パブリック・トイレ×パブリック・キッチンを提案する 2

屋上のパブリック・キッチン

村山徹+加藤亜矢子(ムトカ建築事務所)

パブリック・キッチンとはなにか

「パブリック・キッチン」とはなんなのか。一般的に公共空間のキッチンというとキャンプ場の炊事場、学校の給食室、シェアハウスの共用キッチンなどが思い浮かぶ。だが一方で、実際に設計の仕事をしていても「パブリック・キッチン」を設計する機会はほとんどないし、この言葉を聞くこともない。だから実際にそこで行なわれる活動や出来事を想像することは難しい。これを読んでいる読者のなかで同意見の方々も少なくないだろう。しかし、人間にとって食を介したコミュニケーションは重要なものであり、それを行なう場であるキッチンを外に開いていくことは大きな意味があるように思える。そこで今回は、われわれ(パブリック・キッチンに馴染みのない設計者)が「パブリック・キッチン」とはなにかを考えるきっかけとして、現在設計を進めている単身者向け集合住宅の計画案である「Tプロジェクト」をケース・スタディとして考えてみたい。そこから「パブリック・キッチン」の意義や可能性を導き出せたらと思う。

ハードの提案のみで成立させる試み

「Tプロジェクト」と敷地周辺の模型

「Tプロジェクト」と敷地周辺の模型
以下、すべて図版提供=ムトカ建築事務所

「Tプロジェクト」は、東京都心に近い場所に建つ21住戸の単身者向け集合住宅である。敷地は長方形の短辺に直角三角形をくっつけた形で、その敷地形状をほぼそのままオフセットした台形型平面の地下を含めた3層と、その上に直角二等辺三角形を載せたヴォリュームからなる。基準階には1層に6住戸が入っている。特徴的なのはそのプランニングで、北側の道路境界線から平行に6分割した長手約10m短手約2.5mの細長いヴォリュームが一住戸となり、さらに戸境壁がところどころで出っ張ったりへこんだりすることで細長い空間に溜まりやくびれが生まれ、ワンルームにさまざまな居場所をつくり出している。

「Tプロジェクト」基準階のプランアクソメ

「Tプロジェクト」基準階のプランアクソメ

例えば、この集合住宅の室内のどこかに住人が使えるパブリック・キッチンを設けたとする。すると、住民間の交流が促され、集合住宅に新たな価値が生まれるだろう。しかし、「マンション管理」というディベロッパー的な現実目線からみれば、やはり問題になるのはその管理である。キッチンのような食を扱う機能を共有化すると、日々の掃除などの衛生面や器具の管理が難しい。管理の問題を抜きにして、あるいはソフトによる解決策に任せて建築を提案するのは不甲斐ない。そこで、パブリック・キッチンをハードの提案のみで成立させるにはどうすればよいかを考えることにした。

「Tプロジェクト」住戸内観イメージパース

「Tプロジェクト」住戸内観イメージパース

小さなバルコニーを寄せ集める

一般的に、単身者向けの集合住宅には、各住戸に幅2m奥行き1m程度の小さなバルコニーが設けられている。しかし、そこからよい景色が見えるのであれば話は別だが、往々にしてそうはならないうえに、その小ささでは洗濯物を干すか、空調の室外機を置く程度の機能しかもちえない。さらに、多くの単身者は昼間ほとんど家におらず、部屋の中に洗濯物を干しているというのが現実である。つまり、バルコニーが有効活用されない、とてももったいない状況になっている。
そこで、この集合住宅ではバルコニーを設けないことにした。21個の小さなバルコニーの面積を集めて屋上にひとつの大きなバルコニーをつくる。そして、そこにキッチンを置いてみる。屋上は屋外であるため、キッチンには屋外仕様のヘビーデューティなディテールが必要となる。とすると、屋根の仕上げであるRCでキッチン・カウンターをつくり、シンクを彫り込む。作業台とシンクのみのシンプルなものだ。食材は各住戸から持ち寄り、ゴミは持ち帰るシステムとする。そうしてできあがったキッチンは、管理が容易で、単身者集合住宅の中でも成立しそうだ。ひとつの大きなバルコニーには、洗濯物を干しに来る人や夕涼みに来る人、植物を育てる人や物思いに耽る人などがやってくる。そこにメンテナンスが容易で気軽に使えるキッチンがあることで、バーベキューをしたり飲み会をしたりと、食を介した新たなコミュニケーションが生まれるかもしれない。

「Tプロジェクト」屋上イメージパース

「Tプロジェクト」屋上イメージパース

「Tプロジェクト」屋上階平面図

「Tプロジェクト」屋上階平面図

極小化していくことで機能が形骸化してしまった個人の外部空間(バルコニー)を寄せ集め、十分な大きさの共用の外部空間(屋上)を設けることで、パブリック・キッチンを含む多様なアクティビティを許容する空間をつくることができた。これは、近年のシェアハウスに見られるような多くの場や機会の共用ではなく、生活時間や生活空間のほんの一部を共用するという集合住宅のあり方である。パブリック・キッチンという、まだ定義が定かでない、私たちの想像を掻き立ててくれる存在から、新しい建築が生まれる予感がする。

村山徹(むらやま・とおる)

1978年生まれ。建築家。ムトカ建築事務所共同代表。関東学院大学研究助手。

加藤亜矢子(かとう・あやこ)

1977年生まれ。建築家。ムトカ建築事務所共同代表。大阪市立大学非常勤講師。明治大学兼任講師。

主な作品=《N邸》(2013)、《赤い別邸》《ペインターハウス》(2014)、《小山登美夫ギャラリー》(2016)、《ファーガス・マカフリー東京》(2018)など。