カシマサッカースタジアム×LIXIL

地域創生を担うこれからのスタジアムのあり方

鈴木秀樹(株式会社 鹿島アントラーズFC取締役 マーケティングダイレクター)

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──LIXILの現場から
ホスピタリティあふれる上質な女性トイレ空間「REST and」
二瓶伸夫(LIXIL)×小池由紀(LIXIL)

LIXILのプランニングによるトイレの提案

LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN 営業本部 プロジェクト営業部 スペースプランニングG
小池由紀氏

小池氏:「REST and」については、鹿島アントラーズ様とLIXILとの協働事業でトイレ改修の企画の話があがった時に、LIXILのスペースプランニングGで検討した空間プランを提案させていただきました。最初にLIXILのブランディング担当者から、鹿島アントラーズは他のサッカークラブに比べて、女性サポーターが多いと聞いておりました。また、当時のブランディング担当者が小さいお子さんたちのママということもあり、女性ファンだけでなく、スタジアムに子連れで行った時の困り事にも着目したトイレにしたいと相談がありました。そういった要望に応えるようなトイレ空間であり、また鹿島アントラーズ様との協業として、LIXILならではの提案を可能な限り盛り込んだ空間を目指してプランニングしました。当初は、女性が好む商業施設のような豪華なトイレ空間や、ソファ、子供用トイレを設置するなどの案も出ていましたが、一番に優先したのはサッカー観戦を快適にする利便性です。そこで動線に着目しました。まず、改修前のトイレ空間は、利用動線が錯綜しており、せっかくの広いトイレ空間を活かすことができていませんでした。この点を改善し、かつ女性利用と子供利用にできる限り配慮してきました。カシマサッカースタジアムは商業施設とは異なり、サッカースポーツの応援や観戦に来ているということを大前提に、高揚した気分になれる、そして維持できるトイレ空間を目指しました。そのため華やかさや可愛らしさを前面に出すのではなく、アクティブな女性サポーターの快適さを追求していきました。

二瓶氏:「REST and 」の形が見えてきたのは2018年の夏頃でしょうか。スペースプランニングGの基本プランを基に、実施設計フェーズ初期にA・B・Cの3パターンのプランを鹿島アントラーズ側に提示し、プラン決定に至りました。最終的には「トイレはサッカー観戦に必要なリフレッシュスペース」をコンセプトに、今までのREST ROOMに付加価値を加えた、スタジアムにふさわしい新しいトイレ空間を創りあげました。

LIXIL HOUSING TECHNOLOGY JAPAN ビル事業本部 市場開発統括部 法人営業部 住設営業グループ 技術設計チーム チームリーダー
二瓶伸夫氏

人がスムーズに流れる動線をつくる

二瓶氏:レイアウトで苦労した点は、改修工事では既存の躯体があり、その範囲内でどうやって新しいトイレ空間を収めていくか。現状の躯体や壁、配管設備を生かしながら、またコストや工期という点も配慮しなくてはいけない。但し「この部分はどうしても譲れない」「こういうレイアウトにしたらもっと良くなるのではないか」など、そういったこだわりも取り入れながら具現化していきました。
競技場などのスポーツ施設のトイレを設計する際は、やはり動線に気をつけます。スタジアムやコンサート会場などは休憩時間が限られた中で、どれだけ多くの人たちがスムーズにトイレを利用できるかが課題になりますので、それに対してどういったレイアウトを組むことで、実現できるかということになりますね。

小池氏:サッカーでのハーフタイムは15分と時間がかなり限定されています。「トイレ待ちの長い縦列が毎回発生する」「トイレの中が暗い」という事前情報から、一番に考えたことは15分のハーフタイムでトイレを利用して席まで戻っていただくためにはどうすればいいのか。そのためにトイレ内動線をできるだけシンプルにしました。また、トイレ入口外側の待機列が右側にできることもあれば、左側になることもあって、その時々の状況でさまざまなため、その辺りも整理して欲しいという要望がありました。とにかく15分間でトイレ休憩を済ませようとした時に、カーレースのピットのように、素早く一連の動作ができるイメージでプランを詰めていきました。印象的なトイレ外観のグラフィックデザインの一部になっている床の黄色いラインによって、待機列が必ず一定方向にいくよう誘導しています。また大きな空間で、できるだけ効率的に短時間での使用を促す場合、出入口を分けたワンウェイ動線が一番効果的です。
「REST and」では、壁や柱・梁などの躯体制約があるなか、大便器ゾーンと洗面ゾーンへいかにスムーズに導くかが課題でした。元々、トイレ全体の出入口は分かれていましたが、大便器ゾーンと洗面ゾーンの出入口が1カ所で、その通路も狭かったため、それを何とかしたいと考えていました。

二瓶氏:そのため、利用者の出入りや動線が交差しないように考慮しましたね。

小池氏:元の洗面空間は結構な広さがあったので、ここを上手く活用して動線がスムーズに流れるようにしました。まず大便器を利用し終えて次に洗面に行く。“洗面で手を洗う人”とそれ以外の“化粧直しをする人”、それぞれの利用者の動作をスムーズに一貫して終わらせる。洗面にもなるべく滞留しないようにするという“人の流れ”ですね。調査によると女性の平均的な化粧直しが3分となっています。なので、化粧直しで洗面を占有しているとそこで詰まってしまいますよね。そのため、手洗いは10〜30秒で終えて、スムーズにパウダーに移れるように空間を確保しました。


「REST and」外観デザイン。行動心理学に基づき待機列が自然と整理されるようなサインを床に施した。手前の入口から出口へとひとつの方向へ人が流れるよう工夫されている。写真奥は女性トイレに隣接している「BABYROOM」で、男女問わずに使えるオムツ替えスペース

改修前後の配置図。トイレ内で交錯していた動線を整理し、洗面とパウダーコーナーを独立させるなど、ハーフタイム内でスムーズに利用できるよう工夫した

奥の大便器ゾーンから移動して洗面空間へ。化粧直しやフェイスペイントをする女性に配慮して、洗面台の対面にパウダーコーナーを設置し、リフレッシュできる空間に。パウダーは5人同時使用可能

鹿島アントラーズらしさをイメージしたトイレ空間


大便器ゾーンの配色はアントラーズカラー(メインカラー:レッド/セカンドカラー:ネイビー)。扉の数字は鹿島アントラーズが各媒体で使用する基本書体を採用。鹿島アントラーズのホームスタジアムらしい雰囲気を演出している

二瓶氏:壁やトイレブースに配色したアントラーズカラーはLIXILからの提案です。メインスタンド側なので、当然、ホーム側のアントラーズファンが多く利用されますから、ポイントとして入れてはどうかと。扉に記した数字は、鹿島アントラーズが各媒体で使用する基本の書体と同じものを用いています。そのあたりも印象的だと思います。

小池氏:LIXILが協賛したからこそ、ここまでチャレンジできた内装になったと思います。一般的に、公共性の高い施設はスタンダードな仕様になりがちですが、その点「REST and」は自由にやらせていただきました。これまでにないトイレ空間に挑戦してみようという感じで進めていきましたが、実は私としては、本当にこれで大丈夫かと心配しながらやっていたところもありました。そんな中で、二瓶が「いいよ。やろう!」と言ってくれたのも大きかったですね。
コントラストがここまで強いと印象的なのですが、正直、インパクトのあるトイレを今まで見てきた時、すごく良いと思ったことがなかったんです。だから、関係者や利用者にこれまで見たことがないようなトイレを見せると「No」という感情が沸いてしまうのはないかと、ちょっと怖かったんですね。結果的には、「REST and」は関係者や利用者にもとても好評でしたので、これは二瓶のおかげですね。

二瓶氏:オフィスのトイレとは違い、イベントの時だけに利用されますから、インパクトがあってもいいのではないかと感じました。大便器ゾーンについては、かなりインパクトを与えるような配色にして、洗面ゾーンは落ち着いた、ゆったりできる空間になるよう配慮しています。大便器ゾーンのレッドとネイビーをそのまま洗面ゾーンに持っていくと、これはしんどくなるのかもしれませんね。

小池氏:そのため、あえて天井の色も大便器ゾーンと洗面ゾーンで分けて、空間を別々に区切ったことが正解だったと思います。

二瓶氏:まず、観戦で高まった気分を少し暗めの大便器ゾーンでクールダウンして気持ちを落ち着かせ、そこでリフレッシュする。次に、明るい洗面ゾーンで化粧直しをしていただく。そういったことで気分を切り替えてもらう意味合いも込めています。

ドアの番号で、ドアの開閉により、これまで使用中か空いているか分かりづらかった個室スペースの空室状況が視覚的に認知しやすくなっている

“きれい”を持続させる工夫が満載

二瓶氏:改修前の洗面ゾーンでは換気設備がありませんでしたが、今回の改修工事でファンを増設して換気設備を増強しました。カシマサッカースタジアムは海が近く、夏場のトイレ内は非常に湿気が溜まった状態で、ブース内に置いてある予備のトイレットペーパーが湿ってしまう程だったんです。その中で換気設備の更新と増設、LIXILの内装材で調湿効果のあるエコカラットプラスを洗面ゾーンの全壁面に貼るなど、少しでも快適な空間になるように配慮しました。「REST and」は出入口に扉がなく、常に湿った外気が入るので数値的に効果を計測することは難しいですが、改修前よりも快適になっていると感じています。

小池氏:「REST and」では、清掃性についても考慮をしています。これまでのトイレは、ウェット清掃でトイレの床に水を流しデッキブラシでゴシゴシと洗っていましたが、そこから大きく変え、モップでの拭き取り式ドライ清掃でも簡単に済ませられるような床材にしました。ウェット清掃では、どうしても汚れた水がタイルの目地にしみ込み、その汚れた水が乾燥して蒸発することで臭いが上がってくるという悪循環になりがちです。今回、ドライ清掃になったことや換気の改善で、臭いを感じさせなくしていると思います。壁掛大便器やボウル一体型カウンターを採用することで、床や洗面まわりの汚れが溜まりにくくなり、清掃性が良くなっています。

二瓶氏:通常の老朽化した公共のトイレは、使用者がゴミを散らかすなど、汚く使ってしまうという悪循環を生みます。トイレを一新することによって、きれいに使っていただけるという効果があります。施設の管理側としては、きれいを維持していくことが大切です。ゴミなどの放置があれば、すぐに片づけていただく。ゴミが放置されたままだと、ゴミを捨てていい場所という心理が働きますよね。それが繰り返されて荒れた・汚れたトイレになってしまう。せっかくきれいにしたので、運営サイドにもそういった配慮をしていただければと思っています。

小池氏:スタジアム全体では台数が多いですから、施設側もお手入れの作業が軽減できる器具だと助かりますよね。「REST and」では納入した状態のきれいさをできるだけ維持しやすい商品から選定しました。


洗面ゾーンのパウダーコーナー。広々とした空間にバック照明付き鏡で気持ちよく身だしなみを整えられる。洗面ゾーンの壁面には調湿効果のあるエコカラットプラスを導入し快適さも追求
写真左:波のような曲面が美しい洗面カウンター。凹凸が少なく掃除しやすい。トイレには、子連れのためのベビーキープや高齢者向けに手すりも設置。衛生陶器は簡単な掃除で新品のツルツルが100年続く“アクアセラミック”を採用。利用者にも管理者にも使いやすい、機能的なトイレ空間となっている

LIXILならではのプランニング力

二瓶氏:LIXILでは今回に限らず、以前からトイレのプランニングやコンセプトを提案しています。

小池氏:お客様からこの10年で、女性に配慮して欲しいとう要望を数多くいただくようになりました。女性優先で、そのために男性トイレが狭くなっても構わないくらいの勢いがあります。当面、この流れは続いていくように感じます。実際、トイレに敏感なのは女性です。とにかく女性に施設を気に入ってもらうためには、トイレを一番に良くしないと受け入れていただけない傾向にあります。
商業施設においては、トイレ設備が良いか悪いかで売り上げが変わってくるとも言われています。最近、商業施設のトイレはきれいが当たり前になっていますから、トイレ利用だけのために店舗に寄ったりする。商業施設側にとっては、トイレに寄ったついでに買い物をしていただく機会に繋がりますので、トイレは客寄せとして重要視されています。オフィスに関してもテナントビルでは、女性トイレの良さがテナント入居に影響する大きなキーポイントになっていますので、女性的配慮に最大限の努力が欲しいと言われますね。

二瓶氏:最近の公共交通機関のトイレも非常にきれいになってきていますよね。そういった流れから競技場であっても、上質なトイレ空間を提供すべきではないかと感じています。今はきれいなトイレが当たり前になってきていますからね。
今後、カシマスタジアムの他のトイレで「REST and」のようなプランニングトイレの予定はありませんが、茨城県からの改修要望がありましたら、対応させていただきたいと思っています。

茨城県立カシマサッカースタジアム「REST and」データ

所在地 茨城県鹿嶋市上向寺後山26-2
施工事業主 株式会社鹿島アントラーズFC
設計・監理 株式会社柴建築設計事務所、株式会社LIXIL
施工 株式会社鹿島テクノス、株式会社LIXILトータルサービス
建築面積 30,449,66m2
延床面積 85,019,78m2
規模・構造 地上6階建て(最高高さ49.5m) 鉄筋コンクリート造+鉄骨鉄筋コンクリート造+鉄骨造
用途 スポーツ施設 スタジアムトイレ
竣工 2019年8月
LIXIL使用商品 シャワートイレ:CW-PA11F-NEK-TU、壁掛式洋便器:C-P18PA、自動水栓:AM-130M
洗面器ユニット:L-HLトク、バック照明付鏡:MH-451NBJ他
洗面ゾーン壁仕上材:エコカラットストーングレース:ECP-630/STG2N

取材・文/フォンテルノ 撮影/エスエス企画(人物撮影:シヲバラタク、フォンテルノ)

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公開日:2020年04月30日

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