2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第1回)

住宅の省エネ性能の説明義務化へ!
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

今年5月に下記のニュースが大きく報道されました。この報道によって、「仕事が増えなくてよかったー」と思われた住宅の設計者の方も少なくなかったのではないでしょうか。

5月10日に改正建築物省エネ法が参議院本会議で可決し成立した。5月17日に公布、2年以内に施行される。省エネルギー基準への適合義務化の対象は中規模建築物まで拡大されたが、住宅や小規模建築物の適合義務化は見送りとなった。

そもそも、なぜ国は「住宅の省エネ基準の適合義務化」を目指していたのでしょうか?それは、経済産業省が昨年7月に発表した「第5次エネルギー基本計画」※1に記載されています。これは、建築に関するエネルギー計画だけではなく、日本の全てのエネルギー政策の基本方針となる計画で閣議決定もされた国の重要な政策です。

この計画の中で、業務・家庭部門における省エネルギーの強化策として、「2020年までに新築住宅・建築物について段階的に省エネルギー基準への適合を義務化すること」と明記されているのです。そのため、工務店や設計事務所などの住宅事業者の皆さんには、「住宅の省エネ基準への適合義務化」への準備を求められていたのです。

それでは、なぜ、閣議決定されていたにも関わらず、「住宅の省エネ基準への適合義務化」が見送りとなったのでしょうか?それは、国土交通省が今年1月に発表した「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第二次答申)」※2にその理由となった調査結果が記載されています。

● 小規模住宅の設計を担っている建築士事務所や中小工務店のうち、省エネ計算が実施可能な社数の割合はそれぞれ概ね50%となっている。
● 2016年度における住宅の省エネ基準への適合率は、57%~60%にとどまっている。

  大規模 中規模 小規模
住宅 60% 57% 60%
建築物(住宅以外) 98% 91% 69%

国土交通省はこの調査結果を受けて、今、住宅の省エネ基準への適合を義務化したら、対応できない設計者が多くて、市場が混乱すると考えたようです。このコラムを読んで頂いている設計者の方も、省エネ計算が苦手な方が多いかもしれません。でも、現状はこの調査結果が実態ですので、決して特別なことではないことがわかります。

また、次のような試算結果も記載されています。

● 省エネ基準への適合のための追加コスト(建築費)を光熱費の低減により回収すると仮定した場合の期間は、小規模住宅で22年~44年と比較的に長期間となっている。

  大規模 中規模 小規模
住宅 単板ガラスを想定 20年~23年 17年~19年 35年~44年
複層ガラスを想定 10年~11年 10年~12年 22年~30年
建築物(住宅以外) 8年 10年 14年

つまり、省エネ住宅はコストメリットだけを見ると、投資対効果が低いことになります。これでは、お施主様は納得して省エネ住宅を建てたいと思わないでしょう。もちろん、省エネ住宅はコストメリット以外にも、居住者の健康維持や快適性の向上等も期待できますが、それらについての情報もお施主様には十分に提供されていないのが現状ですので、なおさら理解を得ることは難しいでしょう。

こうした状況を踏まえて、止むを得ず「住宅の省エネ基準への適合義務化」が見送りになったのです。

しかし、その代わりに国はお施主様の省エネ住宅に関する意識の低さに着目し、改革を始めることにしたのです。お施主様が省エネ住宅とその効果を理解すれば、省エネ住宅が欲しいという意識に変わる。お施主様の意識が変われば、作り手側の設計者の皆さんも省エネ住宅に対応せざるを得なくなるということです。そのための新たな切り札となる施策が、「建築士によるお施主様への住宅の省エネ性能の説明義務化」なのです。

つまり、建築士が省エネ基準への適合状況や対応策、また、住宅の省エネ性能の向上の必要性や効果についてもきちんと理解していないと、お施主様にご納得頂ける説明もできないことになってしまいます。お施主様にご納得頂ける説明ができない建築士は、お施主様に信頼されないですよね。つまり、見方を変えると、建築士には省エネ基準に単純に適合させるよりも、新たな難しい責務が課せられたことになるのです。

既に今年5月17日に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、「住宅の省エネ性能の説明義務化」は2021年5月までに施行されることが決定しています。設計者の皆さんがその準備のために残された猶予は、あと2年しかありません。

でも、省エネ住宅や省エネ基準って難解な用語が多くて、それだけで敬遠してしまいますよね。

ご安心ください。この連載コラムでは、戸建て木造住宅の設計者の皆さんを対象に「いまさら聞けない省エネ住宅の基本のキ」から始まり、「省エネ住宅の良さをお施主様に納得して頂くためのテクニック」まで、説明義務化で実施すべきことをカンタンにご説明していきます。この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

[出典]

  1. ※1 第5次エネルギー基本計画 https://www.meti.go.jp/press/2018/07/20180703001/20180703001.html
  2. ※2 今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第二次答申) https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_000843.html
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