まちとオフィス、生活と仕事の境界を溶かす

谷尻誠+吉田愛(サポーズデザインオフィス)

『商店建築』2019年4月号 掲載

interview 2

まちに開き、地域と共生する

面白法人カヤック代表取締役CEO
柳澤大輔

面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤大輔

鎌倉の“資本”を最大化する

── 鎌倉を企業の拠点として選んだ理由は何でしょうか。

柳澤:

カヤックの代表取締役3名(貝畑、柳澤、久場)が、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの同級生だったこともあり、在学中から鎌倉に遊びに来ては「起業したら、鎌倉に本社を置こう」と話していました。都心から電車で1時間弱と近く、海、山、自然、歴史、文化に恵まれ、サーフィンをしてから出勤したり、昼食を自宅で楽しんだり、職住近接のワークライフバランスを実現して欲しいと思い、鎌倉に暮らす社員には住宅手当も支給しています。
拙著『鎌倉資本主義』(プレジデント社)に書いたように、地方都市がリトル東京のように一様になるのではなく、固有の資本を生かし発展していく。そんな新しい形の資本主義があると考えています。その資本には、従来の経済資本(利益)だけでなく、社会関係資本(コミュニティー)、環境資本(自然の豊かさ)も含まれます。企業や自治体が手を取り合い、これらの資本を最大化できれば、持続可能な豊かさを実現できると思います。

── 「まち全体をオフィスにする」ことを発想したきっかけは。

柳澤:

鎌倉駅周辺は景観保護のため高層のビルがありません。カヤックのオフィスはまちに分散しています。その状況を逆手にとり、まち全体をオフィスに見立てればいいと考えました。ビルの廊下ではなく、商店街を通ってオフィス間を移動することで、空気の移ろいを感じたり、まちの人と挨拶したり、新しい店に目を留めたりできる。その方が豊かな社会関係資本が育まれますし、カフェの軒先をオフィス代わりにリモートワークをしても良い。執務や会議、食堂、保育所など、さまざまな機能を持ったオフィスが有機的につながり、まちに開かれ、地域と共生する場所になっていけたらと思います。

── 社員の働き方や暮らしは変わるのでしょうか。

柳澤:

「自分の住む場所を、自分のこと(ジブンゴト)として考える」社員が増えると思います。2013年に仲間と立ち上げた「カマコン」という地域活動では、100人を超える人達が鎌倉を活性化するアイデアを出し合い、実行しています。自分自身、住む場所をジブンゴトとして考えられるようになり、毎日が2倍、3倍に楽しくなったと感じます。2018年4月には「まちの社員食堂」をオープンしました。まちに開かれた社員食堂で、鎌倉市内で働く人は誰でも利用できます。約30の企業や団体が参画し、食事をすることで、会社や組織の壁を超えた出会いや新しい取り組みが生まれています。

普通のものをアイデアで面白く

── 新社屋建設にあたり、サポーズデザインオフィスに期待したこと、求めたことは。

柳澤:

これまでの彼らの仕事を見て、単に要求した「ハコモノ」をつくるだけでなく、コンセプトづくりから一緒に参加して、こちらの想像を超えたものをつくってくれる方だと思いました。今後、会社や組織の成長を目指す中で、これが最終形のオフィスだとは思っていません。限られた予算や条件の中で面白いものをつくりましょうと、色々考えていただきました。例えば外壁に住宅用サッシを使いビルを軽量化するなど、どこにでもあるものをアイデアで面白くする。その価値観も近く、信頼してお任せしました。

カヤック新社屋では、道路の電柱広告を借りてオフィスの看板としている

カヤック新社屋では、道路の電柱広告を借りてオフィスの看板としている

── オフィスのキッチンやトイレでのコミュニケーションについて、どう考えていますか。

柳澤:

クリエイターが多いこともあり、元々組織が流動的で、ずっと座席にいる必要もありませんので、オフィス内やまちのいろいろなスペースで、どんどんコミュニケーションして面白い仕事をしてもらいたいと考えています。

── 今後もサポーズデザインオフィスとコラボレーションしたいですか。

柳澤:

鎌倉で面白いことをどんどん一緒にやっていきたいです。谷尻さんには、サポーズデザインオフィスの拠点を鎌倉につくってくださいとお願いしています(笑)。

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雑誌記事転載
『商店建築』2019年4月号 掲載
https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=335