玄関から考える住宅の可能性(後編)

玄関が変えるまちと住宅

原田真宏(建築家)× 武井誠氏(建築家)× 門脇耕三(建築学者、進行)

『新建築住宅特集』2015年10月号 掲載

汎用性のある玄関のあり方

門脇:

これまでお話を聞いていて、玄関という言葉がだんだん窮屈になってきていると思いました。それでは、これから玄関という場をどのように再定義していく必要があるでしょうか。

武井:

ル・コルビュジエがホワイエが家の中心であるといいました。大きな劇場と街との間にあり、みんなが歓談する場であるホワイエに、今興味があります。玄関もそのようなパブリックとプライベートの間の緩やかな場なのだと思うのです。そのような気軽に誰もがふらっと入れるような場を用意することで、外と内、社会と個人を繋ぐ中間領域として自発的に機能が生まれてくる、それが玄関なのではないでしょうか。

門脇:

それは在宅勤務の話にも繋がりそうです。僕がSOHOで気になるのは、仕事場の規模の伸縮に対応できないことで、一生のうち実践できる時期が限られるのではないかと思っていましたが、玄関をホワイエ的に考え、社会的な領域と私的領域の調整代とすれば、住宅はもっと柔軟に使えそうです。

原田:

僕は玄関を通じて、外と内のしきい値をどこに設定するかを考えています。今フェンスの開発をしているのですが、そこで境界とは何かというところまで戻って住宅を考えていて、つまるところ僕たち建築家の仕事とは、線の引き方によって境界を調整することだと思ったのです。どこにどのような濃さで境界線を引くかを考えると、玄関という概念に想像力が働きはじめる。その線の引き方は、フロートガラス、フロストガラス、障子なのかなど、あるいは引戸、開き戸なのかなど、そのつくりによって濃度が調整できるでしょう。余談ですが、街中のウォーターミストはとても淡い建具のようにも感じられますしね。昔の民家ならば、街路から、生け垣、庭、軒先、縁側、格子戸、障子などたくさんの淡い境界線がありましたが、それを現代でやるためには、これまでの玄関製品が前提としていた世界観を刷新しなくてはいけないと思います。これまでは防犯、空気、音響などの面で内外をしっかりと区画し管理する、非常に濃い単線でした。しかし、複数の淡いラインによって、その外と内を緩やかなデプスをもって繋ごうと考えた時に、それに対応したエレメントが生まれてくるとよいですね。

武井:

昔は柱にどん付けでよかったはずの仕切りは、生活に応じて大広間になったり、寝室になったりと、さまざまな交換が可能でした。しかし、多様な性能を担保するために枠が登場し、柱と扉の間に複雑な形状をしながら、がっしりと取り付いてしまっていますね。枠と躯体の接点がもっとルーズで、枠や建具の取り替えもできれば、可能性が広がると思います。

門脇:

社会的に認知された機能を追いかけるばかりではなく、社会や暮らしのあり方から、いま本当に必要な機能をそれぞれが考えることが必要なのでしょうね。またリノベーションも増え、住宅を住み継ぐことが当たり前の感覚になってきていますから、現在だけではなく、時間の経過に耐える住宅を考えることも必要です。玄関を見つめ直すことは、そうした課題に対しても大いに役立ちそうですね。(2015年7月30日、LIXILにて。文責:『新建築住宅特集』編集部)

※特記なき写真撮影 / 新建築社写真部

雑誌記事転載
『新建築住宅特集』2015年10月号 掲載
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-201510/

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公開日:2015年09月30日