オフィスにおけるキッチンの可能性を考える

馬場正尊さん(OpenA)× 若原強さん(KOKUYO)× 石原雄太さん(LIXIL)

(『商店建築』2018年4月号 掲載)

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馬場正尊さん(OpenA)×若原強さん(KOKUYO)×石原雄太さん(LIXIL)

効率的に働くためのオフィスから、コミュニケーションの場へ。急速に変化するオフィス空間の核として期待されているのが「キッチン」である。新しいオフィスの企画・設計を手掛け、自らもシェアオフィスを運営するオープン・エーの馬場正尊さん。世界各国のオフィスを調査し、新しい働き方を提案するコクヨワークスタイル研究所の若原強さん。リクシルでオフィスや商業ビルの水まわり空間のプランニングを行う石原雄太さん。オフィス内キッチンを実践するオープン・エーのシェアオフィス「Under Construction/Un.C.(アンク)」で3者に話を聞いた。

キッチンの求心力をオフィスに生かす

石原:

今当社では「ジェンダーニュートラル」なトイレ空間の開発をきっかけとして、オフィスでのコミュニケーションの場に着目しています。トイレの場合、男女共用化などによってつくり出したスペースを、コーヒーブレイクやプライベートも含めたお喋り、スマホを操作する場として提供することで、オフィス内コミュニケーションの場となる可能性が考えられます。そこで今後は、オフィスにあるもう一つの水場「キッチン」について、コミュニケーションの場としての可能性や、そのために必要とされる機能、賃貸でもオフィスキッチンは可能なのかなどを見出して行きたいと思っています。

馬場:

今のところ大半のオフィス内キッチンは「給湯室」と呼ばれるような最低限の設備と面積で、端っこのバックヤード的な空間にありますよね。一方、オープン・エーのシェアオフィスでは、大きなオープンキッチンを真ん中に配置しコストも最も多く掛けました。実は、このキッチンの前例として、賃貸オフィスビル「Public in Office(パブリック イン オフィス)」の企画があります。ビルの各フロアに色々なテーマを持たせるプロジェクトで、オフィスに大きなキッチンを置いたプランをつくり、賃貸オフィスとしてテナントを募集しました。「クックパッドのような企業が入ったらいい」と言っていたら、すぐに反応があって、実際に関連会社が入居しました。これを見て、賃貸オフィスにもオープンキッチンを導入したいという要望が急に増えました。

若原:

企業の中で、給湯室や喫煙室といったオフィスの端っこにある空間が重要な役割を果たしてきたと感じます。企業にとって大切なことの一つは組織の柔軟性ですが、“Who Knows What”(=これは誰に聞けばわかるのか)が組織全体で共有されているだけで、その柔軟性は格段に上がると言われています。そうした情報は会議室ではなく給湯室や喫煙室でやり取りされていたケースも多く、オフィスキッチンはそれに変わる新たなコミュニケーションスペースとして注目されています。

馬場:

その通り、企業にとって本当に重要な会話や意思決定の大半は、会議室ではなく、喫煙室や給湯室、トイレなどで行われてきたのが現実でしょう。そうしたオンとオフの中間的な場所の価値が認められ始めていると感じます。住宅も同様で、昔の台所は家の隅にありましたが、今はキッチン・ダイニングを中心にしてプランが展開されていく。井戸端や囲炉裏、茶室が昔からのコミュニケーション空間だったように、水や火のまわりでは、ちょっと気が緩んだり、打ち解けたりして、情報交換に適した場所だった。お互いのバリアを解く何気ない瞬間こそ、本質的な会話が行われているのではないでしょうか。

馬場正尊ばば・まさたか/1968年佐賀県生まれ。オープン・エー代表取締役、建築家。建築設計を基軸に、「東京R不動産」、ウェブサイト「REWORK」、シェアオフィス「Under Construction/Un.C.」の運営など、メディアや不動産を横断して活動している。
若原強わかはら・つよし/1976年北海道生まれ。コクヨワークスタイル研究所所長。東京大学大学院修了後、Sler、コンサルティングファームを経て2011年コクヨ入社。新しい働き方の研究・発信に従事する一方、複業にて個人コンサルタントとしても活動中。

賃貸オフィスビル「Public in Office」「Public in Office」は、オープン・エーが企画設計を手掛けた賃貸オフィスビル。パブリックな要素をオフィスに加え、仕事のモードや働き方を変えることをコンセプトにした。オフィスの中心にキッチンを設けたフロアには、「おいしい健康」が入居する(撮影/森田純典)

THE NATURAL SHOE STORE 東京オフィス
THE NATURAL SHOE STORE 東京オフィス

2007年竣工の「THE NATURAL SHOE STORE 東京オフィス」では、水路に面した東京・勝どきの倉庫を改装し、キッチンとバーカウンターを取り入れた。現在、オフィスは移転している

石原:

当社でも働き方改革に伴い在宅勤務が増え、スタッフが顔をそろえる時間も減りました。普段からのコミュニケーション不足もあり、いざ会議を開いても発言が出にくいことを実感します。今までの画一的なオフィスでは、活発に意見を交わし、良いアイデアを出し合うことが難しくなっていると思います。

馬場:

オフィスに求められることが変化しています。100 年程前まで農家や商家は職住一体が基本で、仕事場と家庭はひと続きでした。近代以降、職と住が分離して家から会社に通勤するようになると、最も効率的に事務処理を行うための「official(公式)な場=オフィス」が発展しました。私語や個人的な行為はご法度で、与えられたルーティーンを正確にこなすことを求められてきました。しかし現在、オフィスですべきことは、多様な人達とコミュニケーションをとることに変わりました。求められるのは、新しい企画を見出し、問題解決の方法を発見することです。事務作業は在宅勤務やアウトソーシングで行えば良いし、将来はAIが担うかもしれない。オフィスは多様な交流の受け皿となる必要があります。

若原:

今、オフィスにとって大切なテーマの一つに「遠心力と求心力」があります。在宅やカフェ、コワーキングスペースなど仕事場が多様化すると、オフィスから人が離れる「遠心力」が強くなっていく。オフィスでのコミュニケーションが大切と呼びかけても、なかなか自発的に集まるのは難しい。そこで「求心力」を高める手段として、社員食堂でおいしい料理を提供したり、居心地の良いカフェを設けたりするケースが増えています。例えば最近、グーグルの社員から「出張先のニューヨークで最も美味しいステーキはグーグルのカフェテリアだった」という話を聞いたことは印象的でした。1日中外に出ていても、ランチの時間は会社に戻ってくる。食やキッチンによって自然と人が集まる場所づくりを、グーグル始めマイクロソフトやザッポスなど、各業界のトップ企業が行っています。

馬場:

ピンタレストやドロップボックス、ツイッターなどのオフィスも、さまざまなタイプのキッチンを備えていますよね。このビルに入っている育児関連のIT企業では、毎日、オフィスキッチンに料理をつくる人が来て、健康的な食事を提供しています。僕らにも食べに来てくださいと声を掛けてくれ、キッチンを介した異業種交流が生まれている。他にも、大手ディベロッパーの人が釣った魚を持ってきて、調理したいからキッチンを使わせて欲しいということもありました。

若原:

いざ、企業間交流をしようとなると色々制約もありますが、キッチンを介すことでその壁が一瞬にして消えてしまいますね。

石原雄太いしはら・ゆうた/1973年東京都生まれ。日本大学卒業後、住宅メーカー入社。後、インテリアメーカーを経て、2005年にLIXIL(当時INAX)入社。現スペースプランニング部所属。マンションやホテルの水まわり、パブリックトイレの空間提案に従事。
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