金沢市第二本庁舎×LIXIL

歴史を“今”に継承する開かれた公共空間

喜多孝之、山越栄一(株式会社五井建築研究所)

2つの庁舎に一体感を持たせるタイルによる外観

テラコッタルーバー
入り口外壁のレンガ調のタイル。1・2階階は表面に凹凸のあるラフ面のタイルで表情を出し、目立たせたくない3階と中庭部分にはフラットなタイルになっている。場所によって2種類のタイルを使い分けた。タイルごとに異なる焼き物ならではの自然な色合いが美しい

──外壁にはレンガ調のタイルが全面に施されています。

金沢市第二本庁舎中庭
金沢市第二本庁舎中庭
金沢市第一本庁舎(写真提供:金沢市)
金沢市第一本庁舎(写真提供:金沢市)

【喜多氏】タイルの色合いについては金沢市から既存の第一本庁舎と同じタイルでと要望がありました。同じ庁舎としての関連性を持たせることや、景観上の調和を出すことを考慮したため色合いについての調整に時間がかかりました。最終的には、第二本庁舎の樹木の緑が映える同系色のレンガ調タイルを採用しています。

【山越氏】タイルについては、LIXILに見本を何度も焼いてもらいました。当初は、建築設計側の私たちとLIXIL側とでお互いのイメージにズレがあり、中でも一番大きかったのが自然の色ムラでした。テラコッタルーバーと同じように外壁のタイルも自然な焼きムラを意識して炻器質(せっきしつ)タイルを選びましたが、工場からは釉薬で色分けしたものが出てきました。そこが少しイメージと違っていて、釉薬をかけると色ムラが出にくいということもあって、もっとムラが出る焼き方をリクエストしました。最終的には、酸素供給量をできるだけ少なくすることで不完全燃焼する「還元焼成」のタイルが一番雰囲気に合うこととなった。無釉の土本来の焼きムラで表情豊かな色合いを出しています。工場の担当者にも現場に来てもらい、直接話ができたことで、西川の思いも汲み取っていただけたのではないかと思います。

【喜多氏】金沢市は古いものと新しいものが混在しているまちと言われています。古いものや伝統に囚われ過ぎず、新しいものが金沢をつくっている。歴史を守ることだけ、昔と同じものをつくるだけの感覚ではない。常に新しい考えを取り入れていく、そうやって出来てきたまちだと思います。伝統工芸や地場産業を活かした建材は、伝統技術を継承していくという点でも、もっと多くの人が身近に使えるかたちが生まれてもいいのではないでしょうか。例えば、焼き物や漆を扉のドアハンドルに活用してみるなど。大量生産の安価なものではなく、きちんとそこに価値を付けて、そこで関わる方々に理解され、使ってもらえる持続的なシステムができたらいいと思います。

金沢市総務課
【金沢市第二本庁舎について-案件概要と施設の特長-】

行政側の金沢市第二本庁舎についてプロジェクトの考え方

まず、福祉や災害対策などの行政需要の増加に対応するため、金沢市役所の第一本庁舎で不足する執務スペースを補う必要性がありました。また同時に、分室や職員研修所、駐車場などの各行政機能が周辺に分散されていたため、これらの集約化も求められていました。そうした課題を解決するため、老朽化していた市庁舎南分室の建て替えを検討した結果、第一本庁舎に隣接した旧金沢市庁舎南分室の跡地に今回の第二本庁舎を建設することとなりました。
建物は、地上3階、地下1階建て、敷地面積は、7,756m2、延べ床面積は1万2,179m2となっています。1階に農林水産局に環境局、教育委員会や監査事務局を配置したほか、2階には外郭団体を集約したことに加え、危機管理センターを設け、災害現場との情報を共有し、一元管理するシステムを整えたことで、防災拠点としての機能を強化しました。さらに、危機管理センターのフロアには、地震があっても通信機器や人への被害を最小限にすることができる免震構造を採用しました。また、3階には職員研修所を配置したほか、地下には公用車用駐車場と50台分の一般駐車場を設けました。

まちづくりの中の建築(公募型プロポーザルにて望んでいた姿)

建物のコンセプトは、市民に開かれた庁舎ということで、明るく開かれた開放的なイメージになっています。前庭に芝生を配置し、どこからでも庁舎にアクセスできるようになっています。また、既存の樹木をできる限り残し、歴史的景観にも配慮しています。周辺には、21世紀美術館やふるさと偉人館などの文化施設が近接しており、それらと調和のとれた建物になっています。エントランスホールは二階まで吹き抜けになっており、大きなガラス窓の一部を開放することができるので、前庭とエントランスホールを一体的に利用することが可能で、各種イベントも開催できます。なお、オープンの際は、クラシックの演奏も行いました。また、庁舎の整備に合わせ、建物南側市道の電線を地中に埋めて、無電柱化を行いました。

LIXIL側のテラコッタルーバーやタイルなどの評価

第一本庁舎の外観との統一性を持たせるため、レンガ調の外観とし、風合いを大事にするため、納得が行くまで何度も手焼きの作業を繰り返しました。また、建物正面に設けたテラコッタルーバーは、金沢町家の特徴である木虫籠(きむすこ)をイメージしたデザインになっています。テラコッタとは、陶器や建築用の素材などに使われる素焼きの焼き物のことで、このルーバーは、夏に日射を遮り、冬は日差しを取り込めるよう、1枚1枚角度を調節して配置されています。また、このように日よけを設置することで、建物の省エネ効率アップにつながっています。

現在、本市で行っている取組(金沢市重点戦略計画より)

・「木の文化都市・金沢」の継承と創出:未来への挑戦として、木にこだわったまちづくりを推進し、歴史と調和した「木の文化都市・金沢」を創出していきます。

・現代建築レガシーの継承:本市の著名な建築家による現代公共建築の継承に向け、長寿命化や建築的価値の維持などに関するガイドラインを作成しています。

その他

金沢市第二本庁舎のエントランスホールの天井、カウンターやテーブル、ベンチ、イスなどには、すべて金沢産の杉を使っています。市民の皆様が来庁された際に休憩等で自由に利用できることに加え、職員が会議や来客との打ち合わせ等にも利用しています。なお、テーブルや椅子は、利用形態に応じ、2つ、また3つ4つと自由に組み合わせができるような形状となっています。
2階へと向かう階段部分には、金沢の伝統工芸である二俣和紙をガラスで挟んだ特殊な手すりを採用しました。
また、第二本庁舎の建設に合わせ、新しい取組として、フリーアドレスを始めました。その後、第一本庁舎にも導入し、本庁舎全体での導入は中核市初となりました。
フリーアドレスは、座席を固定せず、その日の業務や打ち合わせの予定などに応じて、自由に席を選択する手法で、多様な働き方に対応できるようになったほか、隣あわせる職員が毎日異なることでコミュニケーションの活性化が図られました。また、これにより職場内の整理整頓が進み、執務スペースをより効率的に使用できるようになりました。

テラコッタルーバーの断面形状
テラコッタルーバー断面図
イベントに多くの市民が訪れにぎわう金沢市第二本庁舎(提供:五井建築研究所)

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公開日:2022年03月23日