断熱リノベの匠 第7回

リノベをして、孫が住み継ぐという、新たな選択

舘 巧(取締役/株式会社 舘建築)

「断熱リノベの匠(たくみ)」は、工務店・ビルダーさまによる断熱リノベーションの新たな挑戦、注目すべき取り組みの事例を連載でご紹介していきます。

今回ご紹介するのは、新築では HEAT20・G2グレードを標準仕様にして、高性能スーパーウォール住宅、ZEH住宅、健康ストレスのない免疫の家を提案されている匠です。窓まわりの断熱リフォームは、これまでも手がけておられましたが、まるごと一棟の高性能リノべは初めてとのことで、新たな一歩を踏み出されました。

株式会社 舘建築 取締役 舘 巧 氏

株式会社 舘建築 取締役 舘 巧 氏

鈴鹿山脈の東に位置する三重県菰野町(こものちょう)で、昭和29年から家づくりのエキスパートとして、匠の技と熱いこだわりを受け継いでこられた「舘建築」。その3代目として、地域に貢献できる建築会社であり続けるために、常に新たな技術を磨いておられる匠が取締役 舘 巧 氏です。お客様にずっと安心して暮らしていただくことを自らの喜びとして、良い家を造るための努力を重ねておられます。

そんな匠が、今回ご紹介する実例のご依頼主であるM様と出会われたのは5年前のこと。M様のお宅の給湯器が壊れた際に対応した業者から、水まわりのリフォーム相談にのってあげて欲しいと紹介され、それがきっかけとなって、何度かリフォームの依頼を受けてこられたそうです。

今回のリノベの相談についても、最初は結婚される娘さんが住むための部分的なリフォームということで話が始まったとのことですが、その家というのがM様のご両親のお住まい、ご実家でした。両親の家を息子さんや娘さんが住み継ぐのはよくある話ですが、お孫さんが住み継ぐというのは極めて少ないケースです。M様のご両親が亡くなり、空き家になろうとしていた家に、娘さんご夫婦が住むための相談を受けた匠。若いおふたりの新しい暮らしの場に思いを巡らせながら、プランをスタートしたそうです。

写真左からご依頼主のM様、娘さんご夫婦、舘氏。

築40年になるお父さんの実家を、娘さんご夫婦が住み継ぐために

匠がまず考えたのは、部屋のリフォームだけで本当に快適に暮らせるのか?という古い躯体への心配。築40年の土壁の日本家屋は、断熱性がないに等しく、しかも60坪もある大きな家にふたりで住むとなると、冬の寒さは半端なく暖房費用も馬鹿にならないはず。そこで、初めは2階を新居にというだけの計画でしたが、補助金を活用した家全体の断熱改修も加えて提案。ちょうどタイミングよく「次世代省エネ建材の実証支援事業」に間に合う時期でもあったのだそうです。

また、家の断熱についての重要性を実感してもらうためにLIXILの「住まいStudio」へも案内。M様や娘さんご夫婦もその時のことを振り返り、昔の家と断熱リフォームの家を体感ルームで比較してみて、断熱性の違いでこんなに暖かくなるのかと驚きがあったと語っておられました。

そんな納得の体験も後押しして断熱改修も行なうこととなり、2階だけではなく1階も広々としたLDKとして生活スペースとする計画に。唯一、ご先祖の仏壇のある二間続きの和室は、法事など親族が集まる際に使いたいというM様の想いから、そのまま残すことにされたそうです。娘さんご夫婦が入居されてもうすぐ2年になるとのことで、住み心地についてお尋ねしたところ「冬は寝る時も羽毛布団一枚で寒くなく、夏は外から帰ってきて家に入った瞬間に涼しさを感じる」との高評価。その影響を受けて、M様自身のお住まいも一部を断熱リフォームしたとお話しくださいました。

玄関の立派な設えはそのままに、2階への階段は雰囲気を壊さない意匠でオープンスタイルに。

M様から見せていただいたアルバムには、ご両親との思い出とともに、40年前の工事中の写真が大切に収められていました。

間仕切られていた3つの居室を広々としたワンルームのLDKに一新。耐震対策の筋かいは、空間のアクセントになっています。

娘さんのご主人の趣味である爬虫類の飼育部屋。冬でも30℃の室温を保つ必要があり、高い断熱性が活かされています。

残すことにされた二間続きの和室は、今もさまざまな思い出をそのままに、住み継いだ若いご家族をご先祖様が見守っているように感じられます。

そして、このリノベにはもうひとつの物語がありました。実はこの家を建てたのは匠のおじい様だったということです。M様も匠も最初はご存知なかったようで、家が引き合わせてくれたご縁だと感慨深げ。また、建物を解体した際に先代の仕事ぶりがひしひしと伝わってきて、匠は身の引き締まる想いがしたそうです。建てた工務店の孫が再生し、主の孫が住み継ぐ。ご両家の先代もきっと喜んでおられるに違いありません。

建物を解体した時の写真を見せていただくと、立派な梁には上棟した昭和57年当時のご家族の名前、年齢まで、丁寧に記されていました。

築40年の日本家屋を「まるごと断熱リフォーム」で新築並みの高性能住宅に(SW工法リフォーム)

今回のような家一棟の断熱改修は初めての経験と語る匠が驚いたというのが「まるごと断熱リフォーム」による断熱性能の高さだったようです。HEAT20 G1グレードで十分と考えていたところ、G2グレードに近いUA値を実現。そんなことなら、もう少し仕様を上げてG2グレードをクリアすればよかったという感想もあったほど。

こうしてM様邸の断熱リノベは、娘さんご夫婦にもご満足いただくことができ、快適な住まいへと再生。M様邸の場合は、お爺ちゃんお婆ちゃんとの思い出が多い家ということもあり、住み継ぐことに積極的だったとのことですが、もしかすると今のZ世代の傾向として、古い建物をリノベしたカフェやお店が増えたことも手伝って、古いものを再生して今風に使うことへの興味があるのでは?そんなところにも、日本の空き家問題を解決する糸口があるのかもしれません。

Before

After

リノベの前も後も、外観のイメージはそのままですが、中身は新築の高性能住宅並み。寒い冬も暑い夏も暮らし心地は快適そのもの。

Before 平面図

昔ながらの日本家屋らしい、間仕切りの多い田の字の間取り。2階も十分な広さがあります。

After 平面図

仏壇のある二間続きの和室を除き、今の暮らしに合わせてリニューアル。階段の位置も変更しています。

まるごと断熱リフォーム(SW工法リフォーム)のイメージCG

まるごと断熱リフォーム(SW工法リフォーム)のイメージCG
断熱リノベによる既存住宅の高性能化によって、外の温度の影響を受けにくく、家の中の快適な温度を逃しにくくなるため、冬は暖かく夏は涼しく過ごせる暮らしを実現。

Reform Data

延床面積:62.44坪/木造2階建/築年数:1982年に竣工・築42年/エリア:三重県三重郡菰野町
断熱リフォームによる性能改善:省エネ区分 6地域
改修後UA値:0.49 W/㎡K

築40年を超える土壁に外断熱を施し、断熱リフォーム工法で気密性もアップ。
※土壁の場合は外張りの断熱材を固定するための間柱の追加が必要になります。

天井の吹き込み断熱に加えて屋根部など、隅々まで断熱パネルで性能強化。

LIXILまるごと断熱リフォームによって、断熱性能はHEAT20 G2グレードに近い水準のUA値0.49W/㎡Kに大きく改善。

ビルダー紹介

社名 株式会社 館建築
所在地 三重県三重郡菰野町田口新田1891-1
設立 1954年
URL https://tachikenchiku.com

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公開日:2025年04月23日