に関しても、昨今では木目調フィルムを貼ったものや装飾的な壁紙を用いたものが多く見られるが、これまではそれぞれ青と赤を基調とした単色になっているものも多く見られ、そのことがトイレとジェンダーの色彩に関する私たちの認識をより画一的なものにしてきた。

そこで私たちは、K大学の理念を実現することを念頭に、「カラーによるバリアフリー」をテーマに改修計画を行なうこととした。改修する本館には、7カ所のトイレがある。まずは前段として、物理的な問題点である、台数の確保、パウダースペースの新設、多目的トイレの新設から着手した。

K大学本館トイレの配置計画

K大学本館トイレの配置計画
以下、すべて図版提供=ムトカ建築事務所

 

そして、一般的に男子トイレは青、女子トイレは赤というカラー・イメージで区分されているが、この点を変えることを意識し、新たなパブリック・トイレのあり方を模索した。

 

7カ所のトイレを、男子トイレをブルー、女子トイレをピンク、多目的トイレをイエローに塗り分けたダイアグラム

7カ所のトイレを、男子トイレをブルー、女子トイレをピンク、多目的トイレをイエローに塗り分けたダイアグラム

 

はじめに、各々のトイレを機能ごとに「エントランススペース」「ブーススペース」「小便スペース」「手洗スペース」「パウダースペース」という5つのスペースに分けた。

 

7カ所のトイレを機能に合わせて5つのスペースに分割したダイアグラム

7カ所のトイレを機能に合わせて5つのスペースに分割したダイアグラム

 

そしてそれらに、ホワイト、ベージュ、ピンク、グリーン、ブルーの5色(この5色はINAX[当時]の衛生器具のカラーからきている)をシャッフルして任意に割り当てることとした。それぞれのスペースの衛生器具、壁タイル、床タイルをこの5色を用いて機能とは無関係にランダムに仕上げた。どのトイレに入っても一様に同じではない機能と男女多目的のカラーの不一致は、複雑な様相を呈し、その全体性から画一的な認識をずらしていく。そうすることで、性の区別、多目的トイレとの区別をなくし、さらには多様な性的指向にも対応できると考えた。

 

7カ所のトイレの5つの機能及び男女多目的の区別をせず、5色のカラーを任意に割り当てたダイアグラム

7カ所のトイレの5つの機能及び男女多目的の区別をせず、5色のカラーを任意に割り当てたダイアグラム

7カ所のトイレのダイアグラム変遷

7カ所のトイレのダイアグラム変遷

東女子トイレのイメージパース

東女子トイレのイメージパース

INAX(当時)の衛生器具とタイルのカラーサンプル。上段が衛生器具カラー、中段は床用50角タイル、下段は壁用25角タイル

INAX(当時)の衛生器具とタイルのカラーサンプル。上段が衛生器具カラー、中段は床用50角タイル、下段は壁用25角タイル

 

この計画は、10年前の2008年にLGBTs(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender)といった言葉がまだ世間に浸透していない時期に、ひとつの大学の理念に基づいて生まれた提案である。その後、東日本大震災や2020年東京オリンピックの決定など、日本の社会情勢は大きく変化しているが、そのなかにおいて、いまだパブリック・トイレには大きなイノベーションは起こっていない。しかし、東京オリンピック開催や観光大国をめざすという国の方針において、LGBTsなどの問題を含めたパブリック・トイレの抜本的変革が必要になるだろう。その足掛かりとして、この「K大学本館トイレ改修計画」の「カラーによるバリアフリー」は、大学のトイレにとどまらず、広くパブリック・トイレにおいて普遍的なあり方になりうる可能性があると、私たちは考えている。

村山徹(むらやま・とおる)

1978年生まれ。建築家。ムトカ建築事務所共同代表。関東学院大学研究助手。

加藤亜矢子(かとう・あやこ)

1977年生まれ。建築家。ムトカ建築事務所共同代表。大阪市立大学非常勤講師。明治大学兼任講師。

主な作品=《N邸》(2013)、《赤い別邸》《ペインターハウス》(2014)、《小山登美夫ギャラリー》(2016)、《ファーガス・マカフリー東京》(2018)など。