お客さまとのコミュニケーション方法と営業スタイルの変化(インタビュー編)

中山紀文(株式会社創樹社 代表取締役社長、Housing Tribune編集業務統括)

お客さまとのコミュニケーション方法と営業スタイルの変化(調査編)」では、コロナ禍でお客さまとのコミュニケーション方法や営業スタイルなどにどのような変化が見られたのか、「LIXILビジネス情報サイト」のマイページ会員を対象に、現在の取り組みや課題について調査した結果を解説した。今回は、調査結果を受けて、お客さまとのコミュニケーションにおけるオンライン活用について、住宅産業総合誌『Housing Tribune』の編集業務を統括する創樹社の中山氏に話を聞いた。

オンラインを活用した集客・接客活動
課題はオフラインも組み合わせた受注までのステップ確立

「お客さまとのコミュニケーション方法と営業スタイルの変化」の調査結果を見ると、新型コロナウイルス感染症の影響によって住宅事業の市場環境が大きく、そして急激に変化している様子を伺い知ることができます。

例えば、営業活動におけるオンラインの活用状況について質問した結果では、全体で41.4%が「(オンラインの)活用あり」と回答しており、しかもその中の26.8%が「コロナ禍をきっかけに取り組み始めた」と答えています。

コロナ禍以前から、オンラインの可能性は注目されていました。リフォーム分野では、マッチングサイトからの受注を営業活動の中心に据えているリフォーム業者も少なくありません。その意味では、オンラインを活用した営業スタイルは、すでに住宅業界においても一定の支持を得ていたと言えます。しかし、コロナ禍によってオフライン、つまり対面での集客や接客が難しくなる中で、オンライン活用の機運が急速に高まり、大きな成果を得る企業も登場してきているのです。

(株)創樹社 代表取締役社長
中山紀文氏

オフライン以上の集客力を発揮するオンラインイベント

コロナ禍以前、住宅関連企業ではさまざまなイベントを開催し、集客を図ってきました。建築現場見学会や完成見学会、住まいづくり勉強会など。こうしたイベントを集客装置として、いわゆる「記名客」の獲得へとつなげていたわけです。コロナ禍で対面接客が困難になったことで、従来のイベントの開催自体が難しくなり、営業活動の“ネタ”となる「記名客」獲得ができなくなった企業も少なくありません。

こうした状況を打破するために各社が取り組み始めたのが、オンラインでのイベント開催です。ZoomやYouTube、Instagramなどを活用しながら、各社が趣向を凝らしたイベントを実施しています。
アキュラホーム(東京都新宿区、宮沢俊哉社長)では、2020年6月に自社で独自に開発した工法の強さを紹介するための公開実験をZoomでライブ配信し、全国5,706組もの人が視聴したそうです。同社では、その後も積極的にオンラインでの集客イベントを開催しており、受注回復を後押ししているとのことです。
一方で住宅事業者のオンラインイベント開催を支援するサービスを提供する企業も登場しています。SHO‐SAN(東京都国分寺市、髙谷一起代表)では、オンライン商談のために必要となる集客のためのツールや予約申し込みを受け付けるためのWebページ(ランディングページ)、オンライン商談を行うためのツールなどをパッケージとして提供するサービスを行っています。加えて、工務店向けのオンラインセミナー支援サービス「OM-S」も提供しています。

オンラインイベントのメリットと課題

オンラインでのイベント開催については、従来型のリアルな開催と比較すると低コストで実施できるというメリットがある反面、課題もあります。

メリット

✓主催側メリット:低コストで開催できる

✓参加者側メリット:

  • ・時間的な余裕があるときに参加できる
  • ・わざわざ会場まで行く必要がない
  • ・いきなり住宅会社の営業担当者などと接する必要がなく、気軽に参加できる

課題

✓従来のリアルなイベント開催と異なり、集客から受注につなげる道筋が確立できていない

✓気軽に参加できる反面、住宅取得やリフォームの意向が低い参加者も多くなる

開催コストを抑制することもでき、なおかつオフライン以上の集客力も期待できるオンラインイベントですが、今後はオンラインイベントの集客力を高確率で受注へとつなげる手法を確立していくことが求められるでしょう。

バーチャル展示場 3Dカメラで安価に開設することも可能に

バーチャル展示場を開設する動きも活発化しています。1社単独でバーチャル展示場を開設するだけでなく、オフラインの総合住宅展示場のように、複数の住宅会社のバーチャル展示場を集める、また実際のモデルハウスの3D写真を活用して、安価にバーチャル展示場を作成するなどのサービスもあります。
こうした安価なサービスを活用することで、より手軽にバーチャル展示場を開設する環境が整ってきています。

3DCGのバーチャル展示場「HOUPARK」

VR住宅公園(神奈川県川崎市・遠藤幸治社長)が運営。HOUPARKは3DCGやVRなどの技術を活用することで、オンライン上でモデルハウスを内覧・見学できるというもの。モデルハウスを見て興味を持った場合、工務店に問い合わせて、商談・契約を進められる。オフラインで展示場を出展するためにはイニシャルコストが数千万円、月々のランニングコストが数百万円かかるが、HOUPARKならイニシャルコストは150万円(IT導入補助金を活用すると50万円)、月々のランニングコストも9万円と、10分の1程度に抑えることが可能。加えて、機能を特化することで月額費用を3万6,000円に抑えたSプラン、2万7,000円のVプラン、さらには月額費用がかからないRプラン(期間限定)といった新プランも用意している。

空間3D撮影サービス「INTO(イント)」

野原ホールディングス(東京都新宿区、野原弘輔社長)が提供。実際のモデルハウスを高性能カメラで360°スキャンし、WEB上で実空間を疑似体験できる3Dコンテンツを提供するサービス。空間3D撮影から訴求力が高いコンテンツにするための基本編集サービスなどまでをパッケージ化して提供。INTOは、延床面積200m2までの戸建住宅であれば1棟当たり10万円で利用できる。さらに2021年春リリース予定の新サービス「inTOWN Cloud」では、バーチャル空間の閲覧者データが可視化され、閲覧状況や顧客の関心度など分析も可能。

バーチャル展示場が営業活動の精度を高める

バーチャル展示場については、単に集客機能だけではなく、その後の営業活動の精度を高めることに利用できる可能性も秘めています。バーチャル展示場の多くは、画像にさまざまな情報を埋め込むことができます。例えば、キッチンの画像にキッチンメーカーのオンラインショールームなどの各種コンテンツへのリンクを貼り、より詳しい商品説明を紹介することも可能です。これにより、来場者が何をどのくらい閲覧しているのかといったデータを分析して、接客活動の前に顧客の潜在ニーズを把握できれば、データに基づいたより科学的な営業活動が現実味を帯びてきます。

薄れつつあるお客さまのオンラインへの抵抗感

オンラインイベントやバーチャル展示場で集客し、そこから個別商談へと移行する段階でも、オンラインの活用が増えています。ファーストコンタクト段階から、リアルで対面するのではなくオンライン接客にすることで、商談のアポ獲得率が上がるという声も聞かれます。
オンライン接客については、Zoomなどのコミュニケーションツールを活用することが一般的になりつつありますが、お客さまが高齢の場合、最初の設定段階のハードルを越えることが難しい場合もあります。その場合、まずはお会いして面談し、日ごろから使用しているスマートフォンなどでZoomの設定を行い、使い方をレクチャーすることが求められるケースもあるでしょう。しかしながら、コロナ禍でシニア層でもスマートフォンなどを利用し、遠隔地に住む家族とコミュニケーションを取る機会が増えており、オンラインでの営業に対する抵抗感は薄れてきているようです。

オンラインならではのコミュニケーションの工夫

オンラインでの接客が増える中で、コミュニケーションの取り方にも工夫が求められそうです。画面上ではお互いの表情や雰囲気を把握しにくいという指摘もあり、より細やかな対応が求められます。時にはZoomなどに付随する資料共有機能の他、メーカーのオンラインショールームなどのデジタルコンテンツなども活用し、より訴求力が高い提案活動を行うことも検討すべきでしょう。

オンラインでのコミュニケーションの取り組み例

✓リアルなコミュニケーション以上に身振り手振りを大きくする
✓顧客を見下ろすような目線にならないようにパソコンの高さを調整する
✓簡易的な照明器具を用いて明るい印象を演出する
✓資料共有機能などを活用して提案書を共有しながらプレゼンする
✓建材・設備メーカーなどのオンラインショールームやシミュレーションツールなどを活用する

オフラインとオンラインを組み合わせて新たな道を切り拓く

今後の課題はオフラインのリアルなイベント開催同様、どのように受注に至るまでの道筋を構築していくかという点ではないでしょうか。最近では、オフラインとオンラインを組み合わせ、今までに以上に効率が良い受注活動を行う事例も出てきており、こうした成功事例を参考にしながら、新しい受注経路を開拓していく必要がありそうです。例えば、一般的なチャットツールを活用しながら見込み客とコミュニケ―ションを行い、展示場への来場へつなげている住宅企業も登場してきています。

オンラインを利用したお客さまとのコミュニケーションや営業手法は大きな可能性を秘めています。しかし、特に住宅についてはオンラインだけで完結するケースは少数です。目に見える効果を得るためには、オンラインを入り口として、どうやって実際の面談につなげ、さらに受注へとつなげていくかという道筋を明確にしていくことがカギとなるでしょう。

中山紀文(なかやま・のりふみ)
株式会社創樹社 代表取締役社長、Housing Tribune編集業務統括

株式会社創樹社に入社後、住生活産業の総合情報誌である『ハウジング・トリビューン』編集部で住宅建材などの分野を担当。屋上緑化などを取り上げた緑化・環境建築に関する専門紙を担当した後、ハウジング・トリビューンの取締役編集長に就任。2015年12月から代表取締役社長に。

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公開日:2021年03月29日