住宅をエレメントから考える

トイレの可能性を拓く

スギベリー(建築家)×ウルトラスタジオ(建築家)

『住宅特集』2026年4月号 掲載

『住宅特集』ではLIXILと協働し、住宅のエレメントやユーティリティを再考する企画を掲載しています。床、間仕切り、窓、塀、玄関、キッチン、風呂など、さまざまな要素を取り上げ、機能を超えて、それぞれのエレメントがどのように住宅の成り立ちや暮らし、都市や社会に影響してきたのかを探るものです。
今回は住宅のトイレを取り上げます。トイレは最もプライバシー性が高く、かつ日常的に何度も使われる重要な場所です。さらに日本のトイレは、機能や効率で世界の最先端といわれるほど進化を続けてきましたが、住宅におけるトイレ空間のあり様は、近代以降大きな変化が見られません。今回、そこにフォーカスを当て、トイレという場所を掘り起こす若手建築家による住宅をふたつ取り上げます。そして、そこにLIXILのタンクレストイレSATISを設置し、さらにLIXILのタイルを用いて、それぞれのトイレ空間をデザインしてもらいました。
この記事ではそれらを発表すると共に、そのデザインの根底にある「トイレの可能性を拓く」という思想を、どのように表現したのかを、プロセスとともにそれぞれに論じていただきました。

「ヒノキマンホールハウス」のトイレ
スギベリー

思索の場所

この住宅は、断熱された屋根のヴォリュームをプレキャストコンクリート製のマンホールの円筒を用いた5本の垂直な積層体が支えている。この積層体は、その継ぎ目を介して屋根ヴォリューム荷重を基礎フーチングへ、さらに地盤へと伝える。それぞれは中空で、その中は住宅に必要な設備を地中から立ち上げるために用いられる。
5本のうち1本の積層体はトイレである。地面から3段上がった位置にある切り欠かれた開口からトイレに入る。内部は上方へ立ち上がるにつれて背面側が狭くなる。コンパクトでタンクレスのSATIS Sの便器にひとりが座ることを前提に、小さな手洗い器で立って手を洗えるだけの余白が残る程度の空間だ。円筒部材の継ぎ目は内部から見えたままである。鋼製の金物とボルトが各円筒部材を締結している。給水・排水・電気の配管配線が地中から立ち上がり、床の位置表示タイルを貫通し、円筒部材の内部を通り上方へと伸びていく。
このトイレは屋根に覆われながらも、マンホール円筒の周囲は外気に開放されている。完全な屋外でも屋内でもなく、地面と、その上にある囲われた屋根ヴォリュームのあいだに身体が置かれるような感覚だ。そこに腰を落ち着けると、身体は建物と直に結びつく。水が流れ込み、排出物は押し出され、少しの間、トイレの使用者は建物の設備回路の一部となる。
このトイレで用いたタイルは、突起があり、視覚障がい者への位置表示に使われる。ここで張られると、壁面のボルト頭、天井に開いた照明と排気のための開口とよく似ていて、床・壁・天井は、突起とボルト頭と穴が一体となったひとつの面として現れる。見慣れたはずのものの秩序が、ここでは意味をなさなくなる。この感覚を吸い取られたような状態の中で、体験は意味から切り離される。トイレにいるという事実は認識していても、その実感が伴わないのだ。
ありふれた建築部材を異例の手法で用いても、機能は失われない。ゆえに、それらが純粋な体験へと矮小化されることもない。むしろそれは、感じることと理解することを分離させるのだ。ここで試みたのは、標準的な建物の規範が「必然」ではなくひとつの「選択」に過ぎないということを示すことである。そして、ここでその選択が変えられるのなら、私たちを取り巻く構造や関係性という広い世界もまた、変えていくことができるはずだ。
私たちが最も無防備になるトイレという空間ほど、自分と建物との関わりが親密になる場所はないだろう。ここを単に効率や新しさを競う技術的な課題として片付け、一過性の体験、スタイルとして単に消費することは、深い思索の場所というトイレ本来の力を損なうことにほかならない。
トイレ空間には、人を立ち止まらせる強さがある。そこはシステムや習慣がいかにかたちづくられているかに気づき、自らがそのシステムの一部であり続けたいかどうか、問い直すことができる場所である。
(高杉真由/スギベリー)

ヒノキの人工林越しに施工中の東側外観。

山梨県の人工林を敷地とした将来の定住利用を見据えた別荘の設計。プレハブマンホールを支柱とした高床住宅とし、木造の屋根を架けた。5つのマンホールを使用し、内部には調理や水回りなどの生活に必要な機能を与え、上部の屋根裏部屋は自由な空間とし、寝室としての利用を想定。マンホールのひとつを階段室とし、屋根裏部屋への出入りに使用する。

トイレ断面詳細図

トイレ平面詳細図・タイル割り付け

上)2階平面図 下)1階平面図

断面図

天井付近より俯瞰する。タンクレストイレは奥行き650mmのコンパクト設計の「サティスS」。

トイレの設置面には同じシリーズの突起のないタイル(PI-150)を使用した。

入り口正面より見る。

床に使用したタイル

1:ピアッツァOXシリーズ
PI-300 / K-1J
300mm角視覚障害者用(位置表示型)
実寸294×294mm
厚さ13+5mm

2:ピアッツァOXシリーズ
PI-150 / 1
150mm角平
実寸144×144mm
厚さ13mm

ヒノキマンホールハウス

所在地 山梨県北杜市
主要用途 専用住宅
竣工 2026年8月
設計 スギベリー
主体構造・構法 高床式 木造 
階数 地上2階
敷地面積 3,660㎡
建築面積  191㎡
延床面積  124㎡
撮影 鈴木研一 委託:新建築社

「離山のカンパニーハウス」のトイレ
ウルトラスタジオ

この建築は、軽井沢の森の斜面地に建つ。ランドスケープの会社が入居し、1階が主に執務、2階は主にスタッフが滞在する居住用途で使われる。ひとつの家族が暮らす住宅とは異なる状況から水回りのあり方を再考し、「公衆性」に着目するに至った。公衆衛生を象徴する白いタイル、そして公衆浴場を象徴する銭湯画、このふたつの要素をトイレ・風呂が一体化した空間のひとつの壁面で両立させる。具体的には、現代版の「銭湯画」を作画し、白いモザイクタイルの目地にさまざまな色のカラー目地材を混ぜて使うことで実現した。距離や光によって、白いタイルの面、目地のグラデーション、そして銭湯画にも見える装飾的な壁面をつくり、トイレや風呂といった水回り空間における新しいタイルの可能性を追求した。

セミパブリックの贅沢

この住宅は、1階はランドスケープ会社の執務スペースとして、2階はその社員が滞在する社宅として使われる。血縁関係のない不特定少数の人びとが、浴室も含めたひとつの水回りを日常的に共有するという状況は、通常の住宅にはない「セミパブリック」な性格の水回りを必要とするだろう。そのための最初の一手として、面積は2階のほかの3室と同等の大きさ、つまり住宅の通常の水回りより大きく確保し、トイレ、洗面と風呂を仕切らずに1室とした。
パブリックトイレ=公衆トイレ、パブリックバス=銭湯と大掴みにとらえると、このトイレ+浴室は、ひとりで贅沢に使える公衆トイレであり、銭湯ともいえる。公衆トイレは機能性や衛生的なイメージを求められ、清掃効率がよい仕上げや、明るい色のタイルなどが使われてきた。一方で銭湯は、自宅に立派な風呂をもつことのできなかった市井の人びとが求めた、広く豊かな場所であり、彼らを楽しませるために装飾的な壁画が施された。そこで、このセミパブリックな水回りにもそのような機能性と装飾性を与えることで、通常のプライベートな住宅の水回りとは異なった、贅沢な体験を提供できるのではないかと考えた。
近代以降、その機能性やメンテナンス性などから白いタイルは「衛生」のイメージを象徴してきた。そこに銭湯の壁画を組み合わせることで、ひとつの面に「衛生」と「贅沢」を重ね合わせることができるだろう。LIXILのタイルで最も粒が小さいモザイクタイルは10mm角である。このタイル1枚1枚の色で何かを描こうとすると、壁の面積に対してピクセル数が少なすぎる。そこで、幅2mmの目地に着目し、既製色のカラー目地材を混合して多色の目地で絵を描くことを試みた。目地粉末と混和液の割合は変えず、色の薄いものと濃いものを混ぜてみたり、異なる色を混ぜてグラデーションをつくったりすることで、今まで存在しなかった目地表現が可能になる。目地材の混合と目地詰め作業は、色と作画のコントロールを徹底するため、設計者自ら施工した。
また、水回り機能を広い一室にまとめたことで、タイル壁に対してさまざまな距離感の視点が生まれている。壁に近いトイレに座ってタイルを眺めれば、複数の目地色と光の入り方によるグラデーションを楽しめ、引きの取れる浴槽やベンチから眺めれば、軽井沢の山の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。「衛生」を担いそのイメージをもつ「白いタイル」に装飾性を纏わせることで、セミパブリックなタイル言語の可能性を模索した。
(上野有里紗+笹田侑志+向山裕二/ウルトラスタジオ)

カラー目地のデザインから施工まで

世の中に数多ある「浅間山」のイメージを「銭湯画」を参考にしながらデフォルメする。

1: 下絵作成
世の中に数多ある「浅間山」のイメージを「銭湯画」を参考にしながらデフォルメする。

目地色に合わせて色を調整し、画像をぼかしていき、全体がグラデーションで構成されるように調整する。

2:グラデーション調整
目地色に合わせて色を調整し、画像をぼかしていき、全体がグラデーションで構成されるように調整する。

カラー目地施工図を、原寸で数十枚のA4用紙に印刷し、壁面に貼る。それらをめくりながら線を写し取っていく。

3:タイルに下絵を起こす
カラー目地施工図を、原寸で数十枚のA4用紙に印刷し、壁面に貼る。それらをめくりながら線を写し取っていく。

目地の硬化時間をはかり、壁の上部から手を使って目地を詰めていく。同時並行して次から次へと目地材の色の調合を行う。

4:目地の自主施工
目地の硬化時間をはかり、壁の上部から手を使って目地を詰めていく。同時並行して次から次へと目地材の色の調合を行う。

カラー目地施工図

下絵の色の境界線を実線、そこから上下にオフセットした領域をグラデーション状にぼかすエリアとして混色を施工した。

スタディとトライアル

既存のカラー目地材を混ぜ、新たな色の配合をつくり出してグラデーションに利用した。

1:目地色の調合
既存のカラー目地材を混ぜ、新たな色の配合をつくり出してグラデーションに利用した。

タイル絵の原寸大の画像を壁一面に印刷して貼り出し、ミクロとマクロの見え方を確認した。

2:ミクロとマクロの見え方の確認
タイル絵の原寸大の画像を壁一面に印刷して貼り出し、ミクロとマクロの見え方を確認した。

900mm角の大判サンプルを製作し、製作方法や色の配合、施工時間などの検証を行った。

3:実寸大モック製作
900mm角の大判サンプルを製作し、製作方法や色の配合、施工時間などの検証を行った。

垂直面へのへらでの目地詰めは素人には困難と気づき、職人と相談し、本番は手で詰めることとなった。

4:詰め方の手法検討
垂直面へのへらでの目地詰めは素人には困難と気づき、職人と相談し、本番は手で詰めることとなった。

水回り平面図
トイレ、洗面、脱衣、浴槽、洗い場が一室空間であり、平面的にゆったりとしている。
トイレはシャープでフラットなフォルムの「サティスS」を設置。

水回りアイソメトリック図
部屋の天井高は窓際の低いところで0.85m、高いところは3.5mと立体的に抑揚のある空間である。トイレの床面と洗面の床面までのひと続きが、白いモザイクタイルで仕上げられている。

壁と床に使用したタイル:10mm角ネット張り
JM-35 20B

壁と床に使用した目地:インテリアカラー目地
MJ/KM-11N〜16N

LIXILが取り扱うタイルの中で最小の施釉モザイクタイル。浴室壁には適しているが、浴室床には使用不可。カラー目地も、水がかりの場所には適さないため、洗い場エリアの外にのみ仕上げとして使った。

離山のカンパニーハウス

所在地 長野県北佐久郡軽井沢町
主要用途 専用住宅
竣工 2026年2月
設計 ウルトラスタジオ
主体構造・構法 鉄筋コンクリート造 一部木造
階数 地上2階
敷地面積 1,702.52㎡
建築面積  86.88㎡
延床面積  147.67㎡
撮影 鈴木研一 委託:新建築社

INAXライブミュージアム「トイレの文化館」

「INAXライブミュージアム」

5点撮影:梶原敏英

株式会社LIXILが運営する、土とやきものの魅力を伝える文化施設「INAXライブミュージアム」(愛知県常滑市)は7つ目の館として日本のトイレ文化を発信する展示館「トイレの文化館」を2025年4月にオープン。
木製便器の時代から、華やかに装飾された陶磁器製便器、水洗化を経て和魂洋才の技術的な発展を遂げ、空間としても充実した現代のトイレに至る日本のトイレの歩みを、約50点の実物と豊富な資料で辿ります。
展示室には、絵図面をもとに復元した江戸城本丸の木製の樋箱、白地に青で美しい絵付けを施した染付古便器、世界に先駆けて発明された19世紀イギリスの水洗トイレなどの貴重なコレクションに加え、国産初の温水洗浄機能付き便器(シャワートイレ)など、日本のトイレ史を飾るエポックメーキングなトイレの数々が並びます。さらに、1階コンクリート造・2階木造の建物には、廃材をマテリアルリサイクルして製作したモザイクタイルや階段吹抜けの塗り壁など、建築の見どころも満載です。
清潔さにおいても、技術においても、世界から注目を集めている日本のトイレ。その進化を紹介すると共に、背景にある、清浄性や清らかさをトイレに求めた日本の心と技を世界に向けて発信しています。

左上:展示室。左下:樋箱(ひばこ)、江戸時代の共同トイレ(模型)。右上:イギリスで発明された水洗便器。右下:「しゃがむ」から「座る」洋風便器へ。

左上:展示室。左下:樋箱(ひばこ)、江戸時代の共同トイレ(模型)。右上:イギリスで発明された水洗便器。右下:「しゃがむ」から「座る」洋風便器へ。

常設展
「日本のトイレ文化への誘い ―千羽コレクションより―」

会場:INAXライブミュージアム「窯のある広場・資料館 2F」

明治時代から昭和時代初めにかけて、愛知・瀬戸でつくられた陶磁器製の染付便器。小便器は正面だけでなく脇や背面まで、大便器は金隠しの外側だけでなく内側まで、さらには床にはめ込む縁部分にまで、季節色豊かな花や生き物が生き生きと描かれており、美術品と見まがう便器を間近で鑑賞できます。 (INAXライブミュージアムの古便器コレクションは、千羽他何之氏の蒐集品を母体としています。)

INAXライブミュージアム
所在地:愛知県常滑市奥栄町1-130 tel:0569-34-8282
営業時間:10:00 ~ 17:00(入館は16:30まで)
休廊日:水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
入館料: :一般 1,000円、学生800円 、中高生500円、小学生250円(税込、ライブミュージアム内共通)※その他、各種割引あり
web:https://livingculture.lixil.com/ilm/

雑誌記事転載
『住宅特集』2026年4月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202604/

このコラムの関連キーワード

公開日:2026年06月24日