住宅のユーティリティ再考

3組の建築家が考えるこれからの水回り

浅子佳英(建築家、進行)× 増田信吾(建築家)× 村山徹(建築家)

『新建築住宅特集』2016年9月号 掲載

「住宅のユーティリティ再考」と題し、2回にわたり住宅の水回りからこれからの建築を考える試考をしています。第1回は、「風呂とトイレ」に着目し、その空間のあり方においてエポックとなる住宅を『新建築住宅特集』『新建築』からピックアップし、分析・編集を行いました。第2回は、タカバンスタジオ、ムトカ建築事務所、増田信吾+大坪克亘の3組の建築家に「これからの水回り」をテーマに新しい住宅のアイデアを提案してもらい、それをもとに座談会を行いました。

未踏の場所

浅子:

住宅である以上ユーティリティは必須のものです。現代はシェアハウスや職住一体など、さまざまな社会背景の変化の中で住宅の前提が問われ、多様な実践が見えてきています。しかし、その中でユーティリティは驚くほど変化していません。ユニットバスやシャワートイレなど、器具レベルでの進化はありましたが、1坪ほどの部屋を廊下や共有スペースに附属する形で配置するという、その空間やプランニングの改革は行われていない。こうた今まで未踏の要素だった住宅のユーティリティを変えることは、次なる可能性を切り開くことに繋がるのではないでしょうか。今回は「これからの水回り」をテーマにして新しい住宅のアイデアを、私を含めた3組の建築家に提案してもらいました。まずは提案について簡単に説明してください。

増田:

僕たちの提案は、水回りをリビングや寝室といった居室とは別にして、通りからのアプローチや隣地からのセットバックの余白など、外構に溶け込ませることです。結果的に玄関やベランダを内含しました。アイデアを考えるにあたってふたつの点が気になっていました。ひとつは、ユーティリティは圧倒的な内部性を持つにもかかわらず、防水や防火のために外部的なスペックになっているというチグハグさです。もうひとつは住宅の中で水回りは居室ではないため、設計においての優先順位が低いにもかかわらず、都市の狭小住宅にとっては大きな面積を占めてしまうことです。そこで、ユーティリティを外構に溶け込ませることで、独立したものとして光を取り込み、敷地に奥行きを与える存在として昇華させる可能性をもたらせることを提案しました。

「これからの水回り」提案1
住宅に新たな奥行きをもたらす「外構」としてのユーティリティ

いえまわり

増田信吾+大坪克亘

住宅におけるユーティリティは基本的に閉じている。リビングやベッドルームである「居室」をなるべく広くとりたいという一般的な要望からすると、「居室」ではないユーティリティの扱いは、敷地の奥や隅で効率よくまとめたい程度の存在であり、それらを直接的に明るく広々とすることは余剰なことである。しかし、部屋に施される開口部の先の「外構」に広がりをあまり期待できない住宅密集地において、閉じて切り離されたユーティリティを開きたくなる場所にすれば、使用していない大半の時間を「居室」にとっての「奥行き」として還元でき、貴重な広がりになる。東京の住宅密集地に敷地を想定し、敷地中央のスペースと、隣地に接するスペースに分けてみる。中央のスペースには「居室」をなるべく広くとり、隣地に接するスペースにはアプローチ、植栽、駐車スペース、塀、バルコニー、玄関前、門扉、室外機などの「外構」に関係するものを配置した。そしてそこに光を取り込んだり、床を連続させながらユーティリティを「外構」に溶け込ませた。
ユーティリティの位置付けを「居室」ではなく「外構」へ近づけ、それらが合わさることで、住宅の中の閉ざされた機能優先の空間と住宅と都市の間にあるただの余白だったものが「奥行き」となり重要性が増す。これはユーティリティを含む「外構」設計の必要性が必然となることにも繋がる。生活と都市の風景が無理なく連続性を持つ、密実に奥深くなる提案である。

東よりユーティリティを見る。手前は風呂、奥はキッチン。
リビングよりユーティリティを見る。

このコラムの関連キーワード

公開日:2017年04月30日