2021年に向けた省エネ住宅づくり連載コラム(第9回)

一次エネルギー消費量の計算をマスターしよう![換気・照明編]
~まるわかり解説と建築士の対応方法~

久保田博之 (住宅性能設計コンサルタント・一級建築士、株式会社プレスト建築研究所 代表取締役)

前回(第8回)は、一次エネルギー消費量の計算に必要な設備のうち、暖冷房設備の決め方と計算プログラムへの設定方法を説明しました。今回は換気設備(24時間換気設備)と照明設備を取り上げて説明します。

換気設備(24時間換気設備)

換気設備の一次エネルギー消費量計算を行うには、以下の仕様や性能値等を事前に準備します。

①換気設備の方式
②省エネ評価方法の選択
③換気回数の設定
④有効換気量率の設定(第一種換気設備の場合のみ)
⑤温度交換効率の設定(第一種換気設備で熱交換ありの場合のみ)

①換気設備の方式

換気設備の方式は、取付形式でダクト式か壁掛け式、また、吸排気方法で主に第一種か第三種に分類できるため、全部で4通りの換気設備となります。なお、ダクト式とは、1m以上のダクトを使っている場合にのみ該当します。
なお、24時間換気設備を対象にしているので、局所的に換気を行う設備(例えば、台所、浴室、便所等が対象)のエネルギー性能については評価しません。しかし、局所換気設備が全般換気設備を兼ねる場合は、該当する設備の方式になります。

ダクト式第一種換気設備のイメージ

ダクト式第一種換気設備のイメージ

ダクト式第三種換気設備のイメージ

ダクト式第三種換気設備のイメージ

壁掛け式換気設備のイメージ

壁掛け式第三種換気設備のイメージ

②省エネ評価方法の選択

次の3つのいずれかの方法があります。

1. 比消費電力による方法
2. 省エネルギー手法による方法(ダクト方式のみで壁掛け式は使用不可)
3. 評価しない

<1. 比消費電力による方法>

比消費電力とは、1時間あたり、1立方メートルの空気を運ぶのにどのくらいの電力が必要になるのかを示したもので、以下の計算式によって求めます。比消費電力が小さいほど換気設備の一次エネルギー消費量が少なくなります。

比消費電力 = 換気設備の消費電力(W) ÷  換気設備の設計風量(㎥/h)

仮に、1つの住宅内に2台以上の換気設備がある場合は、大きい方の比消費電力を採用します。
換気設備の消費電力(W)と換気設備の設計風量(㎥/h)は、カタログや換気計算書などから読み取りますが、この手間が大変な場合は、換気設備の方式、ダクトの内径ならびにモーターの種類から以下の値を用いることもできます。

比消費電力を換気設備の仕様から決める方法

換気設備 比消費電力
換気設備の方式 ダクトの内径 モーターの種類
ダクト式 第一種換気設備(熱交換あり) 75㎜以上 DC 0.32
AC or ACとDCの併用 0.49
上記以外 AC or DC 0.70
第一種換気設備(熱交換なし) 75㎜以上 DC 0.23
AC or ACとDCの併用 0.35
上記以外 AC or DC 0.50
第三種(第二種)換気設備 75㎜以上 DC 0.15
AC or ACとDCの併用 0.24
上記以外 AC or DC 0.40
壁掛け式 第一種換気設備(熱交換あり) 0.70
第一種換気設備(熱交換なし) 0.40
第三種(第二種)換気設備 0.30

※DC:直流、AC:交流

<2. 省エネルギー手法による方法>

ダクト式の第一種・第三種換気設備の場合は、「省エネルギー手法による方法」も使うことができます。ダクトの太さとモーターの種類から省エネ性能を評価する方法です。次の2種類のいずれに該当するかを選びます。

  • ダクトの内径が75㎜以上を使用
  • ダクトの内径が75㎜以上を使用 + DCモーターを使用

換気設備の一次エネルギー消費量は、ダクトの内径が太いほど(75㎜以上)、また、ACモーターよりもDCモーターの方が少なくなります。

<3. 評価しない>

なお、換気設備の比消費電力やダクト等の仕様が不明な場合、前述に示す仕様に該当しない場合、あるいは省エネルギー対策を評価しない場合は「評価しない」となります。

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」の省エネ評価方法設定画面(ダクト方式の場合)

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」の省エネ評価方法設定画面(ダクト方式の場合)

③換気回数の設定

換気回数は、建築基準法施行令第20条の7で決めた換気設備の設計の際に用いた換気回数のことです。

④有効換気量率の設定

ダクト式、壁掛け式とも第一種換気設備を採用した場合は「有効換気量率」の設定が必要になります。
有効換気量率とは、機器から部屋へ供給される給気(SA)の空気中に含まれる、新鮮空気(機器が吸い込んだ外気成分)の割合のことです。 この値が大きいほど、給気へ他から漏れ込む空気が少ないことを示す指標です。
第一種換気設備では、給気に新鮮空気以外が混ざることがあるためこのような値で表します。なお、給気の全てが新鮮空気なら有効換気量率は「1(100%)」となります。
有効換気量率は、換気メーカーのカタログ等から調べることができます。

有効換気量のイメージ図(一般社団法人日本冷凍空調工業会の資料に加筆)

有効換気量のイメージ図(一般社団法人日本冷凍空調工業会の資料に加筆)
(外気(OA)、給気(SA)、還気(RA)、排気(EA)は次の図を参照ください)

第一種換気設備における外気、給気、還気、排気の呼び方

第一種換気設備における外気、給気、還気、排気の呼び方

⑤温度交換効率の設定

第一種換気設備で熱交換ありの設備を採用した場合は、「温度交換効率」の入力が必要になります。この値は換気メーカーのカタログ等から調べることができます。
さらに、熱交換ありを採用した場合に、給気と排気の比率による温度交換効率の補正係数、排気過多時における住宅外皮経由の漏気による温度交換効率の補正係数の設定が必要になります。これらの数値は、換気メーカーに問い合わせるか、それぞれ0.9と1.0にすることもできます。

LIXILの第一種換気設備の性能一覧(抜粋)

LIXILの第一種換気設備の性能一覧(抜粋)

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」では、LIXILの換気設備「エコエア90」と「エアマイスター」については、温度交換効率と有効換気量率は登録されているので調べる手間が省けます。

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」の「エコエア90」の設定画面

「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」の「エコエア90」の設定画面

一次エネルギー消費量計算における換気設備の設定方法からわかることは、換気設備の一次エネルギー消費量を抑えるには、比消費電力の小さい設備、つまり、ダクトの内径が太いもの(75㎜以上)を使うことや、DCモーターを使うことがポイントであることがわかりますので、換気設備を選定する場合はこのような点に着目しましょう。

照明設備

主たる居室、その他居室、非居室それぞれに設置する部屋に照明設備が1か所でもあれば一次エネルギー消費量計算の対象です。ただし、下記表のように計算の対象となる照明機器と対象にならない照明機器があります。

計算の対象になる照明機器 計算の対象にならない照明機器
シーリングライト、ペンダントライト、ダウンライト、シャンデリア、ブラケット、テーブルスタンド、フロアスタンド、玄関ポーチの灯り キッチンに設置するレンジフード内の手元灯、デスクスタンド、防犯や防災などのための常夜灯や足元等、住戸と切り離されて別途設置される外構灯

次に、一次エネルギー消費量計算の対象となる照明機器が、白熱灯(ハロゲンランプ、ミニクリプトンランプ含む)を使っているか否かで照明機器の種類が以下の表のようになります。

照明機器の種類 意 味
すべての機器においてLEDを使用している(全てLED) 照明機器すべてにLEDを使用している場合
すべての機器において白熱灯以外を使用している(蛍光灯・LED) すべての照明機器で白熱灯(ハロゲンランプ、ミニクリプトンランプ含む)を使用しないことが明らかな場合(つまり、蛍光灯・LEDを使用)
いずれかの機器において白熱灯を使用している(白熱灯も使用) 1か所でも白熱灯(ハロゲンランプ、ミニクリプトンランプ含む)を使用する場合

主たる居室では「多灯分散照明方式の採用」と「調光が可能な制御」、その他居室では「調光が可能な制御(その他居室の中で1つでも設置してあれば評価できる)」、非居室では「人感センサー(非居室の中で1つでも設置してあれば評価できる)」の有無の設定もできます。

多灯分散照明方式とは、ダウンライトやペンダントライト、スタンドなど、低ワット数のさまざまな照明器具を室内に分散させて配置する照明方式です。
一室一灯方式では、部屋が常に一定の明るさで必要のない場所まで照らしてしまうので、照明エネルギーの増加になりますが、多灯分散照明方式では、消費電力の少ない複数の照明器具を生活シーンに合わせ、必要なだけ点灯すれば、快適性を増すと同時に照明エネルギーの節約にもつながります。

一室一灯

一室一灯

多灯分散

多灯分散

一室一灯と多灯分散のイメージ(一般社団法人日本照明工業会HPより)

なお、多灯分散方式で計算する場合は、主たる居室の全ての照明器具の配置図と消費電力を含む仕様書が必要になります。

照明設備は言うまでもなくLEDが一次消費エネルギー量を少なくすることができます。LEDに加え、多灯分散や調光さらに人感センサーを用いてさらなる省エネ性の高い住宅造りを行いましょう。

次回は、給湯設備について説明します。

この連載コラムを読んで実践して頂ければ、「住宅の省エネ性能の説明義務化」の準備は万全!ぜひ、この連載コラムを通して、今から2021年に向けた省エネ住宅づくりの準備を始めていきましょう。

久保田 博之

コラム執筆者紹介

久保田 博之

株式会社プレスト建築研究所 代表取締役 一級建築士(構造設計一級建築士)
木造住宅の温熱環境・構造に関わる設計コンサルタントや一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会等の団体によるセミナー講師を歴任する住宅性能のスペシャリスト。

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LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

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公開日:2020年05月18日