連載「よりマシな世界のためのデザイン──Architecture for a better world」第3回

経済圏、プラットフォーム、プロトタイプ

連勇太朗(建築家、 CHAr)

今、私たちの暮らしはどこか窮屈で、退屈さや息苦しさを帯びているように感じられる。地球温暖化や格差の拡大、過剰な消費や情報の氾濫、紛争や災害……。世界に目を向ければ、日々の暮らしから遠く離れた、あまりにも複雑で手に負えないような問題が次々と浮かび上がってくる。現在の社会システムが、資本主義の論理だけでこのまま駆動し続けていくとは到底思えない。いずれ大きく揺らぎ、崩れる状況に直面するかもしれない。実際リーマンショックやパンデミックを通して私たちはそれを経験してきた。だからこそ、資本主義が提供する巨大で無機質な仕組みとは別に、大小様々な別の社会を用意しておくことが、現代を生き抜いていくために必要になるのではないだろうか。
そのような試みを、「社会の複層化」と呼んでみたい。多様な価値観や関係性を内包した小さなシステムを重ねていくことで、社会の厚みを増し、しなやかにしていく。そうすることで、今の資本主義システムそのものも、少しずつ変えていけるのかもしれない。
本連載では、建築という営みが社会の複層化にどのように寄与できるのか、具体的な事例を織り交ぜながら考えていく。荒れた世界を少しでもやわらかく、生きやすい場所へと近づけるために。

経済圏の創出

利潤の追求を優先し、格差を拡大させている現行の資本主義を安易に否定するだけでは何も変わらない。資本主義の外部を志向する動きは過去に何度も繰り返されてきたが、持続し、社会に広がりを見せた例は決して多くない。むしろ、私たちがすべきことは、その性質とルールを熟知したうえで、内側から資本主義を変質させることだ。それは、現在支配的な価値観やルールとは異なる原理をもち込み、大小様々な実践=別のレイヤーを積み重ねることで可能になる。それが「社会の複層化」である。
本連載では、社会を複層化していくために建築がどのように寄与できるのか、その可能性を探っている。そして、そのためにはこれまでの建築の考え方を部分的に更新する必要がある。今回、鍵となるのは「経済圏」「プラットフォーム」「プロトタイプ」である。

社会の複層化とは、市場のメカニズムに従属し依存するのではなく、別の〈もの・人・資本〉の循環をつくり、コミュニケーション、コミュニティ、経済圏を重層的に形成していくことを意味する。本ウェブサイトで論じてきた「微圏経済」はそのモデルのひとつだ(★1)。巨大な資本主義システムへの依存を弱める別の社会的レイヤーであり、身の回りの資源との関係を再編集し、DIY的に構築する経済、そしてそれが基盤となって生まれる圏域のことである。微圏経済は社会を複層化し、空間のあり方を変え、新たな建築やデザインを成立させる前提条件となる。そこでは、建築は単に空間を創出する行為ではなく、人、資源、情報を関係づけ、循環させる実践になりうる。建築によって経済圏を創出するというのは唐突に聞こえるかもしれない。しかし、その萌芽は既に様々なかたちで私たちの前に現れ始めている。

マテリアルを循環させるプラットフォーム

あれは2012年だった。オンラインマガジン「Dezeen」を何気なく見ていてふと目についたのは、ベルギー・ゲントの港にある砂利の採取場を改修した展示スペースのプロジェクトだ(★2)。改修といっても、実際には壁や床を白く塗装しただけであり、技術的に際立ったことは何もしていない。しかし、既存建物の壁の痕跡、コンクリート打設の継ぎ目、壁の落書きなどは塗装されずそのままの状態で「保存」されており、塗装された真っ白な領域と既存の生々しさが残った領域の強いコントラストがまず印象的であった。そして何よりもプロジェクトを実施した建築家の目の前にある事物を読みとる解像度の高さに驚かされた。それがリユースを先進的に建築領域に広めてきたロター(Rotor)という建築コレクティブだった。数年後、彼らにはもうひとつ別の顔があることを知り、もう一度出会い直すことになる。
ロターは建築設計事務所としての顔をもちつつ、もうひとつ、Rotor Deconstructionという、廃材となってしまう建築部品を回収し販売するという組合組織としての顔ももっている。一方では、回収した素材に新たな役割を与え市場に再投入するということを行い、もう一方では建築プロジェクトや美術館などのアート領域において、ストックした有限のマテリアルや部品を使ってリノベーションやインスタレーションを行っている。オフィスで使われていたラジエーターのカバーでパーティションをつくったり、別の場所で使われていた木材で収納キャビネットを制作したり、様々な場所から回収した窓サッシを使ってファサードを構成したり、各材料の独自の形状、質感、数量を手がかりにプロジェクトの特殊性と手元にある材料の有限性の組み合わせのなかから独創性のある仕事を展開している(★3)。
ロターのこの活動の二層性は、社会を複層化していく方法として興味深い。マテリアルの循環や再利用は、様々な現場で単独のプロジェクトとして試みられるようにはなってきたが、ロターの特筆すべき点は、それを10年以上も前から行ってきたことと、プラットフォームをつくり、実際に事業として運営してきたという点にある。さらには、「Opalis」というリユース材を扱う企業を掲載したデータベースをつくったり、政策提言によって制度改革を図るなど、一貫して個別のデザインワークと汎用的な仕組みの構築を並走して行ってきた。
プラットフォームの運営と、個別プロジェクトの実践という二層性は、長野県諏訪市を拠点とするReBuilding Center JAPAN(リビセン)にも共通して見られる。リビセンは「地域資源のリユースカンパニー」として古道具・古材の回収と販売を行いながら、それらの材を実際に自分たちで使いながら空き家を再生したり店舗デザインを行っている。ロターがEU圏を含め広域に活動を展開しているのに対して、諏訪というエリアの中で集中的に活動を展開していることなど、拠点やエリアに対する認識の違いはあれど、自らの運営するプラットフォームによって物・人・資本の循環を生み、そこからプロジェクトを生み出し、プラットフォーム上で循環するマテリアルの有限性のもとでデザインワークが行われているという点で両者の有するアプローチは極めて近い。
このように建築家やデザイナーが事業やサービスをプラットフォームとして運営し、それを基盤としてプロジェクトや作品を制作するという創作モデルが近年徐々に増えつつある。例えば、東京R不動産やTOOLBOX、筆者が取り組んできた「モクチンレシピ」なども似た性質をもっている(★4)。
サービスや事業のプラットフォームを生み出すことは、建築の創造においても有効な手立てとなりつつある。それは既存の社会とは異なる現実を立ち上げ、社会のなかに新たな回路を定着させることを可能にする。単発的なプロジェクトやクライアントワークでは、そうしたことはできない。とりわけ資材の循環は、社会の持続性を問い直すという意味で、新たな価値や認識を提示する建築作品の水準においても、多くの人々がそうした実践に集合的に参加できるようにするための市場の水準においても、デザインと介入が不可欠な領域である。
リビセンを主宰する東野唯史はインタビューにおいて、古材を扱う事業は大きな利益には直結しないものの、ウッドショックのような外部的変動の影響を受けにくく、地域に根ざしながら活動を持続させ、自立的に暮らすことを可能にすると述べている点は示唆的である(★5)。プラットフォームをつくることは、建築家やデザイナーが大切にしたい思いや価値観の発露を制限されるジレンマから解放される可能性を開く。さらに、それは自身の仕事を主体的に選び取るための経済的基盤ともなり得るのである。

モデルを普及するプロトタイプの夢

視点を変えてみよう。社会変革に建築家が関与する方法として「プロトタイプ」を提示することは、長らく重要な手法であり続けた。モダニズム建築のスタンダードを示したル・コルビュジエの「ドミノ・システム」をはじめ、戦後日本社会の構造的変化へ対応するための都市的ヴィジョンを示した東京大学丹下健三研究室による「東京計画1960」やメタボリストたちの一連の提案、公営住宅の標準的な平面型として開発された東京大学吉武研究室による「51C型」など、多くの建築的構想がプロトタイプとして提案されてきた。しかし、21世紀に入り、その捉え方や扱われ方は大きく変容しつつある。
デザイナーのアラスター・パーヴィンを中心に2011年に立ち上げられたイギリス発の「WikiHouse」は、オープンソースの建築システムを開発・展開・普及してきた。今まで住宅やパビリオンなど小規模な建築物が様々な地域で建設され利用されている。WikiHouseは、CNCルーターなどのデジタル工作機器をインフラとして活用しながら、設計データをオンライン上で公開・共有し、ユーザーはデータをダウンロードし、手元の機械で資材をカットし組み立てことで、プラモデルのように建築物を立ち上げることができる。データはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで公開されており、誰もが改変できる。国内でも、VUILDによる「nesting」のように、デジタルファブリケーションの技術を背景に住宅の新たなプロトタイプを提案するなどの動きは色々なかたちで起きている。
ここでも共通するのは、設計や製作に必要な情報、ノウハウ、データを共有するためのウェブ上のプラットフォームを有している点である。すなわち、かつてミース・ファン・デル・ローエがガラスのスカイスクレーパーを示すために描いた「一枚のドローイング」は、いまやデータをアーカイブし共有するための「プラットフォーム」へと移り変わったのだ。そもそもプロトタイプに求められる役割も大きく変わった。経済成長・人口増加を背景として、良質なものを大量に供給するという「量へのアプローチ」から、均質化・画一化していく環境に対して、異なる価値観にもとづく未来を社会のなかに部分的に立ち上げるためのアプローチとして、プロトタイプの目的が変容したと言える。

戦後しばらく、国家を含む公的な枠組みと歩調を合わせることが、建築家がヴィジョンを提示し実現する有効な手段であった。しかしその力は次第に低下し、代わって台頭したのは、新自由主義と市場に呼応する多種多様な経済活動である。そうした営みに加わるか否かは別として、その仕組みを理解しなければ、新しい資源の循環を生み出したり、アイディアを他者と共有し展開していくことはできないだろう。すなわち、建築的な構想力を最大化し具体化するためには、事業的・起業家的な視点が不可欠なのだ。それは建築だけでなく、デザイン領域全般における教育やコミュニティにおいて、長らく欠落してきた視点でもある。こうした認識の転換を促すうえで、「プラットフォーム」への意識を高め、「プロトタイプ」の捉え方を更新することが必要なのではないだろうか。

自発性をもとにした新たな経済圏

事業やサービスを立ち上げることは、資本主義のパワーゲームへ加担することを意味するわけではない。1990年代以降、自発性や善意を基盤とした経済活動が台頭し始めたことに希望の兆しがある。金子郁容、松岡正剛、下河辺淳が示した「ボランタリー経済」は利潤の最大化を目的としない、社会貢献や自己実現を主眼とした経済活動であり、彼らは情報化時代における自発性をもとにした新たな資本の循環が社会に広がっていくことを予見した。実際、この四半世紀、市場や行政では解決が難しかった領域に対し、事業の力によって課題解決を図る社会起業家たちが登場し始め、社会課題の舞台が慈善活動から、持続性とスケール可能性を備えた社会的事業に移行し広まってきたことはその何よりの証左である。また、大澤真幸は、人間社会には、人々が競争・競合する「相剋性」と人々が互いに影響を与え合い高め合う「相乗性」というふたつの性質があることを指摘しつつ、今まで前者が資本主義を駆動していたのに対して、相乗性を基盤とするモデルが出現する可能性があることを指摘している(★6)。
既に資本主義それ自体が、異なる志向性や価値観をもつシステムを内側から多層的につくり出されているのだ。こうした想像力に根ざした経済活動は、各地で着実に広がり、立ち上がりつつある。建築(家)も、こうした想像力をもとにした創作モデルがあるのではないだろうか。そのために小さくても良いから自分なりの創作と経済のプラットフォームをもつことが重要なのかもしれない。
そもそもプラットフォームとは、情報化社会を生き抜くうえで不可欠な概念である。技術革新によって、誰もが仕組みを構築できるようになった。今、私たちの回りには様々なプラットフォームが溢れて、日々の暮らしを支えている。プラットフォームとまったく関わりのない日々はもはや想像すらできない。一方、「GAFAM」に象徴される巨大プラットフォーマーが出現し、私たちをスマホに釘付けにすることで、時間やデータを収益源とする新たな搾取や権力の構造を生み出しているのも事実だ。データやプライバシーの管理、仕組みの維持のために必要な労働やエネルギーに関わる問題も根深い。このように、プラットフォームは新たな搾取の装置にもなり得る一方で、微圏経済を立ち上げるための強力なツールにもなり得る。私たちは、この四半世紀を通して、プラットフォームの二面性を強く認識することとなった。
さて、こうした視座のもとに、新たな〈人・物・資本〉の循環を生み出すことで、街や空間、社会をよりよくするために、どのようなプラットフォームを立ち上げることができるのだろう。その可能性は、既に様々なかたちで出現しているし、新たな挑戦が求められている。

★1──「微圏経済」について書かれた主なものとして、筆者による論考「微圏経済という試み──ぐるぐる資本論序説」座談会「「建築とまちのぐるぐる資本論」から「微圏経済」を考える」を参照されたい。また、山崎亮『面識経済 資本主義社会で人生を愉しむためのコミュニティ論』(光文社、2025年)や、「建築とまちのぐるぐる資本論」での山崎氏との対談「コミュニティデザインから経済を考える」も参照。

★2──Emilie Chalcraft , Grindbakken by Rotor 「Dezeen」、2012年

★3──Rotorについては「建築とまちのぐるぐる資本論」において、本多栄亮「ヨーロッパで進む建築分野のリユース」山田宮土理「マテリアルを循環させるための組織」で触れられている。

★4──モクチンレシピについては、『モクチンメソッド──都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版社、2017年)参照。

★5──ReBuilding Center JAPANについては「建築とまちのぐるぐる資本論」の取材「古材のリユースから地域資源の循環へ」を参照されたい。

★6──金子郁容、松岡正剛、下河辺淳による『ボランタリー経済の誕生: 自発する経済とコミュニティ』(実業之日本社、1998年)、大澤真幸『資本主義の〈その先〉へ』(筑摩書房、2024年)を参照。また、「建築とまちのぐるぐる資本論」からは、大澤真幸氏との対談「相乗的なコミュニティへ──変容しつつある資本主義のなかで」を参照されたい。

サムネイルデザイン:太田知也

連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)

1987年生まれ。建築家、博士(学術)。明治大学専任講師、NPO法人CHAr(旧モクチン企画)代表理事、株式会社@カマタ取締役。
主なプロジェクト=《モクチンレシピ》(CHAr、2012)、《梅森プラットフォーム》(@カマタ、2019)など。主な作品=《2020/はねとくも》(CHAr、2020)、《KOCA》(@カマタ、2019)など。主な著書=『モクチンメソッド──都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版社、2017年)。
http://studiochar.jp

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公開日:2025年11月25日