断熱リノベの匠 第11回

三代で、建て継ぐ、信楽の家

森 昌智 (代表取締役/ 株式会社 森工務店)

「断熱リノベの匠(たくみ)」は、工務店・ビルダーさまによる断熱リノベーションの新たな挑戦、注目すべき取り組みの事例を連載でご紹介していきます。

今回ご紹介するのは、創業83年、滋賀県甲賀市で愛され続けている森工務店。その三代目として、新築・リノベの設計・デザインを手掛ける匠です。地域工務店として「安心・安全・健康、長持ちする家をつくる」「地域のひと同士のつながりをつくる」「活気あふれるまちをつくる」この3つを基本軸にさまざまな活動を行う中で、断熱リノベのモデルハウスをつくり、新たな事業戦略をスタート。その様子をレポートします。

株式会社 森工務店 代表取締役 森 昌智 氏

日本六古窯のひとつとして知られる陶芸のまち信楽町で、昭和18年に大工であったお祖父様が創業した森工務店。森 昌智氏は自らも大工として現場を経験し、今は設計・デザインを手掛け、地域に根差した工務店としてまちの暮らしを支えています。

そんな匠が挑んだのは、自身が育った実家のフルリノベーションです。74年前にお祖父様が建て、50年前にお父様が増築、その「家族の歴史」を壊すのではなく高性能な断熱リノベによって建て継ぎ、モデルハウスとして再生する道を選択されました。

「祖父が建てた家を父が増築し、それを私がリノベする。このストーリー自体が、お客様の心に響く価値になると…」祖父の代からの立派な梁、父が手掛けた鎧張りの外装などをあえて「見せる」ことで、新築にはないリノベならではの物語を体感していただく。それはお客様にとっても家の記憶、思い出を残すという、共感につながるのではないかと森氏は語ります。

その背景にあるのは、新築が年間6棟程度しか建たないという地域の厳しい現状です。「まちに眠る約4000世帯の既存住宅をいかに快適な家に変えていくか」。その使命感と市場開拓の必然性が森氏をリノベのモデルハウスという新たな挑戦へと突き動かしたのだといいます。

美しい里山の風景が残り、『信楽焼』の産地として知られるこの町は、タヌキの置物で溢れています。歴史と文化が融合した信楽町には、国内外からの移住者が多いとのこと。匠はその土地柄からも、古い建物を壊さずに残すリノベとの相性が良いと考えているそうです。

地域の特性に合った、モデルハウスのデザインと運営に戦略あり

モデルハウスを手がけるのは初めてという匠ですが、さてどのような空間づくりを行なったのでしょうか。

まずデザイン面では、信楽という土地の歴史や文化を巧みに取り入れたとのこと。たとえば、外構には地元の「長石」を敷き詰め、外壁の塗り壁は信楽の土の質感をイメージ。玄関を開ければ、まるで風景画のように見える窓を設え、さらに特注の信楽焼・洗面ボウルや真鍮を用いたオーダーキッチンなど、細部にまで「一点物」へのこだわりを凝縮させたのだそうです。それらは地元の芸術家や移住者が多い町において、森工務店の「感性」を伝える重要なメッセージとなっています。

しかし、本質はデザインだけではありません。特筆すべきはその性能です。大きな開口部を設けながらも、外断熱と内断熱を組み合わせた付加断熱により、U A値0.39という断熱性能を実現。かつては冬場の光熱費がかなり高額だったそうですが、リノベ後は大きく削減。この断熱性の体感こそが何よりの説得力になると匠は語ります。

また、森氏にとって、このモデルハウスは「未来への投資」だとのこと。今やらないと手遅れになると考え、善は急げと決断。「信楽の新築需要は限られています。しかし、先ほどもお話ししたように断熱不足に悩む既存住宅は4000世帯もあります。だから、ここを起点に3年後リノベ市場を爆発させたい」 との熱い想いがあるといいます。

その戦略は空間づくりにも反映されていて、モデルハウス内には、多目的ホールが設けられており、地域の人々や作家が集うワークショップを毎月開催する計画とのこと。「地域の人をつなぎ、町を活気づける」という森工務店の理念を、まさに具現化した場所といえます。

「これは地域特性だと思いますが、いい噂も悪い噂も一瞬で伝わります」と森氏。よい結果を生み出せばそれが伝染していき、その発信元としてモデルハウスは一役買ってくれると期待しているそうです。

木目が美しい地元の大橋の杉材を使用した造作棚。存在感を放つキッチンはオーダー品。フレームやコンセントには真鍮があしらわれ、こだわりが詰まっています。

森氏が暮らしていたときは自分の部屋だったという開放感あふれる2階の空間。窓を開けておくと川から吹いてくる風が心地よいのだそう。10メートルほどある棟木はすべて一本物とのこと。

棟木などの躯体を生かし美しくデザインされた寝室。窓からは夏の花火大会が見えるのだとか。今後、体験宿泊も想定しているとのことです。

写真左:サイズ、デザイン、釉薬まで指定してオーダーで作った、信楽焼の洗面ボウル。
写真右:玄関ホールから見えるFIX窓越しの坪庭。正面から見ると坪庭の景色が一幅の絵画に。

築74の住宅を「まるごと断熱リフォーム」で、HEAT20 G2を超える性能に(SW工法リフォーム)

匠がモデルハウス戦略とは別にもう一つ重視しているのが、カバー工法による断熱リノベなのだとか。4号特例の縮小もあり、確認申請を伴う大規模改修にはハードルを感じるお客様がいらっしゃるとのことで、外壁の上から断熱材とサイディングを施工するカバー工法の実績を積み重ねるように。コストを抑えつつ、光熱費を下げる。この「手の届く快適さ」の提案が大きな武器になると手応えを感じているそうです。

実際にスタッフの実家が「めちゃくちゃ寒い」とのことで、カバー工法で改修したところ、ご両親が「暖かくなった」と大喜び、という身近な実例もあるとのこと。

また、匠は森工務店の将来も見据えておられます。「現在違う会社で修行中の長男、大工である次男、広報を担う長女のためにも、新築とリノベの両輪で戦える盤石な基盤を築いてから託したい」とのことで、次世代へと続く未来を描くという想いがあるようです。そんな匠の挑戦はまだ始まったばかり。実りある成長に期待しつつ、今後の動向にも注目してみたいと思います。

森工務店の創業者であるお祖父様が昭和26年に建てた家、当時の写真。その後、お父様が増築され、Beforeの写真となり、今回フルリノベーションし、現在の姿に。

Before

After

Before 平面図

昔ながらの日本家屋らしい2階建住宅。1階右側の点線で囲んだスペースが50年ほど前にお父様が増築した部分。

After 平面図

モデルハウスを目的にプランを一新。 宿泊体験を想定した寝室やイベント用の多目的ルームも備えている。

まるごと断熱リフォーム(SW工法リフォーム)のイメージCG

断熱リノベによる既存住宅の高性能化によって、外の温度の影響を受けにくく、家の中の快適な温度を逃しにくくなるため、冬は暖かく夏は涼しく過ごせる暮らしを実現。

Reform Data

延床面積:139.71坪/木造2階建/築年数:1951年に竣工・築74年/エリア:滋賀県甲賀市信楽町 断熱リフォームによる性能改善:省エネ区分 5地域 改修後UA値:0.39W/㎡K C値:1.22 ㎠/㎡

築74年の住宅ではあるものの、残せる躯体はできるだけ残しフルリノベーション。建築の軌跡を大切にしながら、丁寧に断熱・耐震工事が進められました。

LIXILまるごと断熱リフォームによって、断熱性能はHEAT20 G2グレードを超える水準のUA値0.39W/㎡Kに大きく改善。

ビルダー紹介

社名 株式会社 森工務店
所在地 滋賀県甲賀市信楽町長野343
創業 1943年
URL https://morikoumuten.info

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公開日:2026年07月28日