2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第8回)

一次エネルギー消費量の計算をマスターしよう![暖冷房編]
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

今回から、一次エネルギー消費量の計算に必要な設備の決め方と計算プログラムへの設定方法について説明します。
計算に必要な設備は、暖冷房設備、24時間換気設備、風呂・台所・洗面で使う給湯設備、照明設備です。太陽光発電設備を搭載する場合はこれも含みます。
今回は暖冷房設備について説明します。

さて、前回(第7回)は、一次エネルギー消費量計算を行うための国立研究開発法人建築研究所によるWebプログラム(https://house.lowenergy.jp/)の起動方法を紹介しましたが、今年3月18日にLIXILから「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」がリリースされ、こちらの方がカンタンに設備の設定と一次エネルギー消費量計算をすることができます。

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、今までの「LIXILパッシブファースト提案・設計支援ポータル」・「水道光熱費シミュレーション」を全面リニューアルした機能強化版で、Webプログラムになってさらに使いやすくなりました。肝心な一次エネルギー消費量計算自体は国立研究開発法人建築研究所によるWebプログラムとリンクしていますので安心です。
さらに、2021年4月にスタートする「住宅の省エネ性能の説明義務化」に対応する法定説明書も出力できます。もちろん、利用するのは無料です。
このソフトを使いながら各種設備の設定方法を説明します。

暖房設備の設定方法

まず、暖房する部屋と暖房設備を決めましょう!

暖房エネルギーを計算する部屋は通常、「主たる居室」と「その他居室」に分けて設定します。なお、全館暖房の場合のみ「住戸全体」で設定します。

主たる居室とは

就寝を除き日常生活上在室時間が長い居室のことで、具体的には居間(リビング)、食堂(ダイニング)及び台所(キッチン)となります。

その他居室とは

主たる居室以外の居室となります。

それぞれの部屋に設置する暖房設備を設定します。なお、その他居室には、主寝室や子供部屋など複数の部屋が含まれますので、主寝室は暖房設備を設置するが子供部屋は設置しない、というパターンもあります。その他居室の中で1か所でも暖房設備を設置する場合は、設置するものとして設定します。

住戸全体(全館暖房)とする場合は、基本的にダクト式セントラル空調機(ヒートポンプ式熱源)となります。

どのような暖房設備が選べるのでしょうか?

一次エネルギー消費量計算の対象となる暖房設備は基本的に以下の8つです。この中からそれぞれの部屋に設置する暖房設備を選びます。

一つの部屋に2つ以上の暖房設備を設置する場合はどうするのでしょうか?

例えば、リビングにエアコン暖房+温水床暖房など、複数の暖房設備を設置する場合もあります。しかし、一次エネルギー消費量計算では、2台以上の暖房設備を設置しても1台のみ運転したものとして計算しますので、複数台ある暖房設備の中から1台を選択する必要があります。
選択するルールは一次エネルギー消費量の多い方の暖房機設備を選択します。一次エネルギー消費量の多い・少ないは、上記表の「評価の優先順位」を参照します。
上記の例でみると、評価の優先順位はエアコンが8番、温水床暖房が5番なので、暖房設備は温水床暖房を使うものとして暖房エネルギー計算を行います。しかし、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」では、設置する暖房設備が複数であっても全て入力すれば、自動でこの判定がされますのでカンタンです。
なお、主寝室と子供部屋で異なる暖房設備を設置する場合も、同じように一次エネルギー消費量の多い方を選択します。

そもそも暖房設備を設置しない場合はどうするのでしょうか?

その場合には「設置しない」の選択肢があります。ただし、暖房設備を設置しなくても、暖房の一次エネルギー消費量の計算結果はゼロにはなりません。地域の区分や建て方に応じて予め定められた暖房設備が自動的に選択され、暖房一次エネルギー消費量が計算されることになります。

暖房設備の省エネ性能はどのように調べるのでしょうか?

エアコンとFF暖房機は採用する機種で省エネ性能が異なりますので、その機種の性能値を入力します。これをエネルギー消費効率と言います。
エアコンを例にすると、エネルギー消費効率の区分が(い)(ろ)(は)の3種類に分かれています。(い)から(は)にいくほど省エネ性能が低くなります。エアコンを購入する場合やお施主様に勧める場合は(い)区分から選択するのがよいでしょう。

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン効率設定画面

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン効率設定画面

なお、(い)(ろ)(は)はエアコンのカタログやメーカーのホームページで確認できます。

シャープ製のルームエアコンの性能一覧表の例

シャープ製のルームエアコンの性能一覧表の例

また、主たる居室に2台以上のエアコンを設置する場合は、省エネ性能が低い方のエアコンを設定します。

もし、性能区分がカタログなどを調べてもわからない場合は計算で求めます。
計算に必要な値は「定格冷房能力[W]」と「定格冷房エネルギー消費効率(COP)」です。これらの値はエアコンカタログ(メーカーのホームページからダウンロードもできます)に記載されています。
ここで注意が必要なのは、性能は「冷房」で決めることと、カタログに大きな文字で書かれている通年エネルギー消費効率(APF)ではないことです。「定格冷房エネルギー消費効率(COP)」の記載が無い場合は、以下の式で計算します。

定格冷房エネルギー消費効率(COP)= 定格冷房能力[W] ÷ 定格冷房消費電力[W]

例として、以下のエアコンのカタログの冷房の能力3.6kWと消費電力825Wを用いて上記式で計算します。

エアコンカタログから定格冷房エネルギー消費効率(COP)を計算する方法

エアコンのカタログから定格冷房エネルギー消費効率(COP)を計算する方法

通常はこのように求めた「定格冷房エネルギー消費効率(COP)」と「定格冷房能力[W]」から、建築研究所が定める対応表を参照して(い)(ろ)(は)を導き出します。しかし、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」はこれらの数値を入力すると、自動的に(い)(ろ)(は)が選択される便利な機能があります。この機能は建築研究所によるWebプログラムにはありません。

エアコンカタログから定格冷房エネルギー消費効率(COP)を計算する方法

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン効率設定画面

性能がわからない場合は?

エアコンはお施主様が入居後に家電量販店で購入して、設置する場合もあります。その場合はエアコンの性能確認ができないため、「省エネルギー対策をしない」で設定します。
暖房設備はエアコンを中心に説明してきましたが、他の暖房設備でも「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」を使えば難しくはありませんのでお試しください。
また、「基準一次エネルギー消費量」は設定する暖房設備によっても変わりますので、建築研究所のWebプログラムに諸条件を入力して一次エネルギー消費量計算をおこなうことで、初めてその値を確認することができます。

冷房設備の設定方法

冷房設備はエアコンがほとんどとなりますが、設定方法は暖房設備のエアコンの時と同じです。
なお、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン設定は、主たる居室(LDK)とその他居室(その他)のそれぞれで、冷房(青色)と暖房(オレンジ色)のアイコンをクリックするだけでカンタンに設定することができます。

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン設定画面

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン設定画面

どのような冷房設備が選べるのでしょうか?

冷房設備はエアコンがほとんどですが、設定方法は暖房エアコンと同じです。
なお、「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」のエアコン設定は、暖房と冷房をまとめて設定できます。主たる居室(LDK)、その他居室(その他)の各々で、冷房(青色)と暖房(オレンジ色)の アイコンをクリックするだけでカンタンに設定できます。

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」通風利用の設定画面

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」通風利用の設定画面

通風の利用はどうやって設定するのでしょうか?

冷房の一次エネルギー消費量を削減する手法に「通風の利用」があります。これは、冷房期に窓を開けて通風をすることでエアコン冷房の一次エネルギー使用量が削減できる設定です。主たる居室、その他居室の通風の程度は換気回数(5回/h相当以上、20回/h相当以上)に換算して考えます。
しかし、通風利用の換気回数の計算は手間がかかる反面で、冷房の一次エネルギー消費量は家全体で消費する年間の一次エネルギーに消費量に対する割合が比較的に小さく、通風利用に対する削減効果があまり期待できません。そのため、特にこだわりがなければ、通風は「利用しない」を選択して計算をすることをおすすめします。

次回は、換気設備と照明設備について説明します。

この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

  • ※建築研究所の技術情報の「2.1 算定方法」の「その他」よりダウンロードできる「通風を確保する措置の有無の判定シート」で換気回数の計算をすることができます。通風経路を考えて、その経路上にある開口部(サッシ、内部建具等)の面積入力等が必要となります。
    https://www.kenken.go.jp/becc/house.html
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LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

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公開日:2020年04月13日