コロナ禍でリフォームを実施した50代・60代への調査(インタビュー編)

中山紀文(株式会社創樹社 代表取締役社長、Housing Tribune編集業務統括)

コロナ禍でリフォームを実施した50代・60代への調査(調査編)」では、コロナ禍で自宅をリフォームした50代・60代に対し、外出自粛による生活の変化や、リフォーム後の困りごと、リフォーム依頼先についてどのような考えを持っているかを調査した結果を解説した。今回は、調査結果を受けて、リフォームのメインターゲット層である同世代の消費者マインドの動向について、住宅産業総合誌『Housing Tribune』の編集業務を統括する創樹社の中山氏に話を聞いた。

中高年層のリフォーム需要を開拓するために
新たなニーズに対応した提案と信頼獲得のための取り組みを

消費税引き上げを契機に苦戦を強いられるリフォーム市場

リフォーム市場については、2019年10月から消費税率が10%に引き上げられたこともあり、厳しい状況を強いられています。国土交通省の「建築物リフォーム・リニューアル調査」によると、2019年度のリフォーム・リニューアル工事の受注高は、非住宅建築物が前年度比13.3%増の9兆2,451億円であったのに対して、住宅は同10.7%減の3兆4,943億円となっています(図1)。
こうした状況にコロナ禍が追い打ちをかけました。同調査によると、2020年度の第2四半期(7~9月)における住宅分野のリフォーム・リニューアルの受注高は、同時期前年度比13.2%減の8,537億円となっており、まだまだ厳しい状況が続いています。

(株)創樹社 代表取締役社長
中山紀文氏

図1 受注高の推移

「建築物リフォーム・リニューアル調査報告(令和2年度第2四半期受注分)」(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001377377.pdf)を加工して作成

コロナ禍によるニーズの変化を生かせるか

しかしながら、コロナ禍が今後のリフォーム市場にプラスの影響をもたらすのではないかという見方もあります。
LIXILが今回実施した「コロナ禍でリフォームを実施した50代・60代への調査(以下、LIXIL調査)」で、コロナ禍における生活の変化について、「休日の外出を控えるようになった」という回答が54.2%で最も多く、男性では22.0%が「自宅で仕事をするようになった」と答えています。外出自粛により在宅ワークや休日も自宅で過ごすことが増えると、 “おうち時間”を充実させたいという意向が高まるのは、必然的な流れと言えるでしょう。

また、LIXIL調査では、住まいの困りごとやリフォームニーズについても聞いており、こうしたニーズの変化をうまく取り込むことができれば、リフォーム市場が好転する可能性は十分にあるというわけです。
例えば、非接触型の水栓や抗ウイルス機能を備えた建材、室温を下げることなく換気できる空調整備、さらにはテレワーク空間をつくるための間仕切りやおうち時間を充実させるためのガーデンエクステリアなど、コロナ禍を踏まえたアイテムが充実してきており、こうしたアイテムを使ったリフォーム提案をしていくことで、新たなリフォーム需要が顕在化してくることは十分に考えられます。

グリーン住宅ポイント制度の活用

一方、政府ではコロナ禍による経済の低迷を回復させるために、グリーン住宅ポイント制度をスタートさせています。この制度は、一定以上の省エネ性能を備えた住宅の新築や購入、リフォームに、ポイントを還元しようというものです。ポイントは、「新たな日常」などに関連する商品に交換できる他、「新たな日常」と「防災」に関連する追加工事にも使えます。
先のLIXIL調査では、50代女性は「助成金(補助金制度)などの情報提供がしっかりしている」ことを、リフォーム依頼先を選定する際に重視していることが結果として出ています。こういったポイント制度をうまく利用し、お客さまのリフォームマインドを高めるだけではなく、有益な情報提供による他社との差別化につなげることができるのではないでしょうか。

増大するリフォーム工事への不安

今回のLIXIL調査では、リフォーム工事の打合わせについて、「基本的に『対面』を希望」という回答が56.2%を占めています。対面を希望する理由としては、「実際に会った方が話しやすい」が80%で最も多く、「実際に会って、人柄などを確認したい」、「商品などを直接見て確認したい」という回答が72.5%で2番目に多くなっています。 この結果から、やはり50代・60代という中高年層がリフォーム工事に対して何らかの不安を感じており、信頼できる会社・担当者であるかを見定め不安を払しょくするために、対面コミュニケーションを希望することにつながっていると推測ができます。
実際にリフォームにまつわる消費者トラブルは増加傾向にあります。訪問販売に関するトラブルの他、最近では悪徳業者による、いわゆる「点検商法」も問題視されており、消費者庁や国土交通省でも注意喚起を促しています。
持家率が高く、リフォームの潜在需要を持つ50代・60代、そして高齢者がこうしたトラブルの被害者となるケースも多く、若い世代以上にリフォーム工事に対して不安を感じやすいということが考えられます。

オンライン、オフライン両方での情報発信を

では、50代・60代から信頼を獲得するためには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。
(一社)住宅リフォーム推進協議会が実施した「住宅リフォームの消費者・事業者に関する実態調査」では、リフォーム実施者を対象として、世帯主の年代別にリフォーム事業者の選定で重視したことを分析しています。それによると40代以下の若年層では「工事価格が安いこと」(23.9%)が圧倒的に多くなっています。50代以上の中高年層でも最も多い回答は「工事価格が安いこと」(26.0%)ですが、「工事価格の透明さ・明朗さ」(22.9%)、「工事の質・技術」(22.6%)などの回答も目立ちます(図2)。中高年層には、費用明細や過去の施工事例などを参考に、価格の妥当性や工事の質、技術に関する情報を広く発信していくことが信頼獲得につながりそうです。

図2 リフォーム実施者:リフォーム事業者選定時重視点

「住宅リフォームの消費者・事業者に関する実態調査」(一般社団法人住宅リフォーム推進協議会)
http://www.j-reform.com/pdf/r2_chosa.pdf)を加工して作成

この調査では、若年層が全国規模の事業者を選ぶ傾向が強いのに対して、中高年層は地元企業を選ぶケースが多いことも明らかになっています。さらに、リフォーム実施者の事業者情報の入手方法としては、「インターネット」が若年層で36.2%、中高年層で25.0%となっている一方で、企業のショールーム訪問やセミナー参加といった「オフライン」については若年層で57.5%、中高年層で76.0%となっています。中高年層でもインターネットの情報収集は行っているものの、やはりオフラインからの情報収集が多くなっています

コロナ禍の影響もあり、今後、オンラインでの情報発信による“空中戦”がこれまで以上に重要になることは間違いないでしょう。その一方で、特に中高年層の信頼を獲得するためには、地域に密着したチラシの配布やイベント開催などの“地上戦“が変わらず大切であることは間違いありません。

信頼獲得には客観的な視点も有効

国土交通省では、住宅リフォーム事業者団体登録制度というものを実施しています。これは、消費者が安心してリフォームを行える環境を整備するために、一定の要件を満たしたリフォーム関連の団体を登録・公表する制度です。登録されたリフォーム関連の団体に加盟しているリフォーム事業者にとっては、こうした団体に入っていることで消費者に安心感をもたらすことが期待できます。このような制度も、50代・60代から信頼を獲得する有効な材料になるでしょう。

リフォーム事業をとりまく環境が変化する中で、今まで以上に消費者のニーズやマインドの動きを捉えた対応、世代に応じたきめ細やかな対応が求められそうです。

中山紀文(なかやま・のりふみ)
株式会社創樹社 代表取締役社長、Housing Tribune編集業務統括

株式会社創樹社に入社後、住生活産業の総合情報誌である『ハウジング・トリビューン』編集部で住宅建材などの分野を担当。屋上緑化などを取り上げた緑化・環境建築に関する専門紙を担当した後、ハウジング・トリビューンの取締役編集長に就任。2015年12月から代表取締役社長に。

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公開日:2021年03月29日