2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第2回)

どうやって省エネ性能を説明するの?
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

前回のコラムでお伝えしました通り、「建築士によるお施主様への住宅の省エネ性能の説明義務化」が2021年5月までに施行されることが決定しました。具体的な説明内容はまだ決まっていませんが、皆さんが設計した住宅の省エネ性能をお施主様に説明しなければならない時代がもうすぐやってきます。

そこで、説明場面をイメージしてみましょう。
「外皮平均熱貫流率が●●、一次エネルギー消費量が●●ですので、省エネ基準に適合しています。」といったトークで、お施主様は納得して頂けますでしょうか?また、お施主様より、「外皮平均熱貫流率って何?一次エネルギー消費量って何?」と質問されるかも知れません。少し不安ですよね。

このように省エネ住宅や省エネ基準に関する用語は、わかり難い用語が多くて、それだけで勉強の意欲がわきません。そこで、今回のコラムでは、まず省エネ性能の説明に最低限必要となる基本的な用語のあらましを説明します。これがわかってしまえば、説明は怖くありません。

まず、よく目にする用語として、「建築物省エネ法」と「平成28年省エネ基準」があります。この違いから始めましょう。

これから説明が求められる省エネ性能の3つの基準

「建築物省エネ法」とは、日本全体の建築物・住宅のエネルギー消費性能を向上させるための法令です。「住宅の省エネ性能の説明義務化」は、この法令で定められました。

次に「平成28年省エネ基準」とは、「建築物省エネ法」に基づいて地域別に建築物・住宅に必要となる省エネ性能を定めている基準です。大きく分けて、”外皮性能”と”一次エネルギー消費量”の2種類の基準があります。

“外皮性能”の基準には、住宅全体の断熱性能を表す「外皮平均熱貫流率 UA(ユーエー)」と日射対策性能を表す「冷房期の平均日射熱取得率 ηAC(イータエーシー)」の2つの基準値があり、両方の基準値を満たすことで“外皮性能”の基準を満たしたことになります。

もう一方の”一次エネルギー消費量”の基準は、住宅のエアコン等の設備機器で使うエネルギー消費量の基準です。設備機器の中でも、特に暖房、給湯、照明は"一次エネルギー消費量"に大きく影響しますので、今後はお施主様にこれらの機器の選び方の説明も必要となるでしょう。

つまり、「住宅の省エネ性能の説明義務化」とは、”外皮性能(UA・ηAC)”と”一次エネルギー消費量”の両方の基準を満たしている住宅なのかどうか、もし満たしていない場合にはどのような対策をすれば、これらの基準を満たすことができるのかをお施主様に説明して、省エネ性能を選択して頂くことなのです。これで説明義務化のイメージができたと思います。

「建築物省エネ法」と「H28年省エネ基準」のイメージ

「建築物省エネ法」と「H28年省エネ基準」のイメージ

しかし、ここで新たな問題が生じます。例えば、"一次エネルギー消費量"は「GJ(ギガジュール)」という単位で表します。お施主様に対して、『この住宅の一次エネルギー消費量は74.2GJ/年ですので、平成28年省エネ基準の一次エネルギー消費量の基準を満足しています。』と説明しても、お施主様はあまりピンとこないでしょう。

お施主様に省エネ性能を理解して頂くためには簡単な方法があります。ほとんどのお施主様は光熱費に関心がありますので、住宅の省エネ効果を光熱費に換算してコストメリットを説明するのです。それを実現する便利なツールとして、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」があります。
“外皮性能”と”一次エネルギー消費量”の基準に対応した計算が簡単にできるだけでなく、その結果に基づいた概算の光熱費まで自動で求めることができるのです。そのため、お施主様にわかりやすく省エネ性能を説明するためには、大変効果的です。さらに、通常の省エネ計算では算出できない水道費も計算でき、それらの結果をまとめたご提案書を用いて省エネ性能を説明すれば、お施主様の満足度をさらに高めることができるでしょう。

LIXIL省エネ住宅シミュレーションの結果例

LIXIL省エネ住宅シミュレーションの結果例

さらに高い省エネ性能の住宅の基準

「平成28年省エネ基準」に続いて、さらに省エネ性能が高い住宅の基準についても説明します。代表的な基準として”ZEH(ゼッチ)”や”HEAT20(ヒートニジュウ)”があり、これらの基準を満たした住宅の普及も進んできています。

さまざまな基準の省エネ性能のイメージ

さまざまな基準の省エネ性能のイメージ

“ZEH(ゼッチ)”とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの通称で、平成28年省エネ基準レベルを上回る"外皮性能"と省エネ設備の導入によって更なる省エネを実現した上で、太陽光発電パネル等の創エネ設備を導入することで住宅の"一次エネルギー"の収支をゼロにすることを目指した住宅のことです。

ZEHのイメージ

ZEHのイメージ

政府目標でも、「2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」としていますので、将来、ZEHがスタンダードになる時代がやってくるでしょう。現在、ZEHを普及するための補助金制度もありますので、ZEHに取り組んでみるチャンスです。

次に“HEAT20”とは、「室内環境はどうあるべきか」を考え、省エネ基準とは少し異なる視点から、"外皮性能"に2つの断熱水準(G1、G2)を設けている基準です。「室温」というわかりやすい指標を用いて、住宅の省エネルギーと室内環境の質の両立を目指しているのが特徴です。

HEAT20のイメージ

HEAT20のイメージ

これらの”ZEH”や”HEAT20”への取組みは任意ですが、省エネ意識の高まりや他社との差別化をするために取り組む工務店様や設計事務所様も増えてきています。でも、なぜこのように多様な省エネ住宅の基準に取り組むことが出来るのでしょうか?とても大変そうですよね。

実は”ZEH”や”HEAT20”であっても、「平成28年省エネ基準」の”外皮性能”と”一次エネルギー消費量”の考え方を共通で用いていて、必要となる基準値の水準が高くなるだけなのです。したがって、これらの基準をしっかりと理解しておけば、どのような省エネ性能の住宅を求められても、その計算やお施主様への説明にも対応することができるのです。基本を理解すれば、決して難しくはないのです。

次回以降のコラムでは、住宅の省エネ性能の3つの基準(UA、ηAC、一次エネルギー消費量)について、さらに詳しく説明していきます。この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

[出典]

  1. ※ 2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会企画・発行「HEAT20の家」より引用 http://www.heat20.jp/HEAT20_pamph2018.pdf
対応に向けた準備はお済みですか?2021年、省エネ基準適否 説明義務化スタート!

2021年4月以降に設計を委託された住宅について、物件ごとに省エネ計算を実施し、省エネ基準への適否や対応策をお施主さまに説明することが、建築士の義務になります。新登場の「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、お施主さまへの説明義務を果たすための説明資料や提案資料、認定・優遇制度の申請時に必要な計算書も、WEB上でのカンタン操作でパッと自動作成できます。
登録料・利用料は無料!ぜひご活用ください。

LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

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公開日:2019年09月17日