海外トイレ×キッチン事情 6

ウガンダ、ナンサナ ── 共存するトイレと未来

小林一行(建築家、テレインアーキテクツ)

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都市近郊で共存するトイレ

2003年に初めてウガンダを訪れ、当時は村だったこの街に1年程暮らした経験がきっかけとなり、現在は建築を設計する立場として東京とウガンダを行き来している。15年で人口は急激に増え街の様子は大きく変わったが、変わらず共存するトイレの話をしようと思う。

本サイトでも紹介されているアフリカ諸国の例(「ルワンダ、ルリンド郡マソロ村──トイレから考える国際開発協力」2018年4月号、「ガーナ、アクラ──パブリック・トイレから地域自治を問う」2018年1月号、「エチオピア、メケレ──問われる、ローカルなトイレ観」2017年12月号)にもれず、ウガンダも水道電気といった公共インフラは不安定で、首都カンパラのごく一部を除き下水道は整備されていない。そのため周辺には「ぼっとん便所」と「水洗トイレ」が共存している。いずれも公共インフラに帰属しないトイレである。前者がより貧しいという印象をもたれているが、設備の故障が頻発すると、この優劣は容易に逆転する。
ちなみに、「ぼっとん便所」は、6~7mの穴を掘り、その上にそっと小屋を建て、穴がいっぱいになったら上屋を取り壊してバナナでも植えておこうという方式だ。穴のみの段階では落ちるとおおごとなので、周辺を歩く人たちが互いに注意を促す。

トイレのスケッチ

トイレのスケッチ
以下、すべて筆者作成、撮影

穴掘り作業

穴掘り作業

建設工事は仮設トイレづくりから始まる

さて、ナンサナという街に学生寮《AU dormitory》を設計し、2013年に建設が始まった(2015年竣工)。この現場では仮設トイレとして「水洗トイレ」が採用され、2年半程ほぼ毎日使われた。まず現場に男たちが鍬とシャベルを持ってやってきて、直径、深さともに約3mの円筒の穴を1日で掘り上げた。そこに樹脂製の浄化槽「Septic tank」を埋め込み、さらに浸透枡「Soak pit」を隣に掘り、砕石を敷き詰めて接続する。
その近くに2m程の高さまでレンガを積み上げ、粗く製材された木材の上にトタン屋根をかける。床に陶器製の便器を埋め込み、木製の扉をつけて……と1週間程で完成し、上水に接続され使われはじめた。多い時には50人を超える労働者や、私たちを含めた現場の常駐スタッフ、訪問者のためのトイレである。

プライバシーもささやかながら確保されている。この仮設トイレの入口は、開けた敷地側ではなく、細い丸太とトタンで組まれた仮囲いに近接して立っていて、作業をしている同僚や道路側の人々には誰が利用しているかを簡単に悟られない。

仮設トイレ工事中

仮設トイレ工事中

仮設トイレ全景

仮設トイレ全景

仮設トイレ入り口

仮設トイレ入り口

工事現場全景

工事現場全景

優劣のある「和式」と「洋式」

レンガ壁で個室に分けられる平面形式はウガンダではごく一般的で、このトイレも同様に個室は4室に分かれていた。スクワット式(いわゆる和式)が2室、水浴び用の部屋が1室、洋式が1室である。和式トイレ2室と作業後の水浴び用の1室は主に施工会社のスタッフや労働者用で、洋式トイレは私たちや現地設計スタッフやゲスト用、つまり「ちょっといいトイレ」として分類されていた。

ふだんの生活で差別意識を感じることはないが、ここでの構図「ブルーカラー=和式」「ホワイトカラー=洋式」が示すように、とくに肉体労働者が多く働く現場にあっては「きっぱり線引きしましょう」という意識をダイレクトに感じる場面がある。
ここで興味深かったのは、工事が進むにつれて洋式トイレは次第に使われなくなり、和式トイレの存在意義が高まっていったことだった。建設時の「優劣」が消えていったとも言える。
当初、和式トイレと水浴び用の3室は労働者による順番争いが起きるほど高頻度で使用され、その結果、衛生面も含めて管理が行き届かなかった。だが、次第に彼らなりのルールが確立され、徐々に管理されはじめた。仮設トイレは建設現場唯一の「個室」であるため、着脱衣室としても使われはじめたことが、きれいに使おうという意識を芽生えさせたのかもしれない。一方で、洋式トイレは比較的利用頻度が少ないこともあり、現場で発生する埃や泥にまみれ、すぐに便器の水が流れなくなった。何度か修理されたが、「ちょっといいトイレ」をあてがわれた私たちは次第に和式トイレを拝借することになっていった。室内は快適とはいえないまでも必要にして充分、安心感すらあった。

学生寮の中のトイレ事情

さて、トイレの共存と優劣の反転は、恒久的な建物でも起こった。
完成した学生寮(収容50名)は、水洗の洋式トイレを4人ごとにひとつ配置する計画とした。寝室を共有する学生4人で水まわりも管理するという方針で、狙い通り現在でも日々の掃除や管理は行き届いているように見える。ただ、上水供給が不安定で断水が頻繁なうえ、水に小石などが混ざっていることが多く、やはり故障が頻発する。そういうわけで、ドライバーや清掃スタッフ用として設置した中庭の隅にある2室の「ぼっとん便所」が活躍することとなった。もちろん穴の下から多少の臭いはするが、水洗トイレで排泄物が流れないという不安に比べると抜群の安心感がある。使う人が多くなり、頻度が上がれば掃除もする。ドアに絵まで描かれ、みんなのトイレとして愛されているようである。

学生寮トイレ内部(左からぼっとん、和式、洋式)

学生寮トイレ内部(左からぼっとん、和式、洋式)

学生寮の外部ぼっとん便所

学生寮の外部ぼっとん便所

「ローテク」は一歩先を行く未来

公共インフラが未整備の環境下でのぼっとん便所vs.水洗トイレ、やや乱暴ながらローテクvs.ハイテクの戦いは奥が深く、さまざまな価値基準が去来する。どのような場面で清潔感/安心感という面において勝るかという議論も、現地ではけっこう白熱する。ぼっとん便所の原始的な佇まいを嫌う人がいる一方で、洋式の便座がいかに不衛生かという主張を展開し、「ぼっとん便所のほうがはるかに清潔だ」という人も多い。また、浄化槽内に酵素を塗り込み固体を分解するシステムなど、新しいアイデア、テクノロジーが議論の中心となることもある。
「ローテク」が後進的な象徴や現代におけるノスタルジーとしてではなく、日々更新される「ハイテク」とも並列しながら共存する姿は、ちぐはぐなようでいて、どこか明るく軽やかだ。その姿は遅れた現在などではなく、一歩先を行く未来なのではないかとさえ感じさせるのだ。

小林一行(こばやし・いっこう)

1981年生まれ。建築家。テレインアーキテクツ/TERRAIN architectsを樫村芙実と共同主宰。2009年東京藝術大学美術研究科建築専攻修了。《AU dormitory》でSDレビュー2012入選。

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