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ライフスタイルと住まいのトレンド予測【24年度下期版】
変化が激しく予測が難しい”VUCA”の時代には、環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することが重要です。本レポートは、多角的な視点とデータを用いて、未来のライフスタイルや住まいのトレンドを予測します。新しい視点や実用的な知見を得て、未来の変化に備え、時代をリードする洞察を手に入れていただければ幸いです。
VUCAの時代に求められること

VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、急激な変化と予測困難な状況を意味します。このVUCAの時代を乗り越えるためには、以下の3つのスキルが必要です。
1.明確なビジョン
激変する環境に対応しなければならない時に対症療法的な対応になりがちですが、明確なビジョンを持つことで、一貫性のある対応策を打ち出すことができます。
2.変化を恐れないマインドセット
従来のやり方が通用しないケースが増えることが予想されます。新しいことを肯定的に受け入れ、チャレンジするマインドセットが求められます。
3.情報収集と継続的な学習
急激な変化を捉えるためには、情報収集や学習が欠かせません。変化は連鎖するため、常にウォッチし続けることが重要です。
5つのトレンドテーマ
2024年度下期のトレンドを5つのテーマに分類しました。それぞれのテーマについて解説していきます。
1.物価・金利・賃金の上昇が「住まい」に反映される

2023年に入り、物価、金利、賃金が相次いで上昇し、「住まい」にもその影響が強く現れています。住宅価格が5000万円を超えることが珍しくなくなり、さらに住宅ローンの変動金利が17年ぶりに上昇したことが影響しています。そのため、生活者たちは賢い選択を求め、家のスペースパフォーマンスの向上を図る動きが活発化しています。
金銭的な負担の上昇は、多くのファミリーに影響を及ぼし、都心での子育てを考慮した結果、住宅購入資金を貯めるために手狭なカップル向け賃貸を選ぶケースが増えています。そのため、23区でカップル向け賃貸住宅の賃料が高騰しています。
さらに、住宅の価格調整も静かに進行中です。住宅の面積が縮小し、2000年代にピークを迎えた広さが、現在では30年前のレベルに戻りつつあります※1。このトレンドに対応するため、狭い居住空間を効率的に利用するためのスペース活用商品の開発が進められています。
このように、2023年の物価・金利・賃金の上昇は住まい選びに大きな影響を与えており、賢い選択とスペースパフォーマンスの向上が求められる時代となっています。
※1:総務省「住宅・土地統計調査」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search?page=1&toukei=00200522&survey=%E4%BD%8F%E5%AE%85%E3%83%BB%E5%9C%9F%E5%9C%B0
2.AIやロボットが人間のようにふるまう社会がやってくる

人手不足が進む接客や工事の現場では、AIやロボットの導入が急速に進んでいます。たとえば、「おもてなし」や職人の技術など、これまで人間にしかできなかった役割を、AIやロボットが補う事例も増えています。今後は、例えば中国のように日常生活でもAIエージェントとの対話や相談ができる社会が広がると期待されています。
具体的な事例として、「AI幹事」をご紹介します。これはGateboxが提供するAI接客サービスで、生成AIの画像認識技術を活用し、顧客のグラスの空き具合を自動的に判別、定期的に注文を促す機能が備わっています※2。このシステムにより、スムーズで効率的なサービスが提供されます。
日本では、独自のホスピタリティ文化をAIで実現しようとする動きも顕著です。例えば、落とし物の管理を行うAIや、ウェディングプランの進行をサポートするアプリなどが開発されています。これらの事例は、「おもてなし文化とAIの融合」を象徴するものとして、日本が先頭に立っていることを示しています。また、大林組などの企業は遠隔操作の競技会を開催し、プロゲーマーや学生が参加しています※3。これにより、建設現場での適性を持つ人材を見極め、新たな生産性向上の方法を模索しています。
さらに、ビジネスシーンでも「AIエージェント」の活用が急速に進んでいます※4。この背景には、学習データの充実と「推論力」の進歩があります。中国では、「AIエージェント」がビジネスシーンだけでなく、日常生活にも広く浸透しています。
例えば、中国では生成AIが家族関係の相談やタクシーの予約など、日常生活の様々な場面で使われています。特に注目すべきはバイトダンスの生成AIアプリ「豆包(ドウバオ)」です。様々な仮想キャラクターと対話や悩み事の相談ができ、多くの人々がこのAIを日常的に使って会話を楽しんでいます※5。
今後の社会では、AIやロボットがさらに人間らしくふるまい、私たちの生活をますます豊かにしてくれることでしょう。
※2:Gatebox「AI幹事」 2024年11月16日
https://www.gatebox.ai/aikanji
※3:一般社団法人 運輸デジタルビジネス競技会 プレスリリース 2024年10月11日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000032158.html
※4:Letta AI Agents Stack 2024年11月14日
https://www.letta.com/blog/ai-agents-stack
※5:日本経済新聞 2024年12月6日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO85272270V01C24A2FFJ000/
3.インフレ環境における「賢い選択」の具体例に注目が集まる

現代社会は上昇・成長・加速の一途をたどっていますが、多くの人々が選択と集中の行動を取るようになっています。無駄を削減し、SNSの映えやバズりを追うのではなく、「笑うこと」や「ゆっくり過ごすこと」を優先する傾向が見られます。結果として、「賢い選択」の具体例に注目が集まっています。
食品メーカーや百貨店では「レス・イズ・モア(少ないほど豊か)」の方針が主流になっています。商品点数を減らし、利益の高い商品に経営資源を集中させることで効率化を図っています。例えば、食品メーカーでは約6割の加工食品ラインナップが削減されており※6、日用品メーカーでも、制汗剤や電動歯ブラシを中心に全体の約3分の1が削減される動きが見られます。これにより、消費者は選択肢を絞りつつ、生活の質を向上させています。
2023年9月に公表された「厚生労働白書」※7では、ストレスリスクの上昇が指摘されており、日本企業はメンタルヘルス対策を強化しています。その一環として「笑い」と「健康」に関連する商品・サービスの開発が進んでいます。たとえば、アシックス・キリン・NTTなど各社が「笑いを通じた健康ビジネス」を模索し、笑いを取り入れた新しい健康へのアプローチが注目されています。
一方、企業や消費者の間では、あえて「映えない」「バズらない」選択をする動きも広がっています。たとえば、原宿の銭湯である小杉湯※8は、バズらせない戦略で注目を集めています。小杉湯は2024年に新スポット「ハラカド」を開業する際、営業時間を限定して地元住民や働く人のみを対象に開放することで、バズらない選択をしました。この取り組みも注目を浴びています。
このように、インフレ環境下での「賢い選択」は、日常生活や企業戦略においてますます重要になっています。
※6:日本経済新聞「食品、6割の品目で点数減 ソーセージなど売れ筋に集約」2024年8月21日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2423W0U4A320C2000000/
※7:厚生労働省「令和6年版 厚生労働白書」 2024年9月27日
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/23/index.html
※8:小杉湯 原宿 2024年11月16日
https://kosugiyu-harajuku.jp/
4.ヒト・モノ・カネの移動を観察する技術が求められる

現代社会では、AIと共に暮らすための技術やインフラが急速に進化しています。この進展は、人手不足やインフレ対策としても活用されており、AIの学習にはこれまで取得できなかった新しいデータが求められています。AI技術の進化とともに、「ヒト・モノ・カネ」の移動や存在を観察し、効果的に管理する技術の重要性が日に日に高まっています。以下、ヒト・モノ・カネの観点から、それぞれ具体的な事例をご紹介します。
ヒトの移動に関する技術として、AIロボット分野では、家事自動化のための学習データが今まさに求められています。たとえば、テスラの人型AIロボットは日本で初披露され※9、米国のスタートアップ企業も家事をこなすロボット開発を加速しています※10。また、ヒトの健康と都市環境の関係性にも注目が集まっています。ストックホルムでは、住民の気分に合わせて街の色を変える試みが行われています※11。さらに、ウェアラブルデバイスの進化によって、都市や住まいと健康・幸福を結びつける「神経建築学」への関心も高まっています※12。
モノの移動に関する技術として、中古品の再流通(リコマース)の分野も進化しています。
米国パタゴニアでは、新品と中古品を同時に比較・購入できるECサイトが運営されており、ユーザーは環境への配慮と快適な購買体験を両立できます※13。他にも、コーチやザラといったブランドも同様の取り組みを展開中です。また、不動産市場では「不動産ID」システムの導入が進み、住所情報の取り扱いが簡素化されたことで情報共有の効率化が図られています。この実証実験には、昨年12月から20の自治体が参加しています※14。
カネの移動に関する技術として、「信用スコア」の導入が進んでおり、これによって融資や雇用において有利な条件が提供される可能性があります。日本においては、CICの「クレジット・ガイダンス」は昨年11月から始まり、新たなビジネスモデルの構築にも貢献しています※15。
このように、ヒト・モノ・カネの移動に関する技術の重要性はますます高まっており、それぞれの技術が新しいデータの収集と利活用を支えています。今後もこの分野での進化が期待されます。
※9:EVcafe 2024年12月3日
https://www.webcg.net/feature/evcafe/article/51235
※10:Maginative 2024年11月15日
https://www.youtube.com/watch?v=J-UTyb7lOEw
※11:National Geographic 「How Your City Feeling?」 2008年1月29日
https://www.nationalgeographic.com/travel/article/how_is_your_city_feeling
※12:WIRED 「THE WIRED WORLD IN 2025」 2024年12月17日
https://wired.jp/magazine/vol_55/
※13:Retail Touch Points 2024年10月28日
https://www.retailtouchpoints.com/topics/digital-commerce/e-commerce-experience/patagonia-deploys-new-resale-tech-that-integrates-pre-owned-and-new-products
※14:日本経済新聞 2024年11月5日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO84570650V01C24A1MM8000
※15:シー・アイ・シー クレジット・ガイダンス
https://www.cic.co.jp/credit-guidance/
5.高齢化社会に対応して言葉や価値観のアップデートが進む

日本は高齢化先進国として、高齢者の雇用促進と活躍の支援を積極的に進めています。これに伴い、老いに関わる言葉や価値観の更新も必要不可欠となっています。高齢者が社会を牽引する一方で、生活しやすいスローテンポな暮らしの提案も見られるようになりました。
総務省の「統計から見た我が国の高齢者」レポート※16によると、2023年の65歳以上の就業者数は914万人で過去最多を記録し、就業率は25.2%に達しています。特に65歳から69歳の年齢層では52%が働いており、高齢者が社会で重要な役割を果たしていることが示されています。
高齢化や高齢者の独居が進む中、一部の自治体や店舗では「スローショッピング」という新たな取り組みが始まっています。これにより、高齢者が自分のペースで買い物を楽しめるようになっています※17。ポストコロナ社会では、スローなライフスタイルの価値も一層高まっています※18。
アメリカの長寿ケア企業からは、高齢者に関連する用語のアップデートも提案されています※19。例えば、「高齢者」を「熟練者」、「定年退職」を「ポストキャリア」と呼ぶといったアイデアです。こうした用語の工夫により、新たな視点やポジティブな価値観が広がり、高齢者に対する見方もより前向きになることが期待されています。
このように、地域や企業が進めるスローショッピングや用語のアップデートは、高齢者の生活の質向上を目指す重要な取り組みです。高齢者の暮らしを支えるための新たな仕組みづくりが、今後ますます重要になっています。
※16:総務省「統計からみた我が国の高齢者」 2024年9月15日
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics142.pdf
※17:セブン&アイ・ホールディングス
https://www.7andi.com/sustainability/statement/project/iy02_relay2024/index.html
※18:Office for National Statistics
https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/healthandsocialcare/healthandwellbeing/bulletins/coronavirusandthesocialimpactsongreatbritain/26june2020
※19:MODERN AGE「Meet The Aging Index: An Updated Way to Talk About Aging」2024年1月11日
https://www.modern-age.com/blog/the-aging-index/
まとめ・提言
Always Feeling @ HOME
ー住まう人を感じ続ける住まいづくりをしようー
近年、物価や金利、そして賃金が上昇し、経済の好循環が続いています。このような経済状況のなか、人々はより賢い生活の選択をし始めています。
生産性向上の手段として、AIの活用が急速に進展しています。特にこの半年間で、AIを活用して人々のデータから新たな洞察を得る重要性が再認識されました。しかし、そのために必要な学習データが不足しているという課題も浮き彫りになっています。
この課題を解決するためには、家庭内のデータを効果的に活用することが期待されています。住宅に住む人々のデータを収集・分析することで、住まいに新しい価値と役割を提供し続けることが可能となるでしょう。
私たちは、住まいを単なる生活の場として捉えるのではなく、「住む人々を感じ続ける住まいづくり」を目指すべきです。そのためには、最新の技術とデータを駆使し、常に住む人々のニーズを満たす住まいを提供することが重要です。これらの取り組みが、今後の住まいづくりにおいて重要な鍵となるでしょう。
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公開日:2025年05月26日