国内トイレ×キッチン・サーベイ 5

外出時、高齢者はトイレが心配

松本真澄(首都大学東京)

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街中に増える高齢者

今年9月に総務省から発表された数字によると、総人口が減るなか、高齢者人口は増え続け、高齢化率は28.1%と過去最高になった。ひとくちに高齢者といっても、お元気な方から寝たきりの方までいる。介護保険の認定状況をみてみると、要介護・要支援の割合は、65歳から74歳までは4%程度だが、80歳以降急上昇し、95歳以上では8割程度となる。裏を返せば、70代以下では9割以上、80代でも半数以上は、公的なサポートを受けずに暮らしている。持病や老化による心身機能の衰えを抱えながらも、地域で普通に買い物をしたり、食事をしたり、通院したり、公園、図書館からパチンコ屋までさまざまな場所で過ごしているのだ。

65歳以上における性・年齢階級別にみた受給者数及び人口に占める受給者数の割合

65歳以上における性・年齢階級別にみた受給者数及び人口に占める受給者数の割合(平成29年11月審査分)。各性・年齢階級別人口に占める受給者割合(%)=性・年齢階級別受給者数/性・年齢階級別人口×100(人口は、総務省統計局「人口推計平成29年10月1日現在[人口速報を基準とする確定値]」の総人口を使用した)。
引用出典=「厚生労働統計 平成29年度 介護給付費等実態調査の概況」(平成29年5月審査分〜平成30年4月審査分)

高齢者の居場所

こうした高齢者の増加を背景に、街中には高齢者のための施設がいたるところに見られるようになった。介護保険認定者が日中過ごすデイサービスは、全国で4万カ所あり、商店街の空き店舗などに入っていることも多い。コンビニよりは少ないが郵便局よりも多い数だ。

また、ここ10数年、高齢者が住み慣れた地域のなかで、孤立せずに健康でいきいきとした生活が送れるように、高齢者の居場所づくりも各地で行なわれている。居場所に行くこと自体が外出促進となり、介護予防にもつながる。居場所には、社会福祉協議会が見守り支援活動の一環として、週1、2回のふれあい・いきいきサロンを開催するものもあれば、NPOが常設のコミュニティ・カフェとして運営しているものもあり、多様な形態がある。

「居場所」のトイレ

東京都西部に位置する多摩ニュータウンの永山地区には、高齢者の居場所として有名な「NPO福祉亭」がある。昭和40年代に建てられた団地が並び、単身高齢者や高齢夫婦世帯が多いエリアである。

多摩ニュータウンの永山地区

多摩ニュータウンの永山地区
以下すべて筆者撮影

団地の商店街に「NPO福祉亭」、ネコサポステーション、地域包括支援センターが開設

団地の商店街に「NPO福祉亭」、ネコサポステーション、地域包括支援センターが開設

福祉亭は、空き店舗が出はじめた団地の商店街に2003年にオープンし、以来15年、ボランティアが運営を支えている。人気の昼定食は500円。利用者のおよそ6割が常連だ。将棋を指している男性高齢者の傍らで、サークル帰りの女性高齢者数人が話に花を咲かせている。ひとりで新聞を読みながらコーヒーを飲む人や、スタッフに相談にくる要介護認定を受けている高齢者もいる。飲食が中心だが、当然トイレの利用も多い。普通のカフェやレストランでは、トイレの利用は1回くらいだろう。ところがここでは、入店時にトイレを利用し、帰るときに再度利用するケースが多い。長時間囲碁や将棋を指している場合は、さらに回数を重ねている。トイレの使用状況は、席を立ってトイレの扉の前まで行く必要がないように、遠くからでもわかる手づくりのボードが目印として利用されている。

高齢者の居場所「NPO福祉亭」での午後のひと時

高齢者の居場所「NPO福祉亭」での午後のひと時

トイレの使用状況を示す手づくりのボード

トイレの使用状況を示す手づくりのボード

かつて商店街にトイレはなかった

高齢者が外出する時、トイレは重要な問題だ。尿失禁の不安から外出を控える高齢者も多い。トイレが近くなることもあり、外出時に利用しやすいトイレをチェックしておくことが、安心して外出するための条件ともなっている。若い時であれば、自宅からの徒歩圏内で外のトイレに行くことはあまりないであろう。もともと、商店街に自由に利用できるトイレはほとんど設置されていない。福祉亭のあるUR賃貸の商店街の店舗も、当初トイレは2階の住居部分にはあったが、1階の店舗部分には設置されていなかった。福祉亭の開設時の改修にともない、トイレを設置したのである。

現在、この商店街(永山団地名店街)には、地域包括支援センターやネコサポステーションが開設し、ここでは飲食などをしなくてもトイレを利用できる。このほか、薬局のトイレも利用しやすくなっている。これらは公衆トイレとは異なり、主がいるパブリックなトイレとして機能している。ある認知症の高齢女性は、こうしたトイレを利用しているが、商店街の目の前にある公園の公衆トイレを利用することはない。清潔感や主がいることによる安心感があるのではないだろうか。

ちなみに、商店街のトイレ設置については、商店街の活性化という面から、現在多くのところで取り組まれている。

高齢期のトイレ問題

高齢期になると、どうしても粗相をしやすくなる。家庭内でも、トイレの問題は最も深刻だ。過活動膀胱や咳などによる失禁のほか、病的な症状ではなく機能性尿失禁と呼ばれる手足が不自由なために時間がかかったり、認知症のためにトイレがわからなかったりという理由によるものもある。オムツで対応できる場合もあるが、外出先で尿パッドを上手く扱えないこともある。

手足に痛みや不自由さがある高齢者がトイレで用を足すという行為を分解して見てみよう。トイレに行くためには、現在の行為を中断して立ち上がる。膝や腰に痛みがある場合この動作が緩慢になる。次に歩いてトイレまで移動する。ここでも、まっすぐスタスタ歩けないことがある。トイレの扉を開ける。手のこわばりや震えがあると、ドアノブの形状によっては時間がかかる。同様に扉を閉める。ズボンやタイツを下げる。腰を屈める必要があり、ベルトやボタンやチャックを外すのに指先の動きが不自由だと苦労する。洋式便器の場合は座る。手すりが設置されていても、それなりに苦労する。排尿、排便をする。これも身体的な機能の低下によってスムーズにいかないことが多い。紙を取って拭く。手や肩に痛みがあると上手くいかない。排泄物があらぬところにつくこともある。流す。自動洗浄も増えているが、どこにボタンやレバーがあるのか、外のトイレでは探すのに一苦労する。視力の低下もある。また、自動洗浄の場合、もたついていると、早いタイミングで流れてしまい上手くいかないこともある。さらに場合によっては、尿パッドの始末、交換をする。これも使用済みの物の処理を含めて細かな手作業が必要になる。立ち上がり、服を元に戻して、手を洗い、拭いて、ドアを開閉して、歩いて戻る、という一連の作業が必要だ。はた目には元気に見える高齢者でも、苦労している可能性は高い。

誰が掃除をするのか?

不特定多数、特定多数が利用するトイレはどうしても汚れやすい。風邪が流行る時期や夏場の冷房などにより、お腹が緩くなる人が多い季節はなおさらだ。高齢者の場合は、綺麗に使いたいという意思があっても上手くできないことがある。認知症傾向がある場合はさらに難しい。

トイレ掃除に関しては、年齢にかかわらず男性が立位で用を足す場合、洋式便器との相性は悪い。特に高齢期では、勢いもなくなり、手の自由が利かずにコントロールが悪くなるため、床や壁の汚れがひどくなる。男性用小便器があればよいが、残尿感から紙を使いたいという要望もあるものの、紙が置かれていないし、紙を流すこともできない。尿パッドの交換もできない。

汚れたトイレは、便器だけでなく床や周囲の壁も含めて、掃除が必要になる。パブリックなトイレの主は、この大変な仕事を日々引き受けてくれているのだ。高齢者が街中に増えるにしたがって、例えば図書館などの公共施設でも同様の問題が起きている。

トイレの便器だけでなく、トイレ空間そのものを掃除が楽にできるデザインにして、高齢者も含めて皆が快適に使えるようにしてはどうだろう。

2040年には、人口の3分の1以上が高齢者になる。寝たきりにならずに健康寿命を延ばすためには気軽に外出できることが重要だ。そのためには、使いやすいトイレが街に必要となる。たとえば、トイレットペーパーを流せる小便器、洋式便器と小便器が両方あるトイレブース、丸洗いできるユニットトイレ、あるいは、服を汚さないようにいっそ脱いで使えるトイレなど、使いやすくする余地はまだまだありそうだ。

参考資料

松本真澄(まつもと・ますみ)

1989年日本女子大学住居学科卒業。首都大学東京都市環境学部建築学科助教。主な著書に『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』(王国社、2010)、『多摩ニュータウン物語──オールドタウンと呼ばせない』(鹿島出版会、2012)、『四谷コーポラス──日本初の民間分譲マンション1956-2017』(鹿島出版会、2018)、など。

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