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ライフスタイルと住まいのトレンド予測【24年度上期版】
変化が激しく予測が難しい”VUCA”の時代には、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することが重要です。本レポートは、多角的な視点とデータを用いて、未来のライフスタイルや住まいのトレンドを予測します。新しい視点や実用的な知見を得て、未来の変化に備え、時代をリードする洞察を手に入れていただければ幸いです。
VUCAの時代に求められること

VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、急激な変化と予測困難な状況を意味します。このVUCAの時代を乗り越えるためには、以下の3つのスキルが必要です。
1.明確なビジョン
激変する環境に対応しなければならない時に対症療法的な対応になりがちですが、明確なビジョンを持つことで、一貫性のある対応策を打ち出すことができます。
2.変化を恐れないマインドセット
従来のやり方が通用しないケースが増えることが予想されます。新しいことを肯定的に受け入れ、チャレンジするマインドセットが求められます。
3.情報収集と継続的な学習
急激な変化を捉えるためには、情報収集や学習が欠かせません。変化は連鎖するため、常にウォッチし続けることが重要です。
5つのトレンドテーマ
2024年度上期のトレンドを5つのテーマに分類しました。それぞれのテーマについて解説していきます。
1.物価、金利、賃金の連鎖的な上昇社会が訪れる

「失われた30年」は、我慢と停滞の社会、そして消費マインドの低迷が続いた時代でした。しかし、2024年の春には昭和バブル期の最高株価を突破し、長い間低金利に固定されていた政策金利も次々と引き上げられました。これにより、賃上げは大企業から中小企業へと波及し※1、さらにはコスト抑制によって高齢化していた設備への投資も再び活発化しつつあり、これらの変化により生産性の向上が期待されています※2。
現在、物価と金利、賃金の連鎖的な上昇が実現し、成長する社会の姿が少しずつ見え始めています。しかし同時に、インフレの進行も続いており、住宅ローン金利も上昇しています。現在は減税により「実質ゼロ」の状態が続いているものの、2025年には金利が発生する状態になると予測されており、このような経済環境の変化を脅威と捉えるか、機会と見なすかによって、企業のマーケティングアクションは変わってくるでしょう※3。
消費マインドの変動幅が大きくなる環境下では、生活者へのアプローチの仕方が問われています。企業は柔軟かつ戦略的な対応を求められることでしょう。経済は新たな局面を迎えています。この変化の中で企業がどのように消費者と向き合い、成長を遂げていくのか、その動向に注目が集まります。
※1:JIJI.COM 2024年3月15日
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031501063&g=eco
※2:ニッセイ基礎研究所 2024年2月16日
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77590?pno=3&site=nli
※3:公益社団法人日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」 2024年5月14日
https://www.jcer.or.jp/jcer_download_log.php?f=eyJwb3N0X2lkIjoxMTUwODUsImZpbGVfcG9zdF9pZCI6IjExNTA3NCJ9&post_id=115085&file_post_id=115074
2.人口減少と労働力不足による課題が身近にせまる

2023年の出生率は1.20となり、過去最低を記録しました。同時に、婚姻数や出生数も戦後最低を更新しています※4。人口減少への対策には長期的な視点が必要だと言われ続けてきましたが、少子化対策が始まってから30年が経過し、これまでに累計66兆円以上の予算が投入されているにもかかわらず、少子化の問題は依然として解決されていません。※5。
人口流入が多い一方で、出生率が低い自治体は「ブラックホール型」と分類され、この傾向を改善するために家族向け住戸の設置が求められるようになっています※6、7。また、地域社会では高齢化と人手不足が進行しており、人材マッチングやデジタルトランスフォーメーション(DX)支援の取り組みが増加しています※8。
少子化対策が底を打たない現状に対し、複数の視点から新たな対策が進められています。特に、少子化の遠因とされる働き方の改善にも重きが置かれています。具体的には、労働時間の削減、在宅勤務の推進、男性の育児休暇取得の拡大、運動習慣の促進、さらには賃金の引き上げも実現しようとしています。こうした多角的なアプローチが、少子化解決に向けた社会の動きに新たな変化をもたらしつつあります。
※4:厚生労働省「令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況」 2024年6月5日
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/index.html
※5:朝日新聞「家庭支援、10兆円予算でも見えない効果 読み解く三つのキーワード」2023年2月1日
https://www.asahi.com/articles/ASR2143LGR1ZUTFL00S.html
※6:人口戦略会議「令和6年・地方自治体「持続可能性」レポート」 2024年4月24日
https://www.hit-north.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/04/01_report-1.pdf
※7:豊島区「としまファミリー住戸附置指導要綱」 2024年4月1日
https://www.city.toshima.lg.jp/314/machizukuri/sumai/2403211153.html
※8:港区「イベントお助けバンクを開始します」2024年5月14日
https://www.city.minato.tokyo.jp/houdou/kuse/koho/press/202405/20240514_press01.html
3.コストプッシュに対応する賢い選択肢を求める人が増える

産労総合研究所の調査によると、2024年度の新入社員は「セレクト上手な新NISA型」と発表されました※9。ガマンと停滞の社会から、成長・上昇の期待が持てる社会への過渡期に登場したこの若者たちは、自らのパフォーマンスを最大限に発揮できる選択肢を見極め、選び取る能力に優れています。企業や社会全体でも、新しい時代にふさわしい賢い選択肢の提示が進んでいます。
例えば、アパレル業界ではタイムレスな「静かな贅沢」の人気が高まり※10、インテリア分野では日本と北欧の文化の融合に注目が集まっています※11。また、住まいの提案においても、ポストコロナ環境に対応し、広さよりも利便性や効率性を重視したアイディアが台頭しています※12、13。
成長と上昇を目指す社会への変革期にあって、企業や個人は新たな選択肢を提供することが求められます。しかし、その一方で選択肢の数を厳選し、「レス・イズ・モア」の理念を取り入れることが重要です。選択肢を減らしながらも質の高い選択ができるようにするためには、高度なプランニングが求められます。
※9:株式会社産労総合研究所「2024年度(令和6年度)新入社員のタイプ」2024年3月28日
https://www.e-sanro.net/freshers/?page_id=873
※10:SPUR.JP 2023年10月30日
https://spur.hpplus.jp/fashion/feature/t/c01_231030ahN1lA/Kpu2hg/
※11:VOGUE JAPAN「海外発の注目インテリアトレンド、ジャパンディ──日本×北欧の文化が織りなす、新たなミニマリズム」2023年9月3日
https://www.vogue.co.jp/article/us-vogue-japandi-interior-design-trend
※12:コスモイニシア「シェアレジデンス nears 川崎」 2024年6月
https://nears-residence.com/kawasaki/
※13:三井不動産レジデンシャル「SOCO HAUS」 2024年6月
https://www.soco-haus.com/
4.ウェルビーイングのためのテクノロジーが躍動する

日本では、不眠による経済損失が15兆円を超えるとされています※14。この深刻な問題に対処するため、スリープテックという分野が注目を集めています。異業種が連携してスリープテックを推進するコミュニティと経済圏が拡大し※15、日本の生活者が睡眠の質を求めていることを表しています。
また、増加する異常気象への対策として、天気による行動や体調への影響を抑えるために、精度の高い天気予報の有料サービスも人気を集めています※16。ここ2年で私たちが体感した気候変動が、新たな市場を誕生させました。
さらに、複数の感覚が相互に作用し、体感や感情の変化を促す「クロスモーダル」技術を活用した商品の開発も進んでおり、人々のウェルビーイングな状態を維持するために大いに役立っています※17。睡眠から気象対策、クロスモーダル技術まで、さまざまなアプローチが私たちのウェルビーイングを支えています。
これからの日本において、これらの技術がどのように進化し、私たちの生活をより豊かにしていくのか、注目が集まっています。
※14:NEWPEACE「たまり続ける「睡眠負債」」 2024年7月17日
https://www.newpeace.com/knowledge/3
※15:ZAKONE 2024年7月17日
https://zakone.jp/
※16:日本経済新聞「天気予報「有料」で快晴 趣味や健康、毎日数十円の支え 2024年4月3日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB192AF0Z10C24A3000000/
※17:博報堂 ニュース 2022年5月25日
https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/98057/
5.持続可能な住まいの新たな方向性が示される

持続可能な住まいのあり方が再び注目を集めています。特に注目すべきは、素材や原材料を永続的に循環させることを目指す「マテリアル・パスポート」の取り組みです。この取り組みが欧州各地で静かに進行しており、その最終的な目標は「リユース建材市場の標準化」にあります※18。
一方で、日本の課題として「空き家問題」が深刻です。空き家率は過去最高を記録し、20年前の1.8倍に達しています※19。この問題を機会と捉える外国人も増えており、彼らは過小評価されている田舎の空き家を購入しています。彼らの視点から見る「住まいの資産価値」や「古い家の伝統・文化の価値」は、持続可能な住まいのあり方の新たなヒントとなるでしょう※20。
また、AIの導入により生活の利便性は向上しているものの、消費電力の増大という課題も見えてきました※21。温暖化が進む今、電力消費を抑えるための建物への取り組みも始まっています※22、23。これによって、AIの恩恵を享受しつつも環境への負荷を最小限に抑えることが求められています。
成長を続けながらも持続可能な住まいのあり方が問われています。
※18:Circular Economy Hub「建設業界におけるマテリアルパスポート普及に向けた戦略とは?」2024年2月28日
https://cehub.jp/interview/waterman-material-passport-2/
※19:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 調査の結果」2024年4月30日
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html
※20:AKIYA&INAKA「AKIYA&INAKAについて」 2024年5月15日
https://www.akiyainaka.com/ja/about/
※21:電気新聞デジタル 2024年2月28日
https://www.denkishimbun.com/sp/354170
※22:環境省 先進的窓リノベ2024事業
https://window-renovation2024.env.go.jp/
※23:IES「雨漏り/遮熱塗装」2022年5月6日
https://ies-japan.co.jp/businesses/painting/leakage
まとめ・提言
Generate New Smart Choice ー新しく賢い選択肢を提示しようー
賃金や金利、コストが上昇する社会が到来し、人々の視線はより未来へ向けられています。人口減少や少子化による労働力不足が各所で顕在化する中で、心身の負担や不安を緩和し、持続可能な社会を維持するためのアイディアが求められています。このコスト増加および人口減少の社会において、幸せに暮らすためには、新しく賢い選択が必要です。そのためには、レス・イズ・モアという視点を持ち、少なくとも効率的で賢明な選択肢を準備することが求められます。
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公開日:2025年01月23日