災害時のトイレ計画(1)

多重性/複数種の災害時トイレを用意する(ハード面の整備)

はじめに

災害時、し尿の処理は水や食糧の確保と同じく重要な課題であることは前回のコラム(https://www.biz-lixil.com/column/business_library/toilet015/)でお伝えした通りです。不衛生なトイレを敬遠することで生じる健康被害によって、災害から助かった命をその後の避難所生活で失うことほど残念なことはありません。災害時のトイレ計画を事前に立案し、計画に沿って準備することは命を守ることに通じます。
今回から3回にわたり、災害時のトイレ計画について考えたいと思います。まずは、災害時のトイレの種類と多重性を考慮した準備についてご紹介します。

1. 避難所におけるトイレの確保・管理ガイドラインについて

平成28年4月(2018年)、内閣府(防災担当)は「避難所におけるトイレの確保・管理のガイドライン」を発表しました。詳しくは内閣府のホームページ(http://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/1604hinanjo_toilet_guideline.pdf)をご覧いただきたいと思いますが、その内容として、災害時のトイレの現状、課題、必要性などに加え、確保すべきトイレの数、災害時トイレの種類、衛生管理のポイントなどがまとめられています。ともすれば後回しにされがちであったトイレの問題を改善するための指針が示されています。

2. 災害時トイレの種類について

① 携帯トイレ

既存の洋風便器に取り付けて使用する便袋です。吸水シートや凝固剤で水分を安定化させます。断水・停電時に使用でき、備蓄性・運搬性に優れていることから大量に用意することが可能です。国や地方公共団体も備蓄を推奨しており、先のガイドラインでは3日分の備蓄がモデルケースとして示されています。7日分の備えを掲げる地方公共団体もあります。

携帯トイレ

携帯トイレ

【参考】政府が推奨する備蓄日数

救助活動の現場では災害後3日(72時間)が勝負と言われており、その間は救助・救出活動を優先させる必要があります。そのため、物資の支援が遅くなってしまいますので、各自で備蓄することを呼びかけています。
また企業の場合、従業員等の一斉帰宅が救助・救出活動の妨げとならないよう、発災後3日間は施設内に待機させる場合があります。
一方、南海トラフ巨大地震など超広域にわたる災害の場合、特に行政からの支援の手が行き届かないことから1週間分以上を確保する考え方が示されています。

2017年7月に東京都千代田区が実施した事業者アンケート(※1)では、携帯トイレを3日以上備蓄している割合は約41%でした。同じく水が65%、食料が59%ですので、トイレの備蓄にやや遅れを感じる結果です。

② 仮設トイレ

トイレが必要だけれどトイレがない場所。このような場所に一時的に設置するトイレとして開発されたのが仮設トイレです。建設工事現場やイベント会場などで広く使われて来ましたが、汚物を溜めるタンク(便槽)を保有し断水下でも使用できる点、設置の自由度(1器具を最小単位として必要に応じて複数個を連結できる)やトラックで必要な場所に輸送できる機動性などの点が評価され災害時にも使用されています。

和風簡易水洗
洋風非水洗
洋風簡易水洗

熊本地震の際に設置された仮設トイレ(左から和風簡易水洗、洋風非水洗、洋風簡易水洗)

写真は熊本地震の際に熊本市や益城町の避難所に用意された仮設トイレです。和風簡易水洗タイプ、洋風簡易水洗タイプ、洋風非水洗タイプなど様々な種別の仮設トイレが使用されていました。

③ マンホールトイレ

マンホールや避難所などに整備した排水設備(下水道につながる排水管)の上に簡易な便座やパネルを設け、災害時において迅速にトイレ機能を確保するものです。国土交通省によると平成29年度末時点で全国に約30,000基が設置されています。
マンホールトイレは、通常の水洗トイレに近い感覚で使用でき、し尿を下水道管へ流下するため衛生的であることなどが優れた点として言われています。東日本大震災では宮城県東松島市、熊本地震では熊本県熊本市の避難所に設置され、被災者から大変好評であったと伝えられています。

④ その他

これまでに紹介したトイレ以外にも、自己処理型トイレ(水循環式、コンポスト式、乾燥・焼却式:処理装置を備え汚水や汚物を排出しない)、車載トイレ(トイレを備えた車両)、便槽貯留トイレ(平時は水洗トイレとして使用し、緊急時は地下ピットに繋がる蓋や便器底を開けて貯留式トイレとして使用)があります。
それぞれ各社のホームページなどに詳細が掲載されていますので、ご確認下さい。

3. 新しい災害配慮トイレ「レジリエンストイレ(LIXIL)」について

従前の災害用トイレの弱点を解決し、災害時も平常時も快適にそして安全安心にお使いいただけることを目指して発売した商品です。その特長を以下に示します。

(1) 建物内に設置する水洗式のパブリック洋風便器です。避難所となる学校や公民館、防災拠点となる庁舎のトイレとして設置します。平常時から使用できる点が、災害時のみ使用する従来型の災害用トイレとは異なります。建物内のトイレですので、特に災害時の雨天や夜間も安全にそして安心して使用できます。

(2) 使用後はロータンクの洗浄ハンドルを操作するだけです。その他の使い勝手、清掃性なども一般的なパブリック便器と同等です。災害時に配慮したトイレですが、平常時も快適に使用できます。あらかじめ、トイレの入口などの段差の解消や補助用の手すりを用意しておけば、要配慮者もいつでもストレスなく利用できます。

レジリエンストイレ

レジリエンストイレ

(3) 平常時の洗浄に必要な水量は5Lです。これは一般的なパブリック便器と変わりません。そして災害により断水が発生した場合、洗浄水量を1Lに切り替えて使用します。この切り替えも、ロータンクのフタを取り外し、内部にある止めリングを引き抜くだけで素早く簡単です。プールや井戸などから洗浄水量を確保する必要はありますが、日頃使い慣れたトイレをそのまま直ちに使えます。洗浄水により汚物を便器の外に排出するので衛生的です。

断水時、洗浄水量を切り替えてシームレスに使用

断水時、洗浄水量を切り替えてシームレスに使用

4. 多重性/複数種の災害時トイレを用意する

ご紹介したレジリエンストイレは決して万能ではありません。機能するには、洗浄水が確保でき、下水道が通じていることが必要です。また建物内に設置できる台数には限りがありますので、全ての避難者に応えることは不可能です。強みとともに弱みも持っています。既存の災害用のトイレもそれぞれの強みと弱みを持っており、その特徴は異なりますが同様と言えます。
災害時のトイレの重要性ならびに各々の災害用トイレの特徴を踏まえると、可能な限り複数個の解を用意することが重要です。もちろん経済的な事情を勘案する必要がありますが、各々の災害用トイレの強みで、他の商品の弱みを補完し、万が一「想定外」が発生した場合でも、トイレの全ての機能が停止することを防ぐことが大切です。
そして、実際の使用に際しては、量的・質的な観点からの使い分けが必要になります。

多重性を考慮した災害時トイレの整備が重要

多重性を考慮した災害時トイレの整備が重要

まとめ

災害時のトイレ計画(1)として、災害時トイレの種類と多重性を考慮した準備について考えてきました。次回は各々の災害時トイレの特徴と災害時トイレを準備する際の要件についてご紹介いたします

  1. ※1 千代田区 平成29年度千代田区事業所防災アンケート結果

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公開日:2020年11月16日