国内トイレ×キッチン・サーベイ 2

パブリックを持ち寄る。みんなで食べる。

宮崎晃吉(建築家、HAGI STUDIO代表)

パブリックな場としての「最小文化複合施設」

私は現在、東京台東区の谷中という町で株式会社HAGI STUDIOという設計事務所を構えつつ、3軒の飲食店と1軒の宿泊施設、1軒の教室空間を運営している。正確にはこれらを運営する会社の一部門として設計部門が位置づけられている。設計することと運営することを同時に試行錯誤している毎日だ。

谷中での取り組みのきっかけとなった施設であるHAGISOは「最小文化複合施設」というコンセプトで2013年3月より運営している。これには、民間の運営で小さいながらも公共的な空間を運営するという意図が込められている。そもそも飲食店は不特定の人々が居合わせる場として、非常にパブリックな場である。さらにHAGISOの場合は月替わりで展示の替わるギャラリーをもっていることで、お金を払わなくてもそこにいてよい空間を提供している。そんな場を起点にいろいろな出来事が日常的に生まれている。

HAGISO内のカフェHAGI

HAGISO内のHAGI CAFE
以下、特記なき写真はすべて筆者撮影

CAFÉの店内とキッチン

HAGI CAFEの店内とキッチン

まちの教室KLASS

2017年、HAGISOの2階にあった設計部門の事務所が人数も多少増えてきたことで手狭になり、新たに賃貸物件を探すことになった。しかし、ここは都内。賃料も安いわけではなく、設計部門の売上を考えると普通の賃貸物件を借りることに躊躇していた。そんな時に知り合いの不動産屋を介して見つけたのが、千駄木駅徒歩0分の立地に位置するビルの2階だった。スケルトン状態のフロアは約100㎡あり、もともとは雀荘とカラオケスナックだったという。

ある日この建物オーナーに会えるというので、勝手にプランと事業計画をつくってプレゼンに行った。そのプランは約半分を設計事務所として使用し、半分は地域の教室として運営するというものであった。オーナーは面食らった様子もあったが、地域の不動産オーナーとして、ただの飲食チェーン店などに使用させること以上の意味を感じとってくださり、私たちに非常に良心的な賃料でこの場所を使わせることを決めてくれたのである。

KLASSと名づけたその場所は、「まちの教室」を標榜している。教室は、奥半分を占める設計事務所とはガラスの壁と棚で仕切られたニュートラルな空間で、ビルの2階にありながら、大通りの向かいにあるバス停からも、大きな窓を通して中の様子がよく見える。いわゆるカルチャー・スクールほどには肩肘を張らず、地域の人たちが自分たちの経験や知識を町の人々に還元する場としてつくられている。教え、教わる関係を補い合っていくことで、いわゆる「普通の人々」の隠れた能力を掘り出し、顕在化しようとする試みだ。運営形式も、なるべく「教える人」のハードルを低くするために参加料から歩合で講師料を支払うかたちをとっており、われわれと集客リスクを共有している。

HAGI STUDIOとKLASSの平面図

HAGI STUDIOとKLASSの平面図

まちの教室KLASSでの講座の様子
まちの教室KLASSでの講座の様子
まちの教室KLASSでの講座の様子

まちの教室KLASSでの講座の様子

KLASSにはアイランド型のカウンターと一体となったキッチンが据えられている。キッチンは、教室部分ともカーテンで仕切れるようになっており、設計事務所の空間と教室空間をつなぐ位置に配置されている。KLASSでの料理教室の利用はもちろん、設計事務所のスタッフが昼食や夕食をつくるためにも使われている。

KLASSと設計事務所HAGI STUDIOはガラスの壁によって遮りながらつながっている

KLASSと設計事務所HAGI STUDIOはガラスの壁によって遮られながらつながっている

KitchHike(キッチハイク)

このKLASSで教室以外に現在週2回程度の頻度で定期的に開催しているのが、KitchHikeによる「みんなの食卓」、略して「みん食」である。KitchHikeの公式ウェブサイトには、

キッチハイクは、食べることが好きな人がつながる「みん食」コミュニティサイトです。みんなでごはんを食べる場、食をきっかけにつながる機会、新しいコミュニケーションの形を提供しています。

とある★1。具体的には、ウェブ上のポータルサイトであるKitchHikeのサイトにおいて、町のなかのキッチンを提供したいオーナーと、料理をふるまいたい「COOK」(料理するひと)と、料理を食べたい「HIKER」(食べるひと)をマッチングするサービスである。これによって催される食事会を「Pop-Up」(人が集まるごはん会)と呼んでいる。まずCOOKとキッチンがマッチングされ、サイト上に特定の日時・場所のPop-Upが公開される。続いて、HIKERたちが都合や好みに合わせて参加を表明する。食事の対価はこの時点で決済され、あらかじめ集金される。ここから食事の原材料費用、COOKの報酬、キッチンの使用料が支払われる。

KLASSはここにキッチンとダイニングを提供しているわけだ。人数分の材料はあらかじめ宅配で届けられる。夕方になると、COOKがやってくる。毎回同じCOOKとは限らない。それでも慣れたCOOKはおもむろに支度をはじめ、料理を開始する。19時頃になると料理は完成し、HIKERたちが集まってくる。COOKとHIKER、もしくはHIKER同士の多くは初対面だが、挨拶もそこそこに「きょうのご飯はなんですか?」などと会話しつつ、自分で配膳していく。その日のHIKERが集まり7時半になったところで「いただきます」。限りなく家庭的な料理はリラックスした会話を促す。食事が終わると当然のようにみんな自分の食器を洗い、それぞれ帰っていく。現地でのお金のやりとりもないので、純粋に食事と会話を楽しんで自然と帰っていく。こんな不思議な一晩だけの家族の食卓のような光景が見られるのだ。

KitchHike
KitchHike

写真提供=キッチハイク

参加者の多くは近隣に住む単身者や周辺の職場の仕事帰りの人々で、当然それぞれの家にキッチンを持っているものの、ひとりで食事をつくることの歩止まりの悪さの解消や、コミュニケーションを求めて集まってくる。都市において過剰に開発・供給されるワンルームマンションなどによって分断された個の単位を補完するかたちでこのような場が生まれてきているのだ。

パブリックの持ち寄り

じつは現在、この地域内に妻の両親が土地を購入したことをきっかけに、新築の自宅を計画している。3階建ての住宅の計画だが、ここにも1階に地域に開かれたスペースを用意する予定だ。地域のなかの私的空間からすこしずつ開かれた場を持ち寄り、それらがつながっていくことでどのような都市生活が描けるのかを、試行していこうと考えている。


★1──「KitchHike」公式Webサイトより。

宮崎晃吉(みやざき・みつよし)

1982年生まれ。株式会社HAGI STUDIO代表取締役。建築家。東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を展開。また、全国の地方都市での講演活動や、遊休不動産の活用へ働きかける「リノベーションスクール」の開催に協力し、既存都市の価値再発見に努めている。