金沢市第二本庁舎×LIXIL

歴史を“今”に継承する開かれた公共空間

喜多孝之、山越栄一(株式会社五井建築研究所)

──LIXILの現場から
建築設計者の思いを表現したテラコッタルーバー
本橋正彦(LIXIL)

LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN タイル事業部タイル営業部 営業開発室SE 本橋正彦(提供:LIXIL)
LIXIL WATER TECHNOLOGY JAPAN
タイル事業部タイル営業部
営業開発室SE
本橋正彦(提供:LIXIL)

2年越しで生まれた、これまでにないテラコッタルーバー

私がこのプロジェクトに携わったのは2016年2月から2019年11月です。五井建築研究所様からお話を伺った時は、本当にできるのかと思う程、難易度が高く思い出深い案件でした。
木虫籠(きむすこ)をモチーフにしたテラコッタルーバーで外付けの日除けをつくるため、ルーバーのサイズ奥行きを400mm以上、高さも1000mm以上欲しいということでした。ひとつのルーバーで400mm以上の断面と1000mmというスリム間を持たせ、なおかつ設置時の高さについても5000mm以上あり、それを上下支持だけで留めなくてはならない至難の業です。私としては、建物内外からテラコッタルーバーが見えるようにしたいと思っていて、従来工法通りのH型材の前後に三角形のテラコッタルーバーをつけて支持する提案をしました。ただ、五井建築研究所様から「平板を組み合わせ、ずらすことができないか」という、今までにない仕様の話になり驚いたことをついこの間のように記憶しています。元々、角度を変えて設置するという構想をお持ちで、その際にテラコッタルーバーが面で見えるよう、2枚を平行にずらすことによって奥行きを出しつつ支持材のH型材を隠して、射遮蔽機能を持たせたいとのお考えでした。そうして基本設計から2年以上の検討期間を経て、羽のようなテラコッタルーバー2枚を組み合わせた、現状の形状に発展していきました。

初期のテラコッタルーバー詳細図
テラコッタルーバーの形状を検討したスケッチ

左:初期のテラコッタルーバー詳細図。当初は芯材のH型材の前後に三角形のテラコッタルーバーを設置する案だった。右:テラコッタルーバーの形状を検討したスケッチ。平板から羽根のような形状に発展していった(提供:LIXIL) [クリックして拡大]

テラコッタルーバーの機能性とデザイン性を活かす

庇の下からテラコッタルーバーを見上げた様子
庇の下からテラコッタルーバーを見上げた様子

設置するうえで一番のポイントは、曲線を描く建物に沿ってアール15度の範囲毎にルーバーの角度を変えることでした。基本設計からのデザインを施工レベルに落とし込むため、角度の微妙な変更をどのように施工管理すればよいか検討を重ねました。テラコッタルーバーのデザインは五井建築研究所様が考案してくださるので、安全を担保しつつ繊細なディテールをどのように実現するのかはLIXILの仕事です。そこで、扇形の留め金具を上部に用いて、角度を調節するという仕組みを考案しました。テラコッタルーバーは、建物の庇に支持させる上吊り構造で、下はスポンと差しているだけです。最初にH型材の柱を角度に合わせて409〜594mmのスパンで設置して、次にH型材の両脇にテラコッタルーバーを取り付けていきます。テラコッタルーバー一つひとつはH型材にL型の金物とダボピンで取り付けていて、それを一段毎に積んでいく。テラコッタルーバーの荷重を受ける役目と面外の耐風圧に対して作用しています。私の失敗が基ですが、特徴は本来鉄骨であったH型材を軽量化のためにアルミに替え、アルミならではの合成の高い構造にしている点です。プレートホルダーの窪みをつくり、プレートはスライドが可能な機構としてボルトで固定する。鉄骨のH型材だとこのような構成にはできない。アルミならではの特性を生かした納まりだと思います。また、テラコッタルーバー自体も無垢材ではなく中空状態にして、少しでも重量が軽く仕上がるように極限までスリム化しました。

軽量化したテラコッタルーバー詳細図
支柱固定詳細図

左:軽量化したテラコッタルーバー詳細図。右:支柱固定詳細図。扇形の留め金具でテラコッタルーバーの角度を調整できる。芯材のH型材側面にプレートホルダーのような窪みをつけられるのはアルミの特徴(提供:LIXIL) [クリックして拡大]

テラコッタルーバーのモックアップ
角度調節ができる扇形の留め金具
H型材の下を差し込んでいる支持部分(提供:LIXIL)

左:テラコッタルーバーのモックアップ。中:角度調節ができる扇形の留め金具で庇の梁からH型材を吊るしている。右:H型材の下を差し込んでいる支持部分(提供:LIXIL)

リブの縦線が入ったテラコッタルーバーの表面(提供:LIXIL)
リブの縦線が入ったテラコッタルーバーの表面(提供:LIXIL)

焼き物の特性上、中空で高低差の大きい焼き物を真っすぐ形成するまでには、反ったり、ひび割れて切れたりを繰り返して、LIXIL常滑工場では試行錯誤の連続でした。焼成工程でも芯材を通して吊って焼く方法もありますが、今回のテラコッタルーバーは中空部が小さく吊って焼くことができないため、H型材と接する角の凸のある面を上にして平らな仕上げ面を下に置いて焼くことにしました。ところが、焼き台と擦れた跡が目立ち綺麗に仕上がらない。そこで、下に向けて置いたテラコッタルーバーの表面にリブをつけたところ、焼き台と接する面積が減り、擦れた跡等はリブの陰影に視線が集まって目立たず任意の色合いを出しやすくなった。焼き物らしい自然な風合いが表現でき、縦のラインもデザインとして活かされたと思います。

空間の魅力を表現できる技術を提供する

建物の曲線に合わせて連なるテラコッタルーバー
建物の曲線に合わせて連なるテラコッタルーバー
配置を確認するため、地面に並べたテラコッタルーバーを入れ替えているようす(提供:LIXIL)
配置を確認するため、地面に並べたテラコッタルーバーを入れ替えているようす(提供:LIXIL)
写真右から、施工現場での五井建築研究所の故・西川氏と山越氏(提供:LIXIL)
写真右から、施工現場での五井建築研究所の故・西川氏と山越氏(提供:LIXIL)

五井建築研究所の当時の会長で故・西川様はとても厳しい目をお持ちの方で、テラコッタルーバーの仕上がりにもとてもこだわっていらっしゃいました。色については「バラつきを出して」「このレンジに入れるように」「赤味の強いものは外すように」などといった要望がありました。
実際に製造しているLIXIL常滑工場にまで足を運んでいただいたり、同工場の社員が現場に赴むいたりして、少しでもイメージが違うと色調整をし、再度確認していただくということを何度か繰り返しました。配置についても、モックアップの段階で焼き上がったテラコッタルーバーを地面に並べて、実際に使われるのと近い距離感を想定し2階から見下ろして、一つひとつの位置を入れ替えて組み合わせを指示してくださいました。そうしてできた建物は、正面、右側、左側と角度によって全く印象が違って見えます。それは、やはり五井建築研究所様のテラコッタルーバーの扱い方が本当に素晴らしく、素材を活かしてくださったからだと思います。LIXILだけでは提案できない、焼き物という建材の良さを引き出していただきました。
LIXILでは、どこの現場でも建物に合わせて製品を適切に設置するために図面を起こしています。今回についても、テラコッタルーバーの取り付け方はLIXILでないと提案できないと思います。建築設計の方は納材実績のあるものは望まれません。LIXILとしてはカタログに載せられるような標準化も図っていますが、求められているのは「やったことがないからやりましょう」といったオリジナリティです。実際、金沢市第二本庁舎も、これほど細かいピッチで角度を変えてテラコッタルーバーを設置するような現場はこれまでにやったことがなかった。大切なのは、いかに設計者が理想とする空間や建物を実現することに対して、責任持って施工技術を含めて提供できるか。そういった意味で、毎回挑戦ですね。

難しい現場だったゆえに、金沢市第二本庁舎には思い入れがあります。完成した姿を見た時に、みんなの思いが詰め込まれた建物だと、五井建築研究所の故・西川様や山越様の思いがあったり、LIXIL常滑工場の思いがあったり、施工現場の思いがあったり、いろいろな思いがあってこのような表現ができていると強く感じました。

金沢市第二本庁舎データ

所在地 石川県金沢市柿木畠1番1号
施工事業主 金沢市
設計 株式会社五井建築研究所
施工 真柄・兼六・豊蔵・城東特定建設工事共同企業体
階数 地上3階、地下1階
敷地面積 7,556.61m2
延床面積 12,178,59m2
構造 鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
用途 市役所
竣工 2020年3月
LIXIL使用商品 ■外観ファサード
テラコッタルーバー: TL350*39.3-1100/E1902-291
■外壁タイル(2,500m2
特注湿式二丁掛タイル:FC-2RG/Y181029101_T=18、FC-2/Y181029102_T=13
■エントランスホール(950m2
床タイル:IPF-600/AVT-12(アヴァンティ600角)

取材・文/フォンテルノ 撮影/エスエス企画(人物撮影:フォンテルノ)

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公開日:2022年03月23日