「越境するビルダー」座談会1
今、切実な建築の生産を考える
Ishimura+Neichi×ato×連勇太朗
「LIXILビジネス情報」で新連載が始まります。昨今のナフサショック、ウッドショック、円安や資材価格の高騰、人手不足、再開発計画の白紙化など、建築をつくることの条件がこれまでになく厳しくなっています。そうした切実な建築生産を考える連載「越境するビルダー」です。
連載初回は、ディレクションを務める建築家の連勇太朗さんと、共同で編集チームを担うIshimura+Neichi(石村大輔さん、根市拓さん)、ato(谷繁玲央さん、伊神空さん、物井由香さん)とで議論を行いました。
連さんによる初回の論考とあわせてお読みください。
共同編集チームの紹介
連勇太朗(以下、連):
「LIXILビジネス情報」では、2023年度と2024年度の2年間にわたり「建築とまちのぐるぐる資本論」を、2025年度はその展開として「微圏経済のつくり方・もち方・描き方」を連載し、一貫して、建築・都市・まちづくりに関わるお金の問題にフォーカスしてきました。2026年度は、昨今の円安や資材価格高騰のなかで、建築の生産の問題に焦点を当て、実際に建築をつくっている人々、すなわち「ビルダー」を取材し、各現場のリアリティを発信・共有していきたいと思っています。
初回は、協働する編集チームであるIshimura+Neichiと、建築コレクティブatoのメンバーと、連載の方向性についての公開会議です。まずは自己紹介からお願いします。
石村大輔(以下、石村):
Ishimura+Neichiという建築設計事務所を主宰しています。私たちは、東京・足立区の、建築関係の職人さんが多く集まる地域に拠点を構えています。事務所は電気工事会社のLRFや他のデザイナーやエンジニアとシェアしており、2026年7月には、この場所を共有するメンバーで建設業許可を取得しました。今後は、設計事務所と工務店の機能をあわせもつことで、設計と施工の距離をさらに近づけていきたいと考えています。
根市拓(以下、根市):
私も設計事務所であるIshimura+Neichiを共同で主宰しながら、Senju Motomachi Soukoという合同会社でも仕事をしています。日本建築学会の『建築雑誌』2025年2月号で、福島加津也さん、伊藤暁さん、能作淳平さんと共に「メイキングフッド」という特集を担当しました。物価高騰や職人不足といった社会問題は、むしろ自分たちでつくることを身近に引き寄せたり、つくるための環境を再構築する動きになるのではないかという切り口で、様々な方々に取材したり、執筆いただいた特集です。この状況をむしろポジティブに捉えて、これからのつくる環境の広がりにとても興味があります。
谷繁玲央(以下、谷繁):
2026年4月から、「ato」という建築コレクティブを始めました。atoは、普通の建築設計事務所ではなく、名前のとおり、「建築の〈あと〉を考える」をテーマに、必要に応じて設計だけではなく、営繕や維持管理、そのための調査研究やツール開発なども行う組織です。メンバーそれぞれ建築生産・建築構法・建築設計を専門としているので、職人やメンテナンスに関わる人たち、そしてユーザーや所有者との間をつなぐことは、私たちの興味関心の中心にあります。
私自身は、4月に名古屋市立大学の助教に就任し、東京と名古屋を行き来しています。昨年度までは、青木茂建築工房で建築再生の実務に携わると同時に、東京大学の権藤智之研究室で建築構法の研究を行っていました。現在も、建築構法の歴史研究、特に工業化住宅、プレハブ住宅の研究を続けています。また、建築批評を書くことも積極的にやってきました。昨年度は「特別鼎談:これから『建築』を語るために──ポスト大阪・関西万博から建築の批評を考える」にも参加しています★1。
伊神空(以下、伊神):
atoでは既存建築物のリサーチを中心に活動しています。2024年に物井と能楽堂建築の保存活用を目的とした梅若能楽堂研究会を立ち上げたほか、福祉施設の新しい中長期修繕計画の策定などを行っています。建築寿命の長短を決める建築の物としての側面、社会的な機能の側面の両面からアクティブな「予防保全」のあり方を模索しています。
元々は谷繁と同じく青木茂建築工房で建築再生の実務を経験し、現在は、東京大学の権藤研究室で博士論文を執筆中です。専門は建築構法・建築生産で、特に既存の鉄筋コンクリート(RC)造・鉄骨造の増改築の事例研究と建築寿命との関連を研究しています。
物井由香(以下、物井):
私は建築設計をやっています。2022年に、設計チームと企画編集チームの友人と共同で東京・東中野で「なかなかの」というカフェバーの運営を始めました。きっかけは1961年に大江宏の設計によって建てられた「梅若能楽堂」がその敷地内にあったことです。オーナーから当時建設中のマンションにカフェを入れたいと相談されていたのですが、敷地全体がおもしろく、ここに関わり続けたいという思いで始めました。能楽堂の保存活用の活動を通して、建築関係者に限らず一般の人たちにも広めていきたいと思っています。また、能楽堂をきっかけに建築の持続性に興味をもち、日々の修繕の相談から、今後数十年という長いスパンで考えるための中長期修繕計画をつくる仕事もしています。
建築生産の生態系──その地域性と複雑性
連:
ありがとうございます。
さて、本連載を始めるにあたり、まずは個人的な関心、動機からお話させてください。私たちの設計事務所CHArでは、宮古島でいくつかの仕事をしています。宮古島は、台風による被害があることなどからRC造の建物がほとんどで、昨今は、リゾート開発による地価の上昇と資材費や工事費が高騰しているなかで、最低限の仕様の住宅でも坪単価150万円を超えてしまう状況です。
なので、最も住宅ニーズが高い30代の地元ファミリー層が住宅を買うことができないということが起きています。宮古島の深刻な住宅問題を解決すべく、木造で、坪単価が安く、地元の人たちがつくることができる住宅のプロトタイプを開発しようとしているのですが、RC造が一般的なので、例えば建て方ができる大工さんがいなかったり、相見積りを取ることができないなど、普段の仕事とは違う様々な条件があります。ちなみに、LIXILの商品も取引の関係上、使えません。そうした状況における設計とは、意匠を考えると共に、直接的にコストや生産、流通を考えることになります。宮古島は極端な例かもしれませんが、各地域で異なる建築生産の体系があるのだろうと思います。
谷繁:
掲げられている「ビルダー」という言葉は色々な意味を含んでいます。日本ではツーバイフォー工法がオープン化した1970年代前半頃から、従来の工務店やプレハブ住宅メーカーとは異なる主体として「ホームビルダー」という言葉が使われるようになりました。アメリカ由来の言葉です。1990年代後半には、「パワービルダー」と呼ばれる大量に建売住宅を供給する主体も台頭し始めました。「ホームビルダー」も「パワービルダー」も従来の工務店や大工を超えたイメージをもっていたのは間違いありません。ただ、「ビルダー」をもっと広く捉えたときに、現場で建設をする人々だけではなく、プレカット工場や各建材メーカーで働く人々など対象範囲は広がっていきます。
建築関係のものづくりに関わる人々の一般的な呼称は「職人」だと思いますが、職人ではあまりに広すぎるので、今回はビルダーというわけですね。
布野修司さんが編集長だった雑誌『群居』の3号に、「『職人考』住宅生産社会の変貌」(1983年10月)という特集があります。そこでは、職人を追いかけるような独特の眼差しがありました。そうした視座の現代版という意味でもおもしろいですね。ブラックボックス化している現代の建築生産、部材の流通、人々の働き方などを紐解いていくような取材をしたいと思っています。
連:
近年、施工と設計の関係が変わってきていますね。多能工的かつデザインもできるひとり工務店的な人がいたり、デジタルファブリケーションによって設計と施工を近づけようという動きもあります。品質の管理や、発注者の利益を守ることを考えると、三者分離(設計者・施工者・発注者)が原則だと思いますが、日本の建築生産の歴史を遡ると、必ずしも設計と施工ははっきり分かれていませんでしたし、現在もゼネコン(総合建設業者)というシステムがあり、さらにデザインビルド方式も増えています。本連載では、いわゆる狭義の意味でのビルダー(=施工者)だけではなく、広く建築生産に関わる人々を「ビルダー」として、幅広い意味で捉えていきたいと思っています。
根市:
協働している電気工事会社LRFの方が、ロンドン出張の際に現地の建築家から聞いた話ですが、ロンドンでは職人が減っていて、それなりに技術をもった人に製作を頼むと、日本円での日当が約9万円だそうです。日本でも今後さらに職人が減っていくので、オーダーによる手仕事でつくることのコストはますます高くなっていきそうです。他方で、既製品の需要が高まっていたり、組立てのみの現場が増えていて、造作工事が減っていることもあって、腕のある大工でも日当は下がっているという悲しい話も聞きます。
連:
今、建築コストの問題は本当に切実です。資材費のなかには輸送のコストが入っていて、人件費のなかには営業費が入っています。大きな開発プロジェクトであれば、数年先の物価高騰も見込んで見積りが算出されています。全国的には、職人さんの減少の問題も深刻です。統計の数字も重要ですが、それだけでは見えてこないリアルな声を聞く、リアルな建築生産の現場を訪ねていければいいですね。
図面とコミュニケーション
石村:
私は、設計者と施工者をつなぐコミュニケーションツールとしての図面に、特に関心をもっています。先ほど連さんから宮古島の難しい状況についてお話がありましたが、東京では必要な予算さえ確保できれば、工務店の選択肢も多く、一定の形式で図面を書くことで施工を進められる環境が比較的整っています。
一方、足立区では、工務店を介さず職人さんと直接やり取りすることもできます。ただ、そうした職人さんとのコミュニケーションでは、一般的な工務店向けの図面が、そのまま有効に機能するとは限りません。足立区や千葉県富里市でご一緒した大工さんたちは、図面を細かく読み込むというより、現場での会話や実物を通して判断するタイプの方々でした。
根市:
富里の現場では、工務店が自社のネットワークを使って、図面に記載していた素材よりも良い品質のものを地元の木材市場から自ら調達し、そのときの上質な県産材を選んで入れてもらうことがありました。こうしたことは経験があれば事前にある程度わかることなのかもしれませんが、それでも図面には表れない職人の目利きやスキルに出会うことは魅力的ですよね。
また、特に東京では物の価値は資本主義の合理性のなかで決められますが、地方ではその場所ごとに資源に対する合理に違いがあり、価値判断が変わることがあります。
石村:
青木淳さんと品川雅俊さんが共同主宰するASは、最近ウェブサイトで多くの図面を公開しました★2。とても興味深い試みですが、あのような精度の高い図面が、あらゆる現場で有効なわけではありません。誰と、どのようにつくるのかに応じて、伝え方そのものを考える必要があります。
アントニン・レーモンドは、自邸で日本初とされるコンクリート打放しの表現を試み、その後も様々な建築へ展開しました。当時は施工技術が十分に確立されていなかったため、実物大の型枠をつくって実験を重ね、所員たちも施工者と現場で作業したそうです。設計者が図面を描くだけでなく、職人と共につくり方を考え、ときには自ら現場に入る。そうした行為もまた、ビルダー的な実践だと思います。
谷繁:
私も学生時代から、そうした建築の情報量をどんな人や物が受けもち、どのように知識が交わされるかに関心がありました。トム・メインと共にモーフォシスを設立したマイケル・ロトンディの「CDLT House(Cedar Lodge
Terrace House)」は、図面を描かずにスケッチと職人とのやり取りによって徐々につくられていきました。精緻な図面は設計と施工を分けることになりますが、「CDLT
House」は施工段階でスケッチの精度を上げていくようなつくり方です。
「SAYAMA
FLAT」(設計:長坂常/スキーマ建築計画、竣工:2008年)はある種の究極的なかたちで、見積りを取らず図面も提出せず、予算の範囲内でとにかくやってみたという話がありました★3。設計者が細かく割付を書かなければ、逆に職人さんが歩留まりを考えてくれるかもしれません。図面は、見た目や納まりのためなのか、材料の歩留まりやコストまで考えられたものなのか、色々なケースがあると思います。
伊神:
建築の改修では、図面に描かれる寸法の意味が新築とは異なるという実感があります。例えば、既存の窓サッシを交換するときに描かれる建具表の寸法は、(あくまで現調の実測値や既存図面に基づいていて大きくは外れないのですが)暫定的なもので、実際に製作されるサッシ寸法は、既存サッシの撤去が終わった後に施工者が開口を実測して決定されます。一から寸法体系を構築できる新築とは違って、改修は先に決まっている「未知」の寸法があり、施工に入るまでそれがわからないという点が、設計者と施工者の関係を複雑なものにしています。そのために最適なコミュニケーションの手法は、新築ベースで体系づけられた図面とは異なるのかもしれません。
物井:
私は東京での仕事が多いのですが、大工さんとのコミュニケーションが重要だと感じることが多々あります。特に小さな修繕の現場では、木工関係ができるだけではなく、ちょっとした防水ができたり、多能工的な大工さんだととても頼りになります。解決しなければならない問題があったときに、その人と少し話し合うだけで一気に物事が進んだり、大工さんのネットワークから解決の糸口が見えてきたり、ひとりの力によって大きく現場が変わりますね。
設計と施工の距離
谷繁:
最近、石山修武さんにインタビューをする機会がありました。石山さんはかねてより学生に「工務店になれ」と言い続けてきましたし、それを実践している教え子もいます。その言葉の真意は、まさに様々な物の価格を知らなければならないということだったと思います。石山さんの師・川合健二さんも、コストの問題に非常に関心をもって、南米の鉱山の株価などをチェックしながら錫やコルゲートチューブの価格を予想していたようです。
現代では、サプライチェーンが複雑で、ナフサが足りなくなることで何がどう高くなるのか、もはや我々にはわからないほどです。工務店を始めればすべての物の価格がわかるわけではありません。ただ、サプライチェーンにおいて末端にいるだけでは、そもそもものづくりができないような時代です。石山さんたちの「D-D(ダイレクト・ディーリング)方式」は、ゼネコンのような総合請負、いわゆる中間を飛ばした建築生産へのチャレンジだったのだと思います。
石村:
石山修武さんは、建築をつくることを通してある種のユートピアを具体化してきたのだと思います。自身の実践や著作を通じて、建築家の役割そのものを問い直してきたとも受け取っています。
ただ、その後の建築を取り巻く環境では、設計と施工の分業が固定化され、建築家は図面を描き、職人はそれを施工するという関係が強化されていきました。そのため、石山さんが示したような、建築家自身が施工方法を考え、職人さんと一緒につくり方に深く関わるビルダー的な実践は、十分には広がっていかなかったのではないかと思います。それは石山さんの実践の限界と言うより、建築家という職能が、設計と施工を分ける仕組みのなかに組み込まれていった結果なのだと思います。
谷繁:
コミュニケーションの共通の基盤がないことを前提に、教育によって図面を描ける人、読める人、つくる人というプロフェッショナル同士のものづくりが成立します。一方で、石村さんが言った「ユートピア」という表現のように、ある種の理念がコミュニティ内で共有できていれば、図面の描き方、図面の枚数も変わり、できてくるものも変わってくると思います。それはプロフェッショナルに対するアマチュアリズムで、ゆえにクローズドでもあります。
石村:
私たちが工務店をつくった理由は、現場でものづくりをどんどんやりたいからではなく、施工まで担うことで、むしろ設計の時間を確保したいと考えたからです。どれだけ丁寧に設計を検討しても、最終的に工事費が合わなければ、それまでのスタディの多くが無駄になってしまいます。また、設計料だけで十分な時間と収入を確保することは、特に若い設計者にとって簡単ではありません。そのため、大学で教えたり、別の仕事を組み合わせたりしながら設計活動を続けている人も少なくないと思います。もちろんそうした働き方自体を否定したいわけではありません。ただ私たちは、設計と施工の両方を担うことで、設計実務そのものを持続可能な仕事にできないかと考えました。工事費を早い段階から把握し、実現可能性を確かめながら設計を進めることで、手戻りを減らし、設計そのものにかけられる時間を確保できるのではないかと思っています。
連:
設計・施工の分離という原則はありますが、小さな改修プロジェクトでもそれが必要なのかという話ですね。
物井:
通常、建築をつくるときには設計者のフィーより、工務店のフィーの方が多いわけで、工務店と設計を両方やることで、なんとか設計ができるということですね。でも、仕事が多い工務店は、メーカーの製品を入れるときの利率が低いので、その分コストを落とせることが強みでもあります。小規模な工務店ではそういうことはできないのではないかと思います。
石村:
工務店からすれば、建築家の難しい図面に対しては、現場での変更などの手間が多くなるリスクを見込んで見積りを出します。また、ローコストの建築をつくることは大変な労力なので、設計事務所のそうした仕事は断っているという工務店もあります。今は建築費が高騰しているので現場が強くなっていて、適正価格を知ることが難しくなっています。自分たちで工務店をやることによって、そのあたりも考えたいと思っています。
物井:
コストに関連して、建築家によるリノベーションでは、仕上げ材を剥いでラフに仕上げていくという方向性がありましたが、断熱材を剥いでしまったりと無理をしているように見えるところもあります。むしろ解体費を最小限にし、上に塗ったり張ったりして新材を重ね、ふかすことで、豊かな空間をつくっていくことに可能性を感じています。ただ、解体をしないと十分に躯体や下地の状態が確認できず、劣化に気づくことができないという懸念もあります。
石村:
最近、既存のテラゾーを磨き直して再生するという提案をしました。仕上げをすべて剥がすのでも、新しい材料を上から重ねるのでもなく、既存の表面を磨くことで更新する方法です。最初は古いテラゾーを磨ける研師を探して相談したのですが、テラゾーだけでなく、石のタイルも研磨して再生できることを知りました。一方、磁器タイルは同じように磨き直すことが難しく、傷んだときには張り替えることになりやすい。そこで、新しく仕上げる部分についても、将来の改修時に磨き直して使い続けられるテラゾーを提案しました。
もちろん、解体しなければ下地の状態をすべて確認できないという問題は残ります。ただ、改修のたびに全面的に剥がしてつくり直すのではなく、必要な部分だけを調査しながら、表面を更新して使い続ける方法もあると思います。解体と施工を対立するものとして考えるのではなく、将来の改修まで含めて、どの層を残し、どこまで手を入れるのかを設計することが重要なのではないでしょうか。
既製品/造作、物の劣化
連:
誰がいかに製品を選ぶのかというのも今回の連載のテーマになりそうです。人口減少に伴い新築着工戸数も減っていて、当然ながら新築をベースとしたビジネスは持続可能ではなくなり、リノベーションが事業のフィールドとして大きくなってきています。LIXILさんも今、実際にプロダクトがどう使われているかが見えていない部分もあるようです。製品の分類としては、住宅/非住宅、改修用/新築用などの分類がありますが、そうした境界は自明ではないということですね。
石村:
確かに、既製品の使い方をハックするのはおもしろいですね。以前、建築家が住宅にビル用サッシを転用するという流れがありました。既製品なので比較的コストを抑えながら、大きな窓をつくることができたのですが、その後、省エネ性能や防火設備に関する基準が厳しくなり、同じような使い方は難しくなっていきました。
根市:
既製品は、その製造・開発に多額の投資がされた結果として安価に手に入れられます。大量生産と低コスト化によって、広範囲で流通しています。そうした消費社会の恩恵を受けたハッキング文化が生まれていることは、ものづくりの豊かさにつながっていると思います。一方で、性能、保証や法律などの制度が高度化していくと、その使い方を変えたり、カスタマイズする余地や選択肢も少なくなっていきます。
連:
やはりメーカーの製品はとてもよくできていて、保証やアフターケアの体制も整っています。それらは企業努力によるものです。ただ、その製品によってどのような豊かさが生まれているのか、という社会的な問いがあります。ユーザーのマインドが消費者的なものになってしまい、すぐにクレーム問題になったり、メーカーもそれを過剰に恐れるようになっているという側面もあると思います。そのことによって現場で物をつくる自由が失われているのかもしれません。それは、本当に良い社会なのでしょうか。
石村:
仲良くさせてもらっている建具屋さんは、「自分でつくった建具ではなく、メーカーの製品を勧めたい」と言っていました。故障への対応が面倒だからだそうです。それは悲しいことですね。
谷繁:
ストック活用、長寿命化、改修して使い続けることがごく普通のことになった現代では、住宅部品のあり方や、人々の受容のあり方も、新築至上主義の世界とは変わらざるを得ないと思います。
LIXILさんやハウスメーカーは大企業なので、製品は各時代のお客さんが求めるクライテリアの変化に対応していきますが、保証が切れた後まで付き合うことは儲からないので当然できません。メンテナンスフリーです、部品が壊れたら交換できます、10年保証です、という商品を売ってきたわけです。それによって、人々の住まいや建物に対する眼差し、美的判断基準に、時間経過によって物が劣化するという事実があまり受け入れられてこなかったのではないでしょうか。かつての技術はもうない、交換部品の在庫がない、などの将来像を描いてこなかったことのツケが回ってきているとも言えます。それらのフォローは、大企業以外の人々、地場産業、小規模の建築設計事務所などが担ってきたとも言えます。
建築を使い続けるには、ユーザーもビルダーもメーカーも劣化時の新築にはない魅力、劣化を受け入れたうえでの改修する技術、きれいにはならないけれど長持ちさせることなど、「妥協」を受け入れなければならないと思います。
連:
内田祥哉『建築生産のオープンシステム』(彰国社、1977年)に書かれている議論を思い起こしました。目地、素材の切り替わりが職人の職能の範囲を示しているというような意味での境界、新築/改修、設計/施工の境界、標準化されたものと個別の製作の境界など、様々な境界があり、それらが揺らいでいるのだと思います。連載では、それらの越境性を探求していきたいですね。よろしくお願いします。
注
★1──「特別鼎談:これから『建築』を語るために──ポスト大阪・関西万博から建築の批評を考える」
https://www.biz-lixil.com/column/housing_architecture/gr3_discussion_005/
★2──AS
https://as-associates.jp/
★3──「建築とまちのぐるぐる資本論」取材 6「予算から自由になるための創意」長坂常(聞き手:連勇太朗)
https://www.biz-lixil.com/column/housing_architecture/gr1_interview_006/
文責:富井雄太郎(millegraph)
サムネイル画像イラスト:荒牧悠
[2026年7月2日、オンライン収録をもとに構成]
Ishimura+Neichi
石村大輔と根市拓によって2017年に設立。東京・千住のSenju Motomachi Soukoを拠点に、足立区に残る職人や小さな工場と協働しながら、建築の設計を行う。近年はSenju Motomachi Soukoとして合同会社を設立し、建設業許可を取得。設計と施工、図面と現場の距離を近づけながら、地域に根ざした建築をつくり続けるための実践を展開。
石村大輔さん(右)、根市拓さん(左) 撮影:傍島利浩
ato
伊神空・谷繁玲央・物井由香により、2026年設立。「建築の〈あと〉を考える」をテーマに、建築設計だけではなく、営繕・維持管理・ストックマネジメント・保存活用など建築を長く使い続けていくための所有者支援やデザインリサーチ、ツール開発などを行う。建築家・大江宏が設計した梅若能楽学院会館・旧梅若邸のリサーチチーム「梅若能楽堂研究会」を主宰。
伊神空さん(右)、谷繁玲央さん(左)、物井由香さん(中)
連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)
1987年生まれ。建築家、博士(学術)。明治大学専任講師、NPO法人CHAr(旧モクチン企画)代表理事、株式会社@カマタ取締役。
主なプロジェクト=《モクチンレシピ》(CHAr、2012)、《梅森プラットフォーム》(@カマタ、2019)など。主な作品=《2020/はねとくも》(CHAr、2020)、《KOCA》(@カマタ、2019)など。主な著書=『モクチンメソッド──都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版社、2017年)。
連勇太朗さん 撮影:平松市聖
座談会のテーマとなっているストック型社会におけるLIXILのソリューション
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公開日:2026年07月28日

