小規模店舗のトイレデザインについて考える
── 野崎亙さん(スマイルズ)と永山祐子さん(永山祐子建築設計)に聞く

野崎亙(スマイルズ)、永山祐子さん(永山祐子建築設計)

『商店建築』2017年11月号 掲載

野崎亙さん( スマイルズ)と永山祐子さん( 永山祐子建築設計)に聞く

昨年4月、東京・自由が丘にオープンした「also Soup Stock Tokyo(オルソ スープストックトーキョー)」。スープだけでなく、お酒やコース料理も楽しめる「Soup Stock Tokyo」の新業態である。外壁の2面をガラス張りとした開放的な店内の1階には、唯一クローズドな空間となるトイレを設置している。
同店を手掛けたクリエイティブディレクターの野崎亙さん(スマイルズ)と設計者の永山祐子さん(永山祐子建築設計)に、空間全体とトイレの関係性や、小規模店舗におけるトイレの在り方、トイレが持つ今後の可能性について聞いた。

街が持つ特徴を店内に受け入れる

編集部:

トイレについての話をお伺いする前に、まず「also Soup Stock Tokyo」ができるまでのストーリーをお聞かせください。

野崎:

東急・自由が丘駅の構内にある「Soup Stock Tokyo」を通して、街との親和性を感じており、路面店をオープンした際にもお客様に来ていただけるという自負はありました。ただ、出店にあたって、紋切り型の店をつくることに意味があるのかという自問がありました。自由が丘という街の佇まいや在り様に、店が寄り添うことが求められているように感じたのです。
「Soup Stock Tokyo」は女性のお客様から多くの支持をいただき、お一人でも、ほんの短い時間でも、ゆったりと過ごしていただいています。改めて、休日に訪れたり、誰かと一緒にお酒と食事を楽しんでいただけるような店をつくりたいと考えたのが、「also Soup Stock Tokyo」のプロジェクトのスタートでした。
建築から手掛けるにあたって、主張が強かったり、威圧感があるような仰々しい建物はつくりたくありませんでした。建物自体が人々の営みの脇役になり、人が入ることによって存在感が生まれる。絵の額縁のような店にしたかった。店が街に開けているというよりは、限りなく街が店内に侵食してくるようなイメージがありました。
永山さんとの最初の打ち合わせでは、朝の通勤で店前を急ぐ人々がスープを仕込む匂いを感じながら去っていく、テラスでママ友達が集まって運動会の上映会をやっているなど、ひたすら店と人とが関わるシーンの話だけをしました。

永山:

運営コンセプトについて、こんな風に説明を受けたのは初めてでした(笑)。立地は、自由が丘の通りの面白さが敷地内に連続しているような角地になります。ここに3層の路面店をつくるという条件が決まっていました。内部空間を通りの延長として捉えると共に、上階までの見通しを良くするには断面的に考えていくのが良いだろうと、野崎さんとのやりとりの中で直感しました。1階の開口部は4連のガラスの引き戸で構成し、開放すると道路とフラットにつながります。また、2層分の高さでスキップフロアを構成することで、どこに座っても上階と下階、そして街を眺められるようにしました。全ての席がそれぞれ良いと感じてもらえることを意図しています。

のざき・わたる/クリエイティブディレクター。1976年生まれ。イデー、アクシスを経て、スマイルズに入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブを統括している。主な仕事に、「Soup Stock Tokyo 中目黒店」や「PAVILION」のデザイン監修など
ながやま・ゆうこ/建築家。1975年生まれ。青木淳建築計画事務所を経て、永山祐子建築設計を設立。住宅設計のほか、ブティック、カフェ、ホテル、商業ビルなど幅広く設計を手掛ける。主な仕事に、「西武渋谷店A・B館5階」、「Henri Charpentier 芦屋本店」など

デシャップカウンターの脇につくられたトイレデシャップカウンターの脇につくられたトイレ。誰でも利用できるよう、1階のこの場所につくられた

スキップフロア路地が立体的に続いていくような構成を意図したスキップフロアを見下ろす
外観外観。1階客席のガラスの引き戸は全面開放ができ、東京・自由が丘の通りのイメージを店内に引きこむ

開放的な店内で閉鎖的な空間となる

編集部:

「also Soup Stock Tokyo」のトイレは、1階のデシャップカウンターの脇にありますね。

野崎:

トイレや厨房などの水回りは、給排水設備の関係もあり、計画の初期段階から考察を始めました。店内を吹き抜けにしたことで、席数の確保が難しく、トイレの設計にもかなり苦労したのを覚えています。設置箇所は1階なのか2階なのか、個室は一つなのか二つなのか、計画の途中で何度も検討を重ねました。飲食店は、トイレの印象が悪いとすべてが「終わり」になってしまうという感覚を持っています。清潔感を含めて、お客様が納得できるものでなくてはならないのです。

永山:

打ち合わせでは、トイレに関することに最も多くの時間を割いたように思います。これだけオープンな空間の中で、トイレだけがクローズドになる。それをどう処理するのかが、大きな課題になりました。最終的には、多少分かりづらいですが、外から目隠しになる場所であることから、1階の階段下のレジと厨房の間に設置することに決まりました。店内にトイレ然としたものがあるのも嫌だったので、家具を設置するように、「箱」を入れ込んでいます。またサインは、アーティストの阿部亮太郎さんに大理石を削り出した作品をつくってもらいました。湾曲した“restroom”の文字は、ぱっと見ただけではサインとは思わないでしょうが、トイレに行きたいと感じた人には、しっかりと認識してもらうことができます。ちなみにトイレは、厨房のスペースに少し食い込んだように配置していますが、それにより、お客様から洗い場の存在を隠すことにもつながっています。

野崎:

お子様や犬を連れていらっしゃるお客様も少なくありません。そういった方々にも寄り添った店づくりをしたいという思いもあり、階段を上がる必要のない1階のこのスペースは、ベストポジションだったと思っています。

「a dainty place」トイレのサインは、アーティストの阿部亮太郎氏が大理石を削り出した作品「a dainty place」

このコラムの関連キーワード

公開日:2018年07月31日