TODA BUILDING×LIXIL
手仕事の技を体感できるアートな空間
中川康弘、一條真人、大嶽 伸(戸田建設)

TODA BUILDINGの吹き抜け空間に設けられたテラコッタ陶板の大壁の前に立つ(左から)一條氏、中川氏、大嶽氏
2024年11月2日、戸田建設株式会社の新本社ビル「TODA BUILDING」が開業しました。旧本社ビルの建て替えに伴う開発プロジェクトで、「人と街をつなぐ」をコンセプトに、従来のオフィスの枠を超えたアートとビジネスが交錯する場を創出。京橋の場所性・歴史性を継承し、新たな芸術文化の発信拠点として街に開かれた超高層複合用途ビルとなっています。高層階にオフィスフロア、低層階はアニメや音楽といったこれからのアートを体感できるミュージアムやギャラリー、飲食店舗、カフェの他、様々なイベントやセミナー利用も可能なホール&カンファレンスで構成されています。一般来館者とオフィスワーカー共通のエントランスロビーがある1階から6階までを芸術文化エリアとして街に開いています。随所にアートが点在し、京橋の街中のような路地状空間が立体的に構築され、建物内を回遊しながら、楽しめる仕組みとなっています。その中心にある、16mの吹き抜け空間にはテラコッタ陶板の大壁が設けられ、来訪者は間近で見て触れることが可能です。
今回、TODA BUILDINGの設計を担当された戸田建設株式会社の中川氏、一條氏、大嶽氏にLIXILと協働でつくられたテラコッタ陶板を中心にお話しを伺いました。
人と街、京橋の芸術文化交流拠点
──新しい戸田建設本社ビル「TODA BUILDING」の設計概要とコンセプトを教えてください。

戸田建設株式会社
建築設計統轄部 建築設計第1部 主管
一級建築士
一條 真人氏
一條氏:京橋は日本の主要な幹線道路のひとつである中央通り、東京駅から伸びてくる八重洲通りのちょうど交点にあります。結節点というポテンシャルの高い場所ですが、銀座から日本橋まで地下鉄で素通りされてしまうこともあるような、ある種「空白地帯」のような場所でした。そのため、今回の計画は、多くの人々が京橋に訪れるきっかけをつくり、京橋に来られた人・京橋におられる人々に寄り添う事の出来る開発を目指しました。敷地東側には、古くから100軒以上の画廊やギャラリーが点在している骨董通りがあり、また、ミュージアムタワー京橋の低層には日本有数の美術館である、アーティゾン美術館があります。古くから京橋はアートが根付いている場所なので、芸術文化に寄与する街づくりを目指しました。 アーティゾン美術館はクラシカルで著名な芸術作品がメインですが、TODA BUILDINGでは、新進アーティストの育成に主眼を置き、現代的、先進的なアート・カルチャーのギャラリーやミュージアムを展開し、アートの裾野を広げることを目指しています。 それらのアートの活動を支え、京橋の街とともによりよい場所となるために、安心安全な場を創出すること、そして、持続可能な社会を目指すために高い環境性能を有し、未来へつながる建築とすることを目指しました。

TODA BUILDING(右)とミュージアムタワー京橋(左)の外観全景パース(提供:戸田建設)

フロア図(提供:戸田建設)

TODA BUILDING外観


──外観、内観はどのようにデザインされましたか。
一條氏: 外観については、現在中央通り沿いの建築には、縦基調のデザインが多いことから、計画当初より、ミュージアムタワー京橋と合わせて、TODA BUILDINGも大きなボリュームで低層を構成しながら高層部は、縦に伸びやかなデザインとすることとしました。並列した2つのビルが統一した縦基調のデザインで、スカイラインを形成することにより、新たな都市景観を形成しています。ミュージアムタワー京橋のルーバーは、小さなスケールの集合体として、繊細に構築していますが、我々のルーバーは、力強さや強固さを出したいと考えました。比較的、大きな塊としてのフィン形状とし、積層することで、ある種古典的な神殿の柱のようなイメージで、建物の重厚さとアルミからくる優美さを併せ持った表現になっています。実は、あれだけ大きなフィンをつくるというのは非常に難しく、何年も前からLIXILと外装の設計を進めてきたという経緯があります。
TODA BUILDINGの特徴のひとつでもありますが、一般来館者とオフィスワーカーの入口は同じで、1階から6階は、誰でもアートを楽しめる芸術文化エリアになっています。内観は、京橋ならではのヒューマンスケールの路地空間を建物の中に取り込みたいと、各アートスポットや用途を立体的に積み重ねた「立体路地空間」を計画しました。建物を回遊できる動線をたくさんつくり、路地的な空間を歩いていく先に面白い発見がある、というような内部を探索できる仕掛けになっています。その4階までの吹き抜け空間に、ひとつ芯を貫くようなシンボルウォールとして、大判のテラコッタ陶板を用いたエスカレーターの袖壁を演出しました。

1—3階内観。1階のエントランスロビーから3階まで16mの吹き抜けになっていて、芸術文化施設として街に開放されている(撮影:川澄・小林研二写真事務所/提供:戸田建設)

エントランスロビー。テラコッタ陶板でできたエスカレーターの袖壁がシンボルウォールとなっている

戸田建設株式会社
建築設計統轄部
建築設計第1部 上席主管 一級建築士
中川 康弘 氏
中川氏:120年以上、京橋に本社を構えていますので、何か街に恩返しをしたい。そこで、中央通りに面して建っていた旧本社ビルのスペースを広場とエントランスロビーにして、さまざまな方に訪れていただけるような空間をつくりました。広場が人と街、そして街とビルをつなぐベースになっています。続くエントランスロビーも広場の一部として街に開放しています。京橋にちなんだものや江戸時代の職人町の面影を残していくために、建設会社として“ものづくり”を感じていただける素材感や手触り感を大切にして計画しました。


旧本社ビルは、戸田建設の先人が非常にこだわりを持ってつくられました。外装に使ったタイルは京都の泰山タイルで、文献によれば施工した面積の倍以上のタイルを生産し、色や形状を選定したそうです。我々もこだわりを持ってものづくりをしようと、エスカレーターの袖壁のテラコッタ陶板だけではなく、低層にアーキテクチュラルコンクリートというPCa(プレキャストコンクリート)の外壁を用いるなどしています。PCaの表面を5mm程度削り出し、内側の細骨材、粗骨材が現れるようにし表情を持たせたり、または表面を水で洗い出し、ザラザラした手触り感を出したりしました。
テラコッタ陶板も同様に、触ると焼き物の良さが伝わるような形状にし、ゆらぎのある釉薬をかけた独特な風合いになっています。
一條氏:旧本社ビルの立つ場所は江戸時代、大鋸町(おがちょう)と呼ばれ多くの職人が住んでいました。戸田建設もものづくりの会社ですし、京橋という場所が職人の町であるという歴史を大切にし、手仕事を感じる建築にしていきたいという思いがありました。実際、エスカレーターを上がっていきながらテラコッタ陶板に触っていく方が多くいらっしゃいます。自然と手が出るくらい魅力的だからだと思います。もっと理想的なことを言えば、小さいお子さんが触ってみて「これ凄い。どうやってできているんだろう」と興味を持ち、そこから「ものづくりって楽しそう」となれば、我々としても未来に向かっている建築として、とても幸せなことだと思います。一般の方々に身近に感じてもらえる建物をつくるということは非常に重要ですね。
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公開日:2025年02月26日