海外トイレ×キッチン事情 4

フィリピン、タクロバン──巨大台風ヨランダの被害がもたらしたもの

大野宏(滋賀県立大学大学院博士後期課程)

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巨大台風ヨランダの影響

フィリピンのレイテ島タクロバン市は、2013年11月に巨大台風ヨランダによって莫大な被害を受けた。台風によって引き起こされた高潮は、沿岸部貧困層居住地区を呑み込み、フィリピン全土で6千人を超える死者を出した。被災直後、沿岸部住人は流された住居を再建、再定住し始めた。一方、タクロバン市は被災後ただちに沿岸部を危険エリアとし居住を禁止、市街地から離れた森を切り開き仮設住居、常設住居を建設し、沿岸部貧困層の移住を図った。被災から5年が経ついまでも常設住居の建設は続けられているが供給は間に合っておらず、沿岸部からの移住は完了していない。

仮設小屋から垣間見た現地の生活

翌2014年、私は被災ですべてが流されたスラムに小さな仮設小屋を建設し、子どもが海で取った魚を食べ、海に向かって排便をし、被災者とともに生活をした。住民は海にほど近い井戸の水を生活用水として利用し、日中は、密集した住居群によってできる日陰のなかで活動することが多い。このスラムの住居群では、キッチンは高床式の半屋外スペースにあるか、住居内にシンクだけありPogonと呼ばれるコンロが玄関先にあるというケースが多い。この屋外の日陰空間とキッチンの密接した関係が、賑やかな食事のコミュニティをつくる。道を歩いているとふいに食事に招かれることがある。トイレは家によってあったりなかったりするのだが、家にない場合は、共有のトイレを利用する。海の上に建つ家や公衆便所の床は割り竹でつくられていて、便は海にそのまま流れていく。体を洗った水や洗濯水も同様に海に直に流れていく。その海で子どもたちは遊び、このような海から取れる魚を食べている。

タクロバン市沿岸部の住居群
タクロバン市沿岸部の住居群

タクロバン市沿岸部の住居群
以下、すべて筆者撮影

日陰で過ごす人々

日陰で過ごす人々

高床式のキッチン

高床式のキッチン

キッチン横に集まる人々

キッチン横に集まる人々

 
海の上のバスルーム

海の上のバスルーム

海で遊ぶ子どもたち

海で遊ぶ子どもたち

スラムから仮設住居へ

このような光景も、前述した移住計画によって変わりつつある。常設住居が建設されるまでのあいだに与えられる仮設住居は、ココナッツの木材と繊維状に削いだ竹を編んでつくった外壁Amacanでつくられた15㎡程のワンルームの住居である。この住居群の中に共用の井戸、トイレ、キッチン、洗濯場が配されている。共有の洗濯、キッチンの排水はスラムと同様に地面に流されているが、トイレは汲み取り式になっており、わずかながら環境は改善されているように思えた。またコミュニティを形成しようという設計意図があったわけではないようだが、このような公共空間には人々が自然と集まり賑やかな光景をつくりだしていた。

 
仮設住居の共用キッチン

仮設住居の共用キッチン

仮設住居の共用トイレ

仮設住居の共用トイレ

仮設住居の共用洗濯場

仮設住居の共用洗濯場

常設住居で変わったこと

被災から5年が経った現在、常設住居の建設が軌道に乗り始め、沿岸部定住者、仮設住居移住者は、コンクリート・ブロック造の25㎡の箱型住居に移住を始めている。住居はワンルームとバスルームで構成され、ワンルームの玄関と反対側にキッチンが設えられている。また洗濯等の場所として住居裏側に小さな外部スペースが配置されている。下水はしっかりと管理され排水されるようになったが、キッチン、バスルームには蛇口が備えつけられているものの、上水道は整備されていない。そのため現在は住宅街の各地に配置された貯水タンクに、市が用意した配水車が水を配給している。環境が整備され、住環境は海沿いに比べ大きく改善された。しかし常設住居では、街路が大きく取られ、軒をもたない箱型の住居が並べられたことによって、外での住民間のコミュニケーションは海沿いの暮らしより少なくなったように思える。私も数日常設住居で寝食をしたが、日中に海沿いや仮設住居にあった賑やかさは、常設住居街区には見られなかった。また、食事に招かれることも少なかった。これには常設住居街区における公共施設の整備が十分には進んでいないことや日陰空間の減少等、さまざまな要因が考えられるが、キッチンやトイレ、洗濯場が住居内部、また住居裏側へと配置されたことが大きいのではないか。

日陰のない常設住居の街路

日陰のない常設住居の街路

常設住居内のキッチン

常設住居内のキッチン

環境改善とコミュニティのあり方

多くの発展途上国で密集した住居群が建てられ、人々は劣悪な環境での生活を強いられている。そのような環境を改善することは重要であるが、根こそぎフラットにしてしまうのではなく、その環境だからこそ生まれるコミュニティを意識的に観察し、改善後の環境に積極的に取り入れていくことが必要だろう。

大野宏(おおの・ひろし)

1992年生まれ。建築家。滋賀県立大学大学院博士後期課程在籍。Waray-Waray Architecture Studio主宰。フィリピンのタクロバンでの生活と設計の記録:https://www.instagram.com/studioon_site/

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