DTL建築セミナー 空間・素材・建築 ―令和時代の建築作法

第2回「自走する構想」

遠藤克彦(建築家)

「触媒としての建築」

建築とは強い想いによって導かれる、自由な創作物だと痛感する大変勇気づけられた講演だった。
建築を設計する行為とは、関係性の構築であると考える。物同士の関係を調整することで構造は成り立ち、開口を調整することで内と外の関係は変化する。そして人は建築を媒体として内から、はたまた外から向こう側へと関係を取り結ぶ。遠藤氏が一貫して用いる「自走する構想」、「町との関り」とは建築が人と町の触媒となり、両者を活性し続ける様を言い表しているのではないか。チューブ状の通り抜け空間によって円環をつくり出す「大子町新庁舎」は、本来点であるはずの建築が、実質的に町に循環を生み出し、大きなスケールでうねりを生み出す可能性を感じた。現場の町に自らの事務所を建て、町人一人一人の小さなスケールから動きを生み出す、遠藤氏の真摯で強い設計への姿勢がそれを裏付けている。
日本の町はどこかよそよそしい。温暖な海外の町を訪れると、建築と町の境界は存在しないかのように感じられる。人の営みが見事に建物と町をつないでいるのだ。そんな内と外そして人との関係の実現が求められているのではないか。

榊原 崇文

榊原 崇文(さかきばら・たかふみ)

株式会社 安井建築設計事務所
愛知県生まれ/2018年 国立大学法人 名古屋工業大学大学院 工学研究科 創成シミュレーション工学専攻 修士課程修了/2018年 株式会社 安井建築設計事務所入社/現在 同社大阪事務所 設計部所属

地域や社会につながる建築を

歴史の中で人は建築という物質を創り出し今に続いています。技術的な進歩はもちろんのこと、時代の要請に合わせた新たな価値と、それを取り巻く社会との新たな関わり方が、今のこの建築業界には必要なのかと感じさせ られた講演会でした。
「自走する構想」のテーマで、お話いただいた今回の講演会。「建築が力を持つために、不変的な骨組みのしっかりとした構想をもつ」という言葉がとても印象的でした。形態は変わっても、それに基づく構想が不変的な力を持つのであれば、時間の軸を超え、建物は社会との接続を持ち続け地域とつながっていく。そんな建築の素晴らしさを感じることができたように思います。
また、「成仏」と表現された過去の計画の一部も熱く紹介いただき、ひとつひとつすべての作品に情熱と時間をかけて作成している様子もうかがい知る、貴重な時間をいただけました。
最後になりますが、貴重なお話をしていただいた遠藤先生と、このような機会を作っていただいたリクシル様に感謝申し上げます。

東野 淳子(ひがしの・じゅんこ)

ハウスメーカー勤務・インテリアコーディネーター

自走する構想に込められた建築の未来

Completed、Unbuilt、Ongoingの3つの分野ごとに作品紹介が有ったが、中でもUnbuiltの話がいちばん熱を帯びていた。
何も地縁のない地方都市で募集された建築コンペの敗北案についての話である。誰もが負けた話はしたくはないと思うが遠藤氏は違った。誰よりもその地方都市の市民のために考え、地方都市の行政機関の立場を考え、その場所に最も相応しい建築デザインを考え、思いつく限りのプログラムを考えた提案である。そんな簡単に消去はできない。これを何とかして人びとに聞いてほしい、一度でも社会に出したい。
遠藤氏はこれを「成仏」と言う。建築家と呼ばれる人は、しばしばクライアントのためにクライアント自身以上に物事を考えてしまう少し困った人たちである。Unbuiltの提案には、その場所に住んでいる人びとに対する無償の愛がある。情熱がある。性質の悪いことに、実現していないだけに思いは純粋である。
恐らく遠藤氏は20年後もUnbuiltの話をしていると思う。失敗から得られた貴重な経験と建築家自身が自信を持って送り出した提案こそがその建築家の本質ではないだろうか。
遠藤氏は「成仏」と言うが、私に言わせれば「輪廻転生」である。

上房 陽(かみふさ・あきら)

MANA 建築設計研究所
1985 年 MANA 建築設計研究所に入所/小川政利に師事/ 2006 年 同所改組後、主宰者

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公開日:2019年11月27日