歴史の街に寄り添う“波形のファサード”

─テラコッタとカーテンウォールで紡ぐ新たな景観─
レンガ文化を継承しながら挑んだ、現代建築のファサード

福地 拓磨・井本 博之・コルベッラ マルコ・中野 雄貴(株式会社 石本建築事務所)

宇徳本社ビル
みなとみらい線「馬車道駅」から徒歩3分の横浜市道・万国橋通り沿いに建つ宇徳本社ビル。さざ波を表現した外観が馬車道の街並みに調和している

2025年1月、横浜市中区海岸通に、「宇徳本社ビル」が竣工しました。海岸通の歴史的建造物「横浜郵船ビル」の一帯に対して、日本郵船株式会社、三菱地所株式会社、株式会社宇徳にて海岸通り地区地区計画を定め、再開発を進めています。そのうちの1棟である宇徳の本社ビルは石本建築事務所が設計を手掛けました。海岸通り地区では、他にもホテルとなる横浜郵船ビルの改装やオフィス・商業施設・文化施設を備えた複合ビルなどの建設が進行中です。レンガ造りの建物が点在する歴史的な街並みを継承しながら、先進的な都市機能を構築する横浜の新たな拠点として注目を集めています。今回はLIXILのテラコッタ陶板やカーテンウォールで美しい外装ファサードを創出した宇徳本社ビルについて、石本建築事務所の福地氏、井本氏、コルベッラ氏、中野氏にお話を伺いました。

歴史ある街ともに歩む新しい建物

──宇徳本社ビルの概要を教えてください。

福地 拓磨氏
株式会社 石本建築事務所
常務執行役員 プリンシパルアーキテクト
一級建築士
福地 拓磨氏

福地氏:港湾・物流・プラントの3つの部門を持ち、重量物の輸送技術に優れた企業の本社ビルになります。宇徳は横浜開港の歴史とともに歩んでおり、「港のまちづくりに貢献し、地域の発展を後押しする」という想いもあり、今回の計画では隣接する街区の開発を進める事業者と都市計画提案制度を活用し、都市再生特別地区と地区計画を策定しました。敷地内に公開空地などを設けることで、馬車道から運河への視認性向上と、歩道空間の拡幅による歩行者ネットワークの強化を図っています。また、建物としても高さ制限と容積率を緩和し、敷地のポテンシャルを最大限に活かすことを目指しました。
同時に、宇徳という会社が持つ力強い技術力や社員の方々の実直さを表現する重厚感のある本社ビルが求められたことから、馬車道から続く歴史ある街並みや景観に調和し、社員の方々が海を感じながら働けるワークプレイスとすることをコンセプトとしています。
設計開始の2020年は、ちょうどコロナ禍へと突入していく時期でした。オフィスでの働き方が大きく変化していましたが、3部門それぞれに現場をお持ちの会社ですので、全てをリモートワークにはできません。全国にある拠点の中枢機能を持ち、これまで通り、現場主義でやっていくという方針を示された中でのオフィスビルづくりでした。社員の方々のコミュニケーションを促進し、健康で快適に働けるオフィスとなるようにセンサーによる自然通風の自動制御を行い、環境性能と快適性の向上を図っています。オフィス内ではグループアドレス制を採用し、ペリメーターゾーンには、さまざまな働き方に合わせたスペース「ベイコモンズ」を用意することで、社員の方々が気持ちよく働ける空間を見つけて使えるオフィスとなっています。
本社ビルが建った馬車道は、みなとみらい地区と赤レンガ倉庫や県庁舎を中心とする歴史的地区の中間点に位置し、今後、新しい街の回遊性ができ上がっていくと思われます。この素晴らしい場所に建てられることも特徴のひとつとして、街からの人の流れを意識した建物をデザインしています。

海岸通り地区地区計画概要
海岸通り地区地区計画概要(提供:石本建築事務所)
宇徳本社ビル
宇徳本社ビル。外観は、横浜らしい赤レンガの趣を落ち着きある色調として取り入れ、テラコッタ陶板とカーテンウォールで水面(みなも)のさざ波を表現している

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公開日:2025年10月07日