おさなご園×LIXIL

風が吹き抜けるパッシブデザインの保育園

並木秀浩(株式会社ア・シード建築設計)

「樹の塔」を中心に、建物1階と2階から園庭まで自由に回遊できるデザインになっている(写真提供:ア・シード建築設計)
「樹の塔」を中心に、建物1、2階から園庭まで自由に回遊できるデザインになっている(写真提供:ア・シード建築設計)

高度成長期に、働く母親たちの役に立ちたいと開園した「おさなご園」は、子どもたちとの触れ合いを大切にするキリスト教を基にした埼玉県川口市の認可保育園です。2020年3月に木の香りに包まれた新しい園舎が竣工、豊かな心を育てたいという初代園長、現園長の思いを実現しました。園舎の設計を担当したのは、川口市に事務所を構え、パッシブデザインを得意とするア・シード建築設計。今回、新園舎の設計・デザインについて代表の並木秀浩氏にお話を伺いました。

塔を中心にフロアと園庭を回遊する空間構成

ア・シード建築設計代表取締役の並木英浩氏
園舎の設計について説明するア・シード建築設計代表取締役の並木秀浩氏。新園舎には、おさなご園が大切にしている子どもたちとの触れ合いを体現する仕組みが各所にちりばめられている
建物1、2階平面図
建物1、2階平面図。中央筒状の「樹の塔」が園長先生で、手を広げて園児たちを迎え入れるイメージ
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今回の園舎建て替えに際して園から出された要望は、キリスト教の保育園ということもあり、子どもたちとの触れ合いをとおして愛情を育むことを大切にしているので、それが形になった施設にしてほしいというものでした。
おさなご園の初代園長先生は、子どもたちと絶えず触れ合うことを大切にされていて、登園・退園時に子どもたちにハグをして送り迎えするような、とてもフレンドリーな方です。その園長先生と子どもたちの関係を設計のコンセプトに据えました。
建物全体の中心にある「樹の塔」が子どもたちを見守る園長先生を表しています。実際にこの塔の中に職員室のフロアがあり、その周りを子どもたちが遊び回るというイメージです。
保育園は園児たちが一日を過ごす場所ですから、屋内から屋外の遊びまで一連の流れになるように考えました。例えば0〜2歳児はあまり園内での動きが大きくないので保育室を1階にし、塔の職員室から窓越しに見守りができるようになっています。3〜5歳は行動範囲がかなり広がりますから保育室を2階に設け、1階の広縁や園庭まで含めて立体的に動き回れるようにしています。
塔を中心に園児たちは階段を上り、バルコニーに出て、屋外階段や滑り台でまた園庭に下りるという流れで、楽しくぐるぐる回れるような空間構成になっています。
もともと子どもたちの動きを大切にしている保育園ですから、施設内の遊具についても先生方からリクエストがあり、検討しながら生まれたのが、塔に沿った屋内の階段横の滑り台や、2階の屋外のバルコニーから1階の園庭までの長い滑り台。2階の廊下には登り棒をつけ、壁はボルダリングができるようになっています。室内外の遊びをアクティブにできるような工夫をちりばめました。
この建物の竣工が2020年3月でしたから、ちょうどコロナ感染症が猛威を振るう中で、外出して公園に行けなかったこともあり、園庭などの外とのつながりは大変喜んでいただけました。
入口を入ったエントランスホールには大きな吹き抜け空間を設けています。ここはこの保育園の一番大切な行事であるクリスマスにツリーにする大きな木を植えました。クリスマスに飾り付けをします。階段を上り下りしながら視点を変えてクリスマスツリーを眺めることもできるので、よりシンボリックな空間になっています。

外階段や滑り台
建物2階のバルコニーから園庭に下りる外階段や滑り台も遊び場の一つ(写真提供:ア・シード建築設計)
園児たちに人気の遊び場
雁行させた分節部分

エントランスホールに飾られた園のシンボルとなる大きなクリスマスツリー(左)、2階の廊下には登り棒があり、壁はボルダリングができるようになっていて園児たちに人気の遊び場(右)(写真提供2点とも:ア・シード建築設計)

窓の配置を工夫した自然空調

この建物の設計では「風」をテーマにしています。それは空気の取り込みと排出の流れを考えるということで、ポイントは風の出口です。空気をうまく排出することで、室内に風の流れが生まれますが、カギになるのが「屋根上の風」です。一日の中でも流れが入れ替わり、いろいろな方向の風が吹きます。この風を利用して、室内の空気を屋根の小窓や外部吹き抜けにより吸い上げて排気します。例えば、空気が吸い出される煙突の原理です。吹き抜けのエッジの部分で屋根に沿って流れる風が剥離現象を起こして空気を吸い出してくれる。北側の屋根に穴をあけて外吹き抜けにし、風の吸い出し効果を得ています。低い位置の日陰の窓から風を入れて室内を巡らせ、高い位置にある小さい天窓から空気を出すという室内風です。光が差し込むようにつくられた塔屋の天窓からも排気しています。保育室の高窓は手動ですが、塔屋のハイサイドライトは電動で開閉するようになっていますから、こまめに調整することができます。
また、室内をまんべんなく流れる旋回風をアシストする位置に扇風機を設置するなどして、効率的に自然換気できるよう工夫しています。
以前、豊田市のエコフルタウンでLIXILさんが出展したスマートハウスのモデルを設計させていただきました。そこで室内の空気の動きがどうなるか実験と検証を重ねて、実際の空気の流れの詳細な様子がだいぶわかってきたので、ここでも応用しています。

建物断面図。抜ける風の動きを考えた設計
建物断面図。抜ける風の動きを考えた設計
保育室を抜ける風の動き
保育室を抜ける風の動き

保育室を抜ける風の動き。低い位置から空気を取り込み、高い位置の天窓から逃がすなど、自然換気の工夫が盛り込まれたパッシブデザインになっている(写真提供2点とも:ア・シード建築設計)

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公開日:2022年01月26日