おさなご園×LIXIL

風が吹き抜けるパッシブデザインの保育園

並木秀浩(株式会社ア・シード建築設計)

断熱性能を高めるために多用した木材

1、2歳の保育室にある丸太柱に触る子どもたち
1、2歳の保育室にある丸太柱に触る子どもたち。柱も床も梁も木のぬくもりを感じる園舎になっている(写真提供:ア・シード建築設計)
構造壁の筋交い
構造壁の筋交いは、バルコニー側の躯体に斜めに差し込むかたちで付いている。このことで壁面を全面開口にすることができた。半屋外の広縁や筋交いも木が使われていて、全体にぬくもりのある空間になっている

園児たちが室内で快適に過ごすためには夏場の体感温度を低く保つ必要があります。断熱性能が高ければ室内の表面温度を安定させ、体感温度をコントロールしやすくなります。エアコンの効きがよくなるので、つける時間も減らせて、季節によってはエアコンがなくても窓から入る自然の風だけで涼しく感じる環境になります。
木は、鉄やコンクリートに比べると熱伝導率が低く、木のフレームは断熱性能のある躯体で、高断熱を実現しやすくします。それと、子どもたちが丸一日過ごす家のような場所なので、ぬくもりとやさしさのある木という素材を多用した園舎を提案しました。
木造2階建ての園舎の場合、準耐火構造にしなければならず、配慮すべき点もいくつかありました。例えば、室内には屋久島の地杉を使った丸太柱があり、構造材としてはここまでの太さは必要のない直径300〜400mmの柱にしています。火災の際に木は燃えると表面が炭化しますから、燃えシロを考慮した必要径を保っています。1階で10本、2階で5本使っていて、子どもたちが触ったり、ぶつかったりして、遊んでいます。木肌を露出させてぬくもりの感じられる本物の木を身近に感じてくれたらいいですね。
現在は輸入材を使用することが多いですが、国産材を使いたいという思いがありました。もともと屋久島が好きなこともありますが、林業が衰退して加工場がなくなり、建材としては出せなくなっている現状で、生育の早い間伐材が行き場を失って放置されているので何とかならないかと相談を受けていました。ウッドチップにするしかないというのはあまりに忍びないという思いもあり、丸太をそのまま活かして柱として使ったといういきさつがあります。
屋久島の杉は屋久杉の遺伝子を持った若い杉です。屋久杉は水に強い木なので昔から屋根材として使われていて、薩摩藩が特産物として流通させていたようです。水に強いということは油分が多く、杉といいながら檜(ヒノキ)のような強さがあり、材料の硬さを数値化したヤング係数(弾性率)でも檜に劣りません。柱に使った丸太は間伐材で、年輪は詰まっていませんが、柱に必要なのは鉛直力なので、ある程度の太さがあれば使えます。また水分を持った木は乾燥時のひび割れの問題もありますから、施工場所と同じ埼玉の事務所にあらかじめ丸太を取り寄せてひび割れの観察を行いました。実際に使う半年くらい前まで観察しましたが、細かい割れにとどまり、柱として使うのに問題はありませんでした。竣工後もチェックしていますが、支障が出るほどにはなっていません。その後、子どもたちの指が入るようなひび割れになってきたら、シーリング材で埋めるようにしています。
もう一つ、木構造で工夫した点があります。木造は構造壁をつくらなければいけないので、大きな間取りや壁一面の開口部が取れません。ここでは子どもたちの動きに合わせて、壁面に平行に付ける筋交いをバルコニー側に開いて付けました。そのことで子どもたちの動線に自由度が増しました。構造壁としての強度を保ちながら壁面全部を開口部にしたことで、外への視界が広がり、風や明るさをたっぷり取り込むことができました。主構造体が準耐火構造であれば、建物が倒壊することはありませんから、筋交いは木の集成材を防火被覆無しの表しにしました。中の梁も大きなスパンを飛ばすので、トラス構造にするなどの工夫をしています。その他サッシのフレームは米松を使って工務店さんにつくってもらいました。
子どもたちに木の空間の気持ち良さを記憶として心に残してほしいと思っています。将来、家をつくるときに木の気持ち良さを思い出してくれたらいいですね。

柱のない空間
柱のない空間を作るために梁はトラス構造にして強度を高めた(写真提供:ア・シード建築設計)
サッシフレーム
サッシフレームは米松を使ったオリジナル(写真提供:ア・シード建築設計)

保育園のシンボル塔屋のデザイン

もともと樹の塔を中心とした園舎ということで、塔の外壁面にも木を貼っています。木は雨にさらされると経年変化で色がだんだんグレーになってきます。この塔には軒を付けず、全体に雨がかかり、まんべんなく色が変わっていくようにしました。高さもあるので掃除が難しいこともあり、自然の雨で洗ってもらう発想です。
塔内部はスキップフロアになっていて、園長室から1、2階の子どもたちに目が届くようになっています。職員室前は階段の踊り場になっていて、園児たちが朝や帰りの階段を上り下りするときに先生方に挨拶をしていくのです。
半地下が倉庫、1階半が職員室、その上の2階は図書室と収納庫になっています。ここの保育園の特長の一つは、毎月のように行事があること。図書室横の収納庫には、月ごとの棚があり、行事に使う衣装などが収められています。地下の倉庫にも、夏のプールや行事で使うさまざまな道具が収納されていて活動の多さがうかがえます。園長先生のポリシーがこうしたところにも表れていますね。

塔外壁の木
塔外壁の木には塗装を施し、色の変化を遅らせている。塔内部は無垢材で、温かみのあるテクスチャーに(写真提供:ア・シード建築設計)
中央にある塔屋
中央にある塔屋は地階が倉庫、1階が職員室と医務室、2階が図書室と収納庫。階段の踊り場は、園児たちが先生方に挨拶をするなど、大切なコミュニケーションの場になっている。塔に沿った階段横は室内遊び用滑り台(写真提供:ア・シード建築設計)

動線・視線・光がトイレ、水回りのポイント

水回り、特にトイレのデザインで配慮した点は、子どもたちが孤立しないようにしたことです。常に先生方の視線が届く位置に配置し、保育室のガラス窓から目配りできるようになっています。
1階の0、1歳向けのトイレ・沐浴室ではそれぞれの部屋から直接トイレに入れる動線になっていて、ガラス越しに中のようすを見ることができ、十分な光も取り込むようにしています。動線・視線・光がデザイン上のポイントでした。1階の2歳児トイレも保育室から直接行けるようになっていて、入口がオープンなので隣接する坪庭の光が入ります。
2階は、3〜5歳児になりますから、一番小さい3歳の保育室の近くにトイレを配置し、吹き抜けの廊下から入るようにしました。トイレに行くまでには、曲線を描く柵、樹の塔やベンチ、クリスマスツリーを眺められる階段の吹き抜け、ボルダリングの壁などがあって、楽しみをちりばめた道中になっています。また、2階のトイレは吹き抜け近くに位置しているので、外に向かって広がる入口から十分な自然光が入ってきます。便器や手すりはLIXILさんの商品に可愛らしいものがあったので、使わせていただきました。
子どもたちの成長にとっても排泄行為はとても重要です。一日に何度も行く場所ですから、従来のトイレのような、奥に行くというイメージを変えたかったのです。先生方が見通せて、見守りができる場所になるようさまざま工夫をしたことで、快適なトイレ空間になったと思っています。

1階の0、1歳児保育室のトイレ
1階の0、1歳児保育室のトイレ。おむつ交換台も設置。付き添う大人のスペースを確保し、安全に座れるよう低い大便器を使用している
1階2歳児保育室のトイレ
1階2歳児保育室のトイレ。正しい姿勢を保てるように黄色い手すりを設置。ペーパーホルダーは先生方が子どもの介助で腰をかがめた姿勢でも手を伸ばしやすい位置に設置している
2階の3〜5歳用トイレ
2階の3〜5歳用トイレ

2階の3〜5歳用トイレ。奥の窓だけでなく、手前の廊下側からも光が差し込み明るく開放的な雰囲気になっている。小便器は壁掛け式にしたことで子どもが立ちやすい足元になり、掃除もしやすくなった。個室の大便器ブースは開き戸なので、ドアの前に並ばずに入口で並んで、空いたところから順番に入るようにしている。男子園児たちのお気に入りは手洗い衝立裏の小便器

1階の多機能トイレ
1階の多機能トイレ。オストメイトに配慮した流しのほかに、小物がおける化粧棚やベビーキープも備え、誰でも安心して使える環境を整えている
1階の多機能トイレ入口
1階の多機能トイレ入口

1階の多機能トイレ入口開閉のようすとサイン(2点とも)

1階園児用トイレ
1階園児用トイレは入口をある程度オープンにして明るくし、子どもたちを見守れる環境に。ピンクのドアはおもらしの処理などに利用できる多目的流しを備えたブース。小便器は高さの違う2タイプにし、成長にあわせて使い分けられるようにした

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公開日:2022年01月26日