INAX TILE PREVIEW 2018 記念講演会建築家、谷尻誠氏 講演レポート

「はじまりについて」

谷尻誠(建築家、サポーズデザインオフィス)

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■ONOMICHI U2(広島県尾道市)?倉庫の中に町を建築する?

ONOMICHI U2(広島県尾道市)Photo:Toshiyuki Yano

このプロジェクトは尾道市が観光地としてより醸成するために、古い海運会社の倉庫を使っての事業内容とデザイン提案を出すプロポーザルでした。尾道市はしまなみ海道がありサイクリストも大勢やって来る。けれども日帰り観光の街で、まず宿泊させることが重要と考え、商業施設とホテルの併設を提案しました。コンセプトは「3サイクル」。自転車のサイクル、古い倉庫を再生するサイクル、山と海に囲まれた気候の移り変わりを感じてもらうサイクル。その環境にふさわしいコンディションをつくるために、ホテルの部屋に自転車を持ち込める、廊下を広く取り自転車整備での宿泊者のコミュニケーションがとれる場所をつくる。さらに地元の人も利用できるベーカリーやレストランがある。倉庫を敷地に見立て、その中に小さな町を建築していきました。デシカント空調システムを採用し、できるだけエアコンを使わずに屋内環境をコントロールしたり、照明やキー、ステーショナリーなど細かな備品もすべてデザイナーと打ち合わせてオリジナルで進める。建築設計だけではなく、全体的なディレクションで関わりました。することが多くて大変でしたが、何もないところで何をするのか、僕たちのチームはそれができることを知ってもらえた。これをきっかけに、プロジェクトが始まる前からの仕事が増えました。

■hotel koe tokyo(東京都渋谷区)?空間を一つの用途で縛らない?

hotel koe tokyo(東京都渋谷区)Photo:Kenta Hasegawa

渋谷にアパレルショップをつくるので企画から入ってほしいとの依頼に、ホテルでアパレルショップをするという提案をしました。なぜ、ホテルか。アパレルショップは営業時間以外、その空間は閉まっている。それはもったいない。じゃあ、24時間、洋服のことを伝える場所にした方がいいのではと考えました。1階にレストランと大階段を設け、夜にはそこで音楽イベントも行われる。場所が多様化しソーシャリティーが進む中、空間を一つの用途と定義するより、多用途であることが重要であると。2階がショップ、3階がホテル(10室)です。客室を洋服のように、S,M,L,XLに分け、XLの部屋は100?F、1泊25万円?に設定。渋谷の好立地なら、展示会を開催したり、宿泊もできるという新しい提案も成り立つ。コンサル会社のリサーチでは稼働率がかなり低い見込みでしたが、結果的には100%に近い。どういうふうな価値づくりをするのか。今までは1泊25万円の部屋をつくれと頼まれていたのが設計者でした。そうではなく世の中の状況を読み取り、価値観やデザインを提案することが強く求められていて、提示される要件を待っているだけではダメだと思っています。

■住宅_?身の回りのことを建築に置き換える?

〈広島の小屋〉

広島の小屋Photo:Toshiyuki Yano

この家は携帯電話からの発想です。携帯電話はメールが送れて写真が撮れてお金も払える。もはや電話の領域を越え、ひとつのものの中にいくつもの機能がある。そういう意味で建築は、未だに柱は柱、梁は梁、断熱や窓と全て分かれている。それらの統合が図れないかと考えました。施主さんの要望はまわりが森という敷地に、ガラス張りの透明な家。先ほどの宮島展望台の話もしたら、それくらい大胆につくってほしいと言われました。ガラスの代わりにアクリル板(40?@)を使い、その上に屋根を乗せる。本来あるはずの柱がまずなくなり、ペアガラスと同じくらいの断熱性能を持ち、窓か構造体か断熱材かわからない、そういう成り立ちで、空間の要素を減らし、空間と風景との関係性がより強くなるようにしました。建物だけを考えているとそんな発想には至らないけれども、身の回りにあるものの成り立ち、世の中の変化をいつも意識的に見て、それを建築に置き換えるとどういうことになるかと考えています。

■from I to We_?建築のプラットフォームづくりを目指す?

職業は「建築家」としていますが、最近は「起業家」も加えています。SUPPOSE DESIGN OFFICEの広島事務所では2019年に、オフィスとホテルが同居するプロジェクトが進行中です。東京事務所には社員も一般の人も利用できる「社食堂」をつくりました。建築のプラットフォームの仕組みづくりもエンジニアと取り組んでいます。なぜ、設計事務所はフェイスブック社のようになれないのか。こんなに忙しいのにベンチャーよりも給料が安いという矛盾。設計という行為がもっとマネタイズされる仕組みをつくりたいと思っています。

“from I to We”という考え方。僕は以前は、自分のことばかり考えていました。会社が大きくなるとスタッフのことが加わり、さらに自分たちの会社だけがよくなるのではなくて、建築業界自体がよくならないと、未来で建築家になりたい、設計事務所で働きたいという若者も増えないだろうと。もっと多くの人と建築を考え、どんな価値観があるのかを伝えるために協業していきたい。そのためのプラットフォームの開発を進めています。“We”、私たちという考え方で、これからもものごとを捉えていきたいと思っています。

(2018.7.20 綿業会館にて)

谷尻 誠 氏

谷尻 誠 氏

<プロフィール>
1974年広島県生まれ。
1994年から1999年まで本兼建築設計事務所勤務。
1999年から2000年までHAL建築工房勤務。
2000年建築設計事務所 SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。
住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、アート分野でのインスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる。広島・東京の2ヶ所を拠点とし、共同代表の吉田愛と共にインテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授なども務める。
受賞作品多数。

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公開日:2018年09月30日

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