「越境するビルダー」論考3
大工の未来を考える6つのキーワード
榎優志(京都橘大学工学部建築デザイン学科助教)
「大工の未来」という大きなテーマをいただいた。その世界は一口に語れるものではないし、日頃現場にいるわけでもない筆者が大工・職人について論じるのは、身に余る思いである。しかし、今日の建築業界が、何かが変わる、変わるべきフェーズを迎えていることは確かだろう。本稿では6つのキーワードをもとに、建築をつくる社会全体で、大工の未来を考えるきっかけとしたい。
建築現場の根幹を担い続ける大工
日本の建築において「大工」という言葉の登場は、古代まで遡る。当時の大工は、律令国家の巨大プロジェクトを束ねる技術者であった。その後は、朝廷や幕府による大造営の時代に、設計や管理を担う技術者として現場を牽引し、大量生産の波が落ち着けば、自らも手を動かすつくり手(技能者)として建築に携わった。
大工という職能は、技術者と技能者という二つの側面を併せもち、時代ごとの社会情勢や建築需要に応じて柔軟に立場を変容させながら、常に建築をつくる現場の根幹を担ってきたのである。
減り続ける大工、変わりゆく需要
一方、現在の大工をとりまく状況は厳しい。日本の大工人口は、1980年代をピークに減り始め、その後40年間で約3分の1になった(図1)。20代以下の減少は特に著しい。また今後は、大工人口が一貫して減り続ける一方で、つくられる住宅の数は横ばいとなることが推測されている(図2)。ごく単純に考えれば、大工ひとり当たりの負担が増えていく。これまで生産の合理化によってなんとか賄われてきた人手不足も、いよいよ限界を迎えつつある。
図1:大工就業者数とその内訳の推移★1
図2:大工人口と新設住宅着工戸数の推移★2
加えて、これから本格的なストック活用型市場が到来する。筆者が調査するなかで、新築をやめてリフォームに軸足を移す工務店の話を聞くことも増えてきた。改修工事では、家の傾きや構造材の腐朽など、現場ごとに異なる問題への対応が必要となり、既製品が合わない部分には、手加工も求められる。施主の在宅中に工事を進めるケースも少なくないため、コミュニケーション能力もこれまで以上に重要となるだろう。大工の仕事は、より個別性・柔軟性の高いものになっていくと言える。
また、多能的な仕事への変化も考えられる。人手不足は大工のみならず、左官、板金、電気といったあらゆる業種で進んでおり、それぞれの仕事を各業種のなかで維持することが難しくなってきている。かつての大工が技術者と技能者の間を行き来してきたとすれば、これからは職種の境界を越えて、周辺の仕事を幅広く担う大工が増える時代と言えよう。
6つのキーワード
これから社会は、長期的な縮小・縮退フェーズを迎える。しかしこんな下り坂の時代にこそ、未来のどこかに夢を見たい。そのきっかけとして、ここでは6つのキーワードを挙げる。
1「働きやすさ」、2「働きがい」
近年、労働時間の短縮や、多様な働き方の受け入れなど、「働きやすさ」を改善する動きが進みつつある。ここで重要なのは、人手不足は大工のみならず、社会全体で起こっているということだ。そのなかで新たな人材を確保するには、他業界と同水準以上の労働環境を整備することは不可欠だろう。
制度的な推進力も相まってか、少しずつ日当が上がってきているという声も聞く。しかし、その算出や決定の方法は未確立な部分が多い。また相場が地域ごとの需要や慣例などによっても異なるため、その水準は一様でない。優れた技術・技能に適切な報酬が支払われるためには、大工の能力を評価する基準の設定が重要となるが、合理化・多能化が進む現代の建設現場で実際に必要とされるスキルや、現場ごとに異なる規模、生産体制、仕事内容なども考慮した柔軟な制度設計が求められる。
工期のある現物生産と時間給的な働き方との相性や、厳しさを増す夏場の気候など、何をもって「働きやすい」とするのかについても議論の余地がある。「働きやすさ」の確保は、大工人材の確保に向けた第一の課題である。
一方、これと併せて考えたいのが「働きがい」である。筆者はこれまで、工務店や訓練校における大工育成の実態を調べるなかで、大工を辞めていく若手の存在をたくさん見てきた。その理由は、親方との人間関係、他の仕事に就いた同級生とのギャップ、労働条件など様々であったが、特に印象的だったのは、「仕事がおもしろくないからやめる」という層が一定数存在したことである。しかも学校や訓練校で熱中し、優秀な技能を身に付けた人材に限って、大工を離れてしまうケースが少なくない。
こうした若手は、既製品の利用が進んだ現在の大工仕事に、魅力を感じられないと口を揃える。「手仕事」にハマった若者たちは、墨付け・手刻みなどを行う大工・工務店が希少になりつつあるなかで他の会社に行く気にもなれず、大工という仕事自体から離れてしまうのだ。
もちろん、すべての若者が高度な技能習得を求めているわけではなく、生産の効率化は今日における重要課題のひとつである。しかし、小学生がYouTuberになれるこの時代に、「ものづくりが好き」を仕事にできない若者がいる社会は、果たして進化していると言えるのだろうか。
「おもしろい仕事」をどのようにつくっていくか。これは抽象的な理想論ではなく、将来の人材確保にも直結する重要な問いである。
3「身体性」、4「主体性」
では、大工仕事における「おもしろい」とは何だろうか。その手掛かりとして考えたいのが、「身体性」と「主体性」である。言い換えれば、大工が自分の身体を使って、自らの意思決定の下で仕事を行えるか、という視点である。
ここで、大工道具の変遷を大まかに振り返る(図3)。のこ、のみ、かんなといった道具が少しずつ進化し、機械技術の発達によって電動工具が出てきた。やがてプレカットが登場し、近年ではCNC加工機や3Dプリンターといったデジタルファブリケーション技術が実用化されつつある。こうした技術の進展は、効率化、精度の向上、省力化、多様化、小型化など、様々な方向に進み続け、その流れが止まることはない。そのなかで今、大工の仕事から「身体性」や「主体性」が薄れつつあるのではないか、というのが筆者の意識である。
図3:大工道具における技術の進展
松村秀一は、電動工具とプレカット工場との間に、道具が帯びた身体性という観点から線が引けることの可能性を示している★3。一般に「手仕事」というと、のみやかんなが思われるかもしれない。しかしたとえ電動工具でも、職人が道具と一体になり、それを自らの手先のように使いこなすことができれば、そこにはまだ「身体性」は残されているのではないか。一方、プレカットでは多くの場合、機械によって作業が完結する。だからこそ、大工が減少するなかでも住宅需要に対応することができていた。ただ同時に、加工作業の一部が工場や機械へと移行したことで、大工が直接材料に手を加える機会は減っていった。
「主体性」についても考えたい。工業デザイナーの奥山清行は、ものづくりにおいて職人がもつ最大の能力は、「開発と生産を同時に行うことができる点」にあるとしたうえで、そこでは「何をつくるのか、何をつくりたいのかという意図」が不可欠であり、それを「誰が決定し、指示するのか」というマネジメントが重要になるという★4。振り返ればこれまで、建築の制度やシステムは、つくり手自身の意図や創造性を十分に受け入れてきただろうか。現代の職人が、指示されたことをやるだけの「作業員」になりつつあるという声は、多くの現場で聞かれる。
とは言え、技術発展による恩恵は大きい。例えばデジタルファブリケーション技術は、かつては熟練の職人にしかできなかった生産行為の一部を、そうでない人々でも実現可能にした。ものづくりのおもしろさを、より多くの人々が、より身近に享受できるようになったのである。
次なる段階は、こうした技術をプロがどのように使いこなすかである。電動工具を自身の手先として使いこなすように、大工がデジタル機械を自らの意図と一体化させてものづくりを行うようになれば、それはつくり手の能力を広げる新たな「道具」となり、次なる次元の「手仕事」になり得るかもしれない。
また、こうしたものづくりの高度化を支える構法や部品のあり方も重要となる。これまで建築生産は、早く、安く、簡単に、誰がつくっても同じものを生み出せることを目指してきた。それと並行してこれからは、ものづくりの最前線にいるつくり手の創造性を受け入れ、掻き立てるような仕組みやモノがあってよい。そこでは精度の担保や責任の所在を含め、創造と意思決定のプロセスをどのようにデザインし、マネジメントするかが重要になるだろう。つくり手の「身体性」や「主体性」を引き出す技術発展の方向も、視野に入れておきたい。
5「ネットワーク」、6「シェア」
わが国の建築生産は、ゼネコンやハウスメーカーを含め多様な主体によって支えられている。ただし、その現場の最前線を担っているのは、多くが大工・工務店といった中小企業である。彼らは大企業に比べ人的な資源や資金の規模に限りがあり、自社単独で行える生産活動の範囲も限られる。社会全体が縮小していくなか、単独で人材育成や事業展開を行うことは容易でない。
そこで、ひとつの事業者が単独で負担するのではなく、複数の事業者が「ネットワーク」を形成することで、必要な資源や要素、成果を「シェア」する生産の仕組みを考えられないだろうか。
図4は、生産活動が行われるシステムの基本構造を示したものである。システムが機能するには、必要な機能・要素が満たされなければならない。そこに生産資源がインプットされることで、各要素を通じて付加価値が付与され、成果物がアウトプットされる。住宅生産であれば、必要な資材が投入され、企画・設計・施工といった要素・機能を通じて、住宅が生み出される。人材育成であれば、若手という人材が投入され、指導者や育成環境を通じて、技を身に付けた大工として輩出される。
図4:生産システムの概念図
図5:生産システムにおけるネットワークとシェア
考えたいのは、ここで必要な資源や要素を複数の事業者が持ち寄ることで、全体としてシステムを機能させるという発想である(図5)。これにより、ひとつの事業者がすべてを負担せずとも生産システムを成立させることができる。大工・工務店は、それぞれに異なる特色をもっている。こうした生産者同士が互いの強みを活かした連携の仕組みを考えていきたい。
実際に、地域の大工・工務店が共同で若手を育成したり、住宅地開発を行ったりする取り組みも始まっている。大工・職人による「ネットワーク」と「シェア」は、縮小時代の建築生産の可能性を引き出すカギになるだろう。
越境し始めた大工たち
そうしたなか、大工・職人の未来を予感させる動きが、様々な方面で起こっている。
福岡県久留米市の「職人シェアオフィスBASE」では、大工、電気、設計、造園など、10以上の異なる業種の職人が集い、一緒に工事を行っている★5。従来の縦割り構造における業種間の壁を取り払い、指示を出す、出されるという主従関係を緩めることで、それぞれの職人がより主体的に工事に関わる環境がつくり出されている。
また、岡山市の「杣耕社」では、日本人とアメリカ人の二人の大工によって、日本の伝統構法の技術・技能が、世界に向けて伝承されている(図7)。海外からの弟子を受け入れるほか、現地でのワークショップも開催しており、常に世界中から問い合わせが殺到している。
図6:「職人シェアオフィスBASE」における「職人会議」の様子。写真提供:半田啓祐、半田満
図7:「杣耕社」の代表が海外からの弟子に指導する様子。
さらに、若いつくり手のつながりも生まれている(図8・図9)。筆者も関わる「家づくりの未来を考える若人の集い」では、「全国ネット・多業種・若人」をテーマに、家づくりに関わる若手が集う50人規模のオンライン・プラットフォームが形成されている。大工、設計、左官、管理、建材メーカー、学生など、多様な背景をもつ若手が定期的に集まり、自身の活動や考えを語り合っている。また興味深いのは、この集いを通じて知り合った若手同士が、地理的に遠く離れた互いの現場に応援に行き合っていることである。オンラインとリアルを相互に行き来する若いつくり手のコミュニティが生まれつつある。
図8:「家づくりの未来を考える若人の集い」でのオンライン活動の様子。
図9:メンバーが一堂に会する「総会」で地域材料について学ぶ若人の様子。
大工の未来、建築の未来
これまで大工は、社会の動きに応じてその職能を柔軟に変容させてきた。そして今、業種、地域、時間、国境といった従来の制約を越え、未来に向かって蠢き始めている。
ただしそのとき、活動の中心にあるのは、いつも人間であることを忘れないようにいたい。技術は、単なる効率化ではなくさらなる創造のために、そして、人間が人間として豊かに暮らし生きるために発展されるべきであろう。建築をつくる社会が更新されようとしている。私たちは、「何をつくるのか、何をつくりたいのか」という根本的な問いに向き合うことを、改めて求められている。
注
★1──総務省:国勢調査(60歳以上の比率は筆者が算出)
★2──ニュースリリース「2040年度の新設住宅着工戸数は49万戸に減少、2040年の既存住宅流通量は20万戸に増加する見通し」野村総研、2022年6月9日。2022年以降は予測値。大工ひとり当たりの住宅着工戸数は筆者が算出。
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20220609_1.html
★3──松村秀一『新・建築職人論 オープンなモノづくりコミュニティ』学芸出版社、2023年
★4──奥山清行『伝統の逆襲 日本の技が世界ブランドになる日』祥伝社、2007年
★5──「職人シェアオフィスBASE」は本連載のレポート2も参照。
https://www.biz-lixil.com/column/housing_architecture/cross_builder_006/
撮影・図版:榎優志(特記を除く)
サムネイル画像イラスト:荒牧悠
榎優志(えのき・まさし)
京都橘大学工学部建築デザイン学科助教。1998年広島県尾道市生まれ。広島大学大学院先進理工系科学研究科博士課程後期修了。2026年より現職。専門は建築生産・建築構法。博士(工学)。
地域工務店・施工者の「ネットワーク」と「シェア」を支える LIXILの加盟店サポート
論考で語られた「職人の連携とシェア」。協働共栄の理念のもと、情報共有や学びの場を通じて、これからの建築生産を共に創るネットワーク組織のご紹介です
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公開日:2026年09月28日