特別記事:「Good Job! Center KASHIBA」から考えるトイレの試み

好きな環境を選ぶことのできる寛容さ

インタビュー:森下静香(Good Job! Center KASHIBA センター長)× 大西麻貴+百田有希(建築家)

(『新建築』2018年4月号 掲載)

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o+h事務所で行われたインタビューの様子大西麻貴+百田有希 / o+h事務所で行われたインタビューの様子。左から百田さん、大西さん、森下さん。

2016年9月に奈良県香芝市に竣工した「Good Job! Center KASHIBA」は、福祉施設における文化芸術的活動を実施・支援している市民団体「たんぽぽの家」の新しい活動拠点で、ここでは企業や大学など福祉の分野を超えた連携により障がいのある人の個性や創造性を活かした仕事の開発に取り組んでいます。
センター長である森下静香さんと、設計をされた大西麻貴さん、百田有希さんに、福祉施設におけるこれからのトイレのあり方についてお話をお伺いしました。(編)

分野を横断し、障がいのある人の仕事を生み出す

森下静香森下静香

──「たんぽぽの家」は、“アート”と“ケア”の視点から多彩なアートプロジェクトを実施されていますが、「Good Job! プロジェクト」など、具体的にどのような取り組みをされているか教えてください。

森下静香(以下、森下):

「たんぽぽの家」がスタートした1970年代の初めは、障がいのある人にとって特別支援学校の高等部卒業後の進路というと、自宅に閉じ込もりがちになったり、あるいは、自宅から遠く離れた山深い環境の施設に行ったきりになるというように、選択肢がまだまだ少ない状況でした。そんな状況に対して、生きがいを持って自宅から通いながら働いたり暮らすことができるような場所をつくりたいと、障がいのある当事者やその家族、また、市民も参加して活動を行ってきた団体が「たんぽぽの家」です。
「たんぽぽの家」の活動の特徴に、芸術文化的な活動を取り入れていることがあります。その理由のひとつとして、重度な障がいのある人たちも多く、いわゆるそれまでの障がい者施設や作業所のように企業からの下請けで内職のような単純作業を行うことが難しかったということがあります。できないことを無理に訓練してやっていくよりも、できることやその人の好きなことを伸ばしていける環境をつくっていく方が大切なのではないかと考えました。もうひとつの理由として、そういった芸術文化的な活動を取り入れることで、そこに通う障がいのある人たちだけが満足するというのではなく、障がいのある人たちの表現を、発表などを通して地域社会に開いていくことで、さまざまな人が生きやすい場所へ変わっていくようにしたいという思いがあります。
そのように40年以上活動を続けていますが、まだまだ課題は多く、特に障がいのある人たちの所得の低さを解消するということは、今でもなかなか解決できていません。現状では、社会保障費の中で税金が分配され障がいのある人たちの生活が保証されていて、それは必要なことですがやはりそういう社会サービスを受けるだけではなく、その人たちも社会の中で役割を果たしながら貢献していくために仕事をつくっていこうと、アートを仕事にするという視点から「Good Job! プロジェクト」をスタートさせました。福祉の中だけで完結するのではなく、さまざまな企業やアーティスト、デザイナーといった人たちと一緒になって、福祉の分野を超えることで社会の中で仕事をつくるのが目的です。「Good Job! プロジェクト」では、日本中でいろいろと起こっている分野を超えた取り組みを紹介したり、賞を設けて奨励していくようなことを通しながら、これからの働き方や生き方に対して福祉側がイノベーターとなれる部分もあるのではないかと考えています。先日、渋谷ヒカリエで4日間「Good Job!展 2017-2018」という展覧会を開催し、連日たくさんの方に訪れていただき大盛況でした。

──「Good Job! プロジェクト」ではどのようなものを製作されているのですか?

森下:

たとえば「グッドドッグ」というGood Job! Center KASHIBAオリジナルの張り子の置物があります。今伝統工芸や民芸の職人不足が問題となっていますが、障がいのある人の施設がその地域の伝統産業と関わるケースが少しずつ増えてきています。「たんぽぽの家」は奈良県に拠点があるのですが、同じく奈良県に本社のある中川政七商店さんから「鹿の張り子の郷土玩具をつくりませんか」とお声がけをいただいたことがきっかけとなりました。張り子は木型をつくり、その木型に紙を貼り重ねてつくっていきますが、うちでは木型の代わりに3Dプリンターで型を出力し、そこから障がいのある人が手仕事で仕上げていきます。障がいのある人の施設でつくられるものというと一点物のイメージがあると思うのですが、個性や表現のユニークさを活かしながらもデジタル・ファブリケーションなどを用いて標準化できるところは標準化して、ある程度の量を生産できるような仕組みとしています。

南側外観夕景。南側外観夕景。千鳥状の木壁が大きなワンルーム空間の中にさまざまなスケールのスペースを生み出す。

新しい仕事を生み出すための実験ができる場所

──「たんぽぽの家」の新たな活動拠点である「Good Job! Center KASHIBA」の建設の目的、ねらいについて教えてください。

森下:

「Good Job! プロジェクト」での活動と同様に、さまざまな新しい仕事を生み出すための実験ができる場所をつくれるとよいなと考えていました。ですから、ものづくりができるスペースと、また、全国のいろいろな福祉施設でつくられた素敵なものを紹介したいという思いがずっとあったので、それらの製品の流通機能を持たせたいとも考えました。また、この土地をご寄付くださった方の希望で、「障がい者福祉のこれからの発展のためにこの場所を使ってほしい」と言っていただいていましたので、地域の人たちにも来ていただいて交流できるカフェやアトリエを設け、ここに通う障がいのある人とこの場所で行うさまざまな実験を発信し、いろいろな人が集える場所にしたいと思っていました。

大西麻貴大西麻貴
百田有希百田有希

──大西さんと百田さんは、そんな「たんぽぽの家」のみなさんの思いをどのように受け止め、「Good Job! Center KASHIBA」の設計を進められましたか?

大西麻貴(以下、大西):

このプロジェクトはプロポーザルコンペでしたが、「共に考え、話しながらつくることができそう」ということで私たちを選んでいただいたとお聞きしました。そこから「たんぽぽの家」のスタッフのみなさんと一緒に、さまざまな福祉施設の見学に行ったり、流通の倉庫で物がどのように管理されているか勉強しに行ったり、また、地域の人やさまざまな分野の研究者を巻き込んだ話し合いの場を開いていただいて、年齢や出自もさまざまな人が老若男女集まり「Good job! Center」とはどんな場所だろうかと議論を進めていきました。

百田有希(以下、百田)

その会議の場には、大学の先生やNPOの人、地元の町工場の人というように、本当にさまざまな人が参加してくださっていました。その中で、司会をしてくださった先生が、「今日僕は何のために呼ばれたのかよく分かっていないのですが……」ということをおっしゃっていたのが印象的でした。普通、ある取り組みをやりたいと考えて誰か協力者を誘う時には、まず「こういうことをやってほしいから、あなたの知恵やノウハウを教えてください」とお願いしてしまいがちだと思うのですが、このプロジェクトでは「面白そうなことをやるのでまずは集まってください!」とみんなが集まってきていたのです。ですから、最初はここで自分に何ができるか分からないという人ばかりなのですが、話を聞いているうちに、なんだか面白そうだからそれぞれが知恵を出し合ってできることを考えてしまうという状況になっている。それがすごく面白いなと思っていて、「あなたの役割はこれです」と最初から言ってしまうと、できるかできないか、自分に関係があるかないか、と考えてしまうのですが、純粋に「Good Job! Center」の理念を共有してもらうことからスタートしているので、自分たちにも何かできるかもしれないと、それが大きなエネルギーになっていくということを僕はその会議ですごく感じました。それは設計に対してもとてもエネルギーになりました。

大西

当初のコンペ案では、柱が林立する森のような空間を提案していたのですが、会議での議論が進みさまざまな意見を聞いて、それに応えたいとスタディをしているうちに、どんどん案が変化していきました。

百田

1年くらいあたためていた案をやめ、まったく別の案を提案したこともありました。それでも、変更をOKしてくださいました。「たんぽぽの家」のみなさんは、問題が起こることは問題にしないというか、新しいことをやるには問題が起こることは当然で、それをみんなで乗り越えていくものだという雰囲気があって、こうやっていつもいろいろな新しいことにチャレンジされてきているのだなと実感しました。

「Good Job!展」会場の様子昨年開催された「Good Job!展」会場の様子。提供:たんぽぽの家
グッドドッグGood Job! Center KASHIBAオリジナルの張り子の置物「グッドドッグ」。
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