建築の脱炭素は「実装」の局面へ
ホールライフカーボン時代に、LIXIL「PremiAL」が示す現実解
株式会社LIXIL 執行役専務 吉田 聡
慶應義塾大学名誉教授 伊香賀 俊治
建築分野では、脱炭素に向けた制度整備や算定ツールの導入が進むなか、ホールライフカーボンの視点を踏まえ、これらの枠組みを実際の削減につなげる実効性が次の課題となっている。そこで、建築環境工学の第一人者である慶應義塾大学名誉教授の伊香賀俊治氏と、LIXIL執行役専務 LIXIL Housing Technology担当の吉田聡氏が対談。制度・算定をめぐる現状と、建材メーカーとしての取り組みを通じて、脱炭素を前に進める現実解を整理した。
建物の評価軸は「使用段階」から「ライフサイクル全体」へ
これまで中心だったのは、建物の使用段階における省エネルギー、いわゆるオペレーショナルカーボンだった。しかし近年は、建材の製造から建設、解体に至るまでを含めたホールライフカーボンで建築を評価する考え方が、国際的なスタンダードになりつつある。
この流れについて、伊香賀氏は欧州での制度化を背景に挙げる。「欧州の主要国ではすでに、建材起因のCO₂排出まで含めた規制が始まっています。日本でもその動きを踏まえて、一定規模以上の新築建築物でホールライフカーボン算定報告を2028年から求める制度化が進んでおり、戸建住宅においても追随の動きがあります」
算定の時代を支える「データ」という前提条件
こうした制度の動きを具体的に支えるのが、国土交通省補助事業として産官学連携で開発され、2024年10月に公表された算定ツール「J-CAT」だ。これにより、建築物のホールライフカーボンを定量的に把握できる。「大企業では有価証券報告書への建物建設由来のスコープ3までの温室効果ガス(GHG)排出量の記載義務が控えており、特に建物完成までの初期段階に排出されるアップフロントカーボンへの関心が高まっています。また、2026年3月からは戸建版J-CATの展開も始まります」(伊香賀氏)
さらに、算定の精度を左右する前提条件として、建材や設備の環境データの重要性を挙げる。「第三者検証を通じて数値を開示しているEPD(環境製品宣言)データを取り込み、より精度の高い計算ができるよう、国による整備が進んでいます」
アルミの可能性を引き出す、LIXILの選択
この“算定の時代”を見据え、製品側から具体的な解を示してきたのが、LIXILである。吉田氏は、「お客さまからのご要望により進めたEPD取得(環境負荷の見える化)の次なるステップとして、いかにCO₂排出量の少ない製品をつくるかという課題に向き合ってきました」と語る。その中核にある素材が、建材で広く使われているアルミだ。

「アルミは軽量で加工性に優れ、建築に欠かせない素材ですが、新地金製錬時のCO₂排出量が多いという課題があります。そこで最近注目されているのが、製造過程でのCO₂排出量を削減する“グリーンアルミ”です。グリーンアルミには、製錬時の電力を再生可能エネルギーに置き換えるものと、アルミの優れたリサイクル性を活かして使用後のアルミを再利用するものの2つがあります。後者の方がよりCO₂削減効果が高いため、LIXILはアルミリサイクルに注力しています」(吉田氏)その延長線上にあるのが、リサイクルアルミの使用比率を高めた「PremiAL(プレミアル)」だ。「素材をPremiALにすることで、製品製造時のCO₂排出量を大幅に削減可能です。建物のエンボディドカーボン削減に貢献するとともに、J-CATの活用を見据えてEPDも取得しています」(吉田氏)
伊香賀氏も「PremiALは先進的な取り組みだと思います。環境性能がデータとして示されている製品は、設計者や建築主にとって選択しやすい。今後、こうした製品を採用する建築は確実に増えていくでしょう」と評価する。
普及を左右する「価格」と「標準化」
LIXILはこれまで、リサイクルアルミ使用比率70%や100%といった製品をビル向け中心に展開してきたが、2025年10月からは、住宅向けの窓やエクステリアを含むLIXIL製品のすべてのアルミ※にPremiALを価格据え置きで標準展開した。脱炭素製品を「特別な選択肢」にとどめず、より広い市場での採用を目指した判断だ。
「材料由来のCO₂排出量削減は重要ですが、価格が上がると採用が進みにくいのも現実です。価格が同じであれば、より環境負荷の少ない製品を選んでいただける。その状態をつくることが重要だと考えました。長年のアルミリサイクルへの取り組みと、グローバルにすべてのアルミ材料工場でPremiALを製造できる体制が、標準展開を可能にしています」(吉田氏)
伊香賀氏は「国としても、短期的には補助金、長期的にはカーボンプライシングなどを通じて、低炭素製品の競争力を高めていくことが重要です」と指摘し、PremiALのような実装のあり方は「ホールライフカーボン削減を社会全体に広げていく上で重要な視点」だと位置づける。
※LIXIL製造のアルミ形材のみ
理念を実装へと変えるために
製品を選ぶ行為そのものが、ホールライフカーボン削減につながる。PremiALは、その考え方を具体的な形で示した取り組みと言える。LIXILでは今後、アルミにとどまらず、プラスチックなど他素材でも循環利用を進め、ホールライフカーボン削減に向けた取り組みを加速させていく。
建築分野の脱炭素を前に進めるには、制度や算定の整備に加え、低炭素製品の実装を業界全体で進めていくことが欠かせない。PremiALは、そうした取り組みの具体像を示す一例と言える。
対談の様子はこちらから
PremiAL スペシャルサイト
このコラムの関連キーワード
公開日:2026年03月30日

