脱炭素社会の実現へ 未来世代に感謝される住まいづくりを

小山貴史(エコワークス株式会社 代表取締役社長)

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世界的に脱炭素化に向けた動きが加速しています。日本政府も2050年までにカーボンニュートラル社会を実現するという目標を打ち出しています。こうした状況の中で、住宅業界にはどのような対応や取り組みが求められるのでしょうか。エコワークス株式会社の社長として住宅事業を展開するだけでなく、国や業界団体の委員会、検討会などのメンバーとして、業界全体の脱炭素化を訴え続けている小山貴史氏にお話を聞きました。

10年前倒しで進む温暖化
住宅・建築分野の対策も待ったなし

2015年に開催されたCOP21でパリ協定が採択されたその時、私もパリにいました。日本気候リーダーズ・パートナーシップからお誘いいただき、COP21関連ビジネス会合に出席していたのです。COP21とは別の会場で開催されていたもので、気候変動対策とビジネスをテーマに議論が繰り広げられていました。その中で特に印象に残っているのが、オランダのある化学メーカーのCEOの言葉でした。

化石資源を利用しながら成長してきたグローバル企業のCEOが「石器時代には石を使いさまざまな道具を生み出した。しかし、現代では石はたくさんあるが、誰も使っていない。同じように石油や石炭があっても誰も使わない時代が来る」と語っていたのです。この言葉に衝撃を受けました。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書が今年8月に発表されましたが、今のままでは当初の想定よりも10年早く温暖化が進むという趣旨の報告をしています。
ヨーロッパでは日本以上に対策が急速に進んでいます。また、米国もバイデン政権になり、これまでの遅れを取り戻すように取り組みが進もうとしています。こうした流れの中で、ようやく日本でも菅政権が2050年までにカーボンニュートラル社会を実現すると宣言しました。加えて、2013年比での温室効果ガスの削減目標を26%から46%にまで引き上げました。
このNDC(Nationally Determined Contributionの略、パリ協定に基づき「国が決定する貢献」)46%という目標を達成するためには、住宅・建築分野での対策が必要不可欠です。しかし、現時点での住宅・建築分野の貢献度は決して高くないと言わざるを得ません。今後、住宅業界にはこれまで以上に低炭素化に向けた取り組みが求められるはずです。

省エネ化のコストは回収できる
お客さまのためにもしっかりと説明すべき

国土交通省、経済産業省、環境省の3省では、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」※(以下、あり方検討会)を開催し、今後の住宅・建築分野の省エネ対策の方向性を議論してきました。

(※出典:国土交通省ウェブサイトhttps://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000188.html)

第5回目の会合では、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方(案)」が提示され、2025年度に住宅も含むすべての建築物で省エネ基準への適合義務化に踏み切る他、遅くとも2030年までに義務基準をZEHレベルにまで引き上げる方針が示されました。
現在、正式なとりまとめに向けて最終作業を進めているところでしょうが、個人的には、ZEHレベルの省エネ性能ではなく、HEAT20の定めたG2レベルにまで早急に義務基準を引き上げるべきだと考えています。

住宅事業者としては義務化の前であっても、一定以上の省エネ性能を満たしていない住宅を提供するべきではありません。お客さまにデメリットをもたらす懸念があるからです。
例えば、現時点で省エネ基準を満たしていない住宅を供給したとします。その住宅は、2025年、省エネ基準が義務化された時点で、既存の法令を満たしていない住宅ストックになってしまう。さらに言うと、省エネ基準を満たしていても、ZEHレベルの省エネ基準が義務化される2030年になれば、同じように現行の法令を満たしていないことになります。当然ながら住宅の資産価値にも影響を及ぼし、結果的にお客さまに経済的な損失をもたらす懸念があるのです。

「省エネ化を行うことで結局はお客さまにコスト負担を強いるのではないか」という意見もありますが、LIXILさんのような建材メーカーの努力もあり、高性能建材のコストパフォーマンスは格段に高まっています。数十年前と比較すると、断熱化に要するコストは大幅に下がっているのです。長野県の「信州型健康ゼロエネ住宅(仮称)推進指針検討専門委員会」に提出された「資料3(ゼロエネ化のために必要な外皮性能と太陽光発電容量)」によると、UA値0.5にするための断熱コストのかかり増し費用は51万6168円となっています。この試算を見ても、断熱化でコストが大幅に増えるわけではないことが理解できるはずです。

また、当社の経験から言うと、温暖地であればZEHレベルの断熱性能に要するコストは10年~20年で確実に回収できます。G2クレードであっても、長く見積もっても30年で回収できるはずです。断熱化コストが下がっているだけでなく、エアコンの台数などを減らす効果もありますから。
加えて言えば、高断熱化によって快適性も確実に向上します。こうした点をお客さまにしっかりと説明してください。最終的にはお客さまのメリットになっていくのです。

太陽光発電は建物と切り離して説明すべき
PPAという選択肢も

あり方検討会のとりまとめ案では、「2030年に供給される新築戸建住宅の約6割に太陽光発電を導入する」という目標が明記されています。私は特例措置などを丁寧に設定した上で、設置可能な住宅には基本的に全て太陽光発電を導入すべきだと考えています。当社で供給する住宅については、9割に太陽光発電が搭載しています。
先進的に断熱化に取り組んでいる工務店の方々でも、太陽光発電を積極的に提案していないケースが多いようです。しかし、脱炭素化のためには、やはり可能な限り太陽光発電を設置していくべきです。

当社では、建物と太陽光発電は別に考えています。お客さまに建物部分の提案などを行い、プランなどがある程度決まった状態で、太陽光発電について説明するようにしているのです。お客さまとの信頼関係が築けていない状態で太陽光発電の説明を行うのではなく、建物の内容が固まった時点で提案するのです。

太陽光発電は将来への投資のような側面があります。余剰電力の買取価格が下がってきたと言っても、基本的には20年で3.2%の利回りが発生するような形で買取価格が設定されており、今でも十分に初期コストは回収できます。この先、年間何十万円もの電気代を支払っていくのか、初めの段階でコストを負担し、将来的な経済メリットを享受するのか。そういった説明を丁寧に行うことで、多くのお客さまは太陽光発電を選択します。
また、どうしても資金的に難しいというお客さまには、PPAモデル(第三者所有型)をおすすめしています。PPAモデルであれば、初期費用をかけずに太陽光発電を設置できます。

未来の世代に感謝されるか
それとも恨まれるか

日本でも脱炭素に向けた取り組みが加速してきているとはいえ、ヨーロッパなどと比較するとまだまだ遅れています。とくに住宅・建築分野について言えば、多くのポテンシャルを秘めているにもかかわらず、対策がなかなか進んでいかない。こうしている間にも十分な省エネ性能を持たない住宅が建築され、未来に負の遺産をもたらそうとしています。
未来の世代に「2020年代の人たちのおかげで脱炭素社会が実現した」と感謝されるのか、それとも「2020年代の人たちは将来のことを予測していたのに、どうして省エネ性能が低い住宅をわれわれに残していったのか」と恨まれるのか。その分岐点にわれわれが立っていることを意識して、住宅事業を行うべきではないでしょうか。

※本記事の内容は2021年8月18日取材時のものです。

小山貴史

小山貴史(おやま・たかし)

エコワークス株式会社 代表取締役社長

エコワークス株式会社代表取締役社長。1964年熊本県生まれ。1987年京都大学工学部卒業。IT企業、新産住拓株式会社を経て2004年にエコワークスを創業し、九州エリアにてエコハウスの普及事業を展開。2012年に地球温暖化防止活動で環境大臣表彰受賞。ZEHロードマップ検討委員会委員(経済産業省)、グリーン建築推進フォーラム委員(IBEC)などの公職を歴任。環境活動をライフワークとしている。一般社団法人 ZEH推進協議会理事。

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公開日:2021年09月22日

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