「微圏経済のつくり方・もち方・描き方」座談会1

「建築とまちのぐるぐる資本論」から「微圏経済」を考える

studio TRUE+建築ダウナーズ+金田ゆりあ+連勇太朗

2023年5月から2025年3月まで約2年間に渡り連載してきた「建築とまちのぐるぐる資本論」から派生した新企画がスタートします。
ディレクションを務めた建築家の連勇太朗さんが、連載の最後に見出した「微圏経済」というヴィジョンを、深く、継続的に考えていくために、より若い世代と1年間かけて連載を進めていきます。
初回は、共同で編集チームを担うstudio TRUE、建築ダウナーズ、金田ゆりあさんと、「建築とまちのぐるぐる資本論」を振り返りながら、建築やまちづくりにおける「微圏経済」の可能性や、自分たちの生き方、働き方と経済の関係性について、さらに、本シリーズのタイトルについて議論が行われました。

左から建築ダウナーズ(千葉大さん、吉川尚哉さん、菊池聡太朗さん)、金田ゆりあさん、studio TRUE(左から寺内玲さん、松岡大雅さん)、連勇太朗さん。

空間・時間・貨幣

連勇太朗:

「建築とまちのぐるぐる資本論」で探求したテーマを一言で言えば、形や視覚的なものに限ったデザインの話ではなく、建築やまちづくりに関わるお金、マテリアル、コミュニティなど、通常は背景にあってあまり語られることない資源や資本の問題を一緒に考えようというものでした。現代の資本主義社会のなかで、ひとりひとりがどのように仕事をし、どう暮らし生きていくか、その戦略自体をデザインすることが今、真に創造的なことではないかとも考えました。2年間の連載では、各地へ行って17本の取材を行い、鼎談3本・対談4本・論考11本を合わせた35本もの記事を発信することができました。それぞれとても素晴らしく、個人的な発見も多く、ときには勇気づけられる内容となりました。
2年間の締めくくりに考えたことを「微圏経済という試み──ぐるぐる資本論序説」という文章にまとめています。今日の座談会、そしてこれからの連載はこのヴィジョンについて深めていくことが目的です。「微圏経済」は、小さく、自律的で、DIY可能な経済圏のことです。個人では到底コントロールできないグローバルな水準で動く金融資本主義や、大資本の論理で動くシステム化された経済モデルとは異なる経済のあり方、そしてそうした経済的循環が生み出す圏域のようなものです。理念的かつ安易に資本主義を否定するのではなく、実践的に考えるために、現行のシステムに対して、別のシステムを複層的につくっておこうという発想がもとになっています。このような小さな経済圏がたくさんあることで、大災害、リーマン・ショック、コロナ禍のような大きな危機の際も、我々ひとりひとりを支えるセーフティネットとして機能し得ると考えています。こういった視座に立ったとき、建築やまちの役割はとても大きいのではないかと気づかされます。取材や議論を通してまさにそうした微圏経済の実現可能性を見てきました。
そこで、これから1年間は、私よりも若い世代と編集チームを組んで、微圏経済についてさらに深く探求し、議論をしていきたいと思っています。まずは、自己紹介からお願いします。

連勇太朗さん。

寺内玲(studio TRUE):

パートナーの松岡大雅とともにstudio TRUEという合同会社を運営しています。建築設計、まちづくり、グラフィックデザイン、『HUMARIZINE』をはじめとしたZINE(ジン)の編集・制作など、多様なデザインを通して循環と共同体をつくることを目指しています。個人としては2025年春から京都工芸繊維大学の博士後期課程に在籍し、東京・狛江市と京都の二拠点で活動しています。

松岡大雅(studio TRUE):

「建築とまちのぐるぐる資本論」では、不動産について度々話題にされていたことが印象的でした。空き家などのストックをうまく利活用した鎌倉・葉山(神奈川県)の「エンジョイワークス」や、松戸(千葉県)の「omusubi不動産」の事例があり、また、「大家の学校」の青木純さん、そのスクール出身である「ニシイケバレイ」の深野弘之さん「ちっちゃい辻堂」の石井光さんのように、まちへの貢献を考えている大家さんたちのお話も良かったです。既存の建築メディアではあまり取り上げられない話題ですが、建築と経済を考えるときには、やはり不動産のあり方も重要だと思います。

studio TRUE(左から寺内玲さん、松岡大雅さん)。

菊池聡太朗(建築ダウナーズ):

僕は、千葉大、吉川尚哉と共に「建築ダウナーズ」というデザインチームとして、仙台市を拠点に、主に展覧会の会場デザインや、そこで使われる什器、また公共施設や個人宅の家具の設計・制作を行っています。3人とも東北大学大学院五十嵐太郎研究室の出身です。数年前までは、それぞれ個人の仕事と並行しながら、プロジェクトがある時のみ活動していましたが、今は仕事が増えてきたので、ほぼ毎日集まって活動しています。
個人としては、風景をテーマにした絵画や空間インスタレーションを制作、展示しています。

千葉大(建築ダウナーズ):

僕は個人の仕事としては、インストーラーとしてアーティストの作品制作の補助や美術館での展示設営をやっています。

吉川尚哉(建築ダウナーズ):

僕はイラストレーターとしても活動しています。建築関係の書籍の挿絵や、せんだいメディアテークの施設見学リーフレットなど、主に建築を主題にしたイラストを描いています。

建築ダウナーズ(左から吉川尚哉さん、千葉大さん、菊池聡太朗さん)。

金田ゆりあ:

私は週3日、リ・パブリックという会社で働き、それ以外はフリーランスのデザインリサーチャーとして活動しています。リ・パブリックでは、「-able city(エイブルシティ)」と題したリサーチを行っていて、「建築とまちのぐるぐる資本論」でも内田友紀さんが論考を書かれていました。内田さんの都市での子育ての話のように、様々なままならなさを抱えながらも、自分らしく生活するためには、ただユーザーとして享受するだけではなく、自ら暮らしをつくっていける実感が重要なのだと思います。

個人的には、特に日々のケアに関心をもっています。鼎談「利他とケアからまちの未来を考える」では、伊藤亜紗さんが、ケア労働が経済格差のもとに玉突き的に別の場所へ移動するグローバル・ケア・チェーンの問題を指摘しています。ケアは、私たち自身が生まれてから老いて死ぬまで関わり続ける長期的なものです。だからこそ、生活をするまちとの関係性や拠り所といった空間が日々のケアにとって重要だと感じています。

金田ゆりあさん。

菊池聡太朗:

僕たちはコロナ禍を一因とするウッドショック以降の2022年から、木材がどこからどのようなプロセスを辿って手元まで来ているのかに関心をもち、宮城県内の林業、加工業、施工などに関わる人たちにインタビューしたり、林業家から直接木材を買って自分たちで運び、加工・制作するという試みも行ったりしています。さらにそうした経験をオープンスタジオというかたちで、まちの方々に公開しています。
木というマテリアルを考えるなかで、時間と空間の問題も考えるようになりました。「孫の代で家を建てられるように植える」と言われますが、木が成長するには数十年という時間がかかります。また、伐ってから使うためには乾燥の時間も必要です。
岡部明子さんへの取材記事「ままならない環境と人間──スラムと茅葺きから考える」にはとても共感しました。かつては地域で手に入る材料を集めて、互いに助け合うことで環境をつくっていましたが、今は基本的にどんなマテリアルや労働力であってもお金さえ払えばすぐ手に入ると思われています。
一方で、例えば生活のなかの様々な場面で使われていた竹が、プラスチックなどの代用品の普及によって使われなくなったことなどを背景に、竹害が全国的に問題になっています。岡部さんは、建築が様々な循環のジェネレーターの役割を担う可能性を示唆されていました。僕たちは宮城県南の丸森町というところに通っていますが、そこでは林業に従事する方々から「木の出口がない」という話をよく聞きます。ある地域内での循環だけではなく、他の様々なまちや人々と材料、経験、労働などを交換していくネットワークの可能性を考えたいです。

吉川尚哉:

時間と空間とお金の表れとしておもしろいと思ったのが、仙台市泉区にある工務店・東建設さんです。広大な敷地内に、伐採・粗挽きされた木材を山のように積んでブルーシートをかけて乾燥させているのですが、郊外で土地がとても広いからこそ、ただ置いたまま待つことが可能になっています。土地に余裕があれば、建材を保管しておいて、都合の良いタイミングで使うことができるわけで、空間的な余白が時間的な猶予を生み、それがお金につながる、というふうに3つが密接に関わっていたのが印象に残っています。

金田ゆりあ:

NIPPONIAの代表・藤原岳史さんの話も思い出されます。現状の借入れから返済までのファイナンスの仕組みでは、100年というスパンで物事を考えられないので、人々が自然に関わり培われてきた景観や文化を孫の世代まで残すべくスキームの構想が大事であると。このような長期的な時間軸で様々な出来事の評価や可能性を考える必要性を感じます。

連勇太朗:

時間とお金の関係、そして空間がその関係に対してどのような影響を与えるのか、より深く考えてみたいトピックですね。例えば不動産で言えば、短期的に10年スパンで投資と回収を考えるのがセオリーであるときに、それを30年、50年、100年に延ばして成立させようとすれば、相当な戦略や、新しい価値観が求められます。現在は、短期的な投資でまちの風景が更新されていっているわけで、それによって空間の均質化が進んでいます。

松岡大雅:

都心からは外れたところにある「SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)」と中村圭佑さんの話も興味深かったです。都市のヴォイドや隙間を見つけアプローチして、ローカルかつ新しい文化を生み出していく一連の活動は刺激的でした。

連勇太朗:

SKACは、中村さんの実績や美学があったうえで、ジェイアール東日本都市開発の理解もあって実現されている稀有な例ですね。東京をはじめとした都市の中心部では家賃が高いので、おもしろいことをやろうとしても事業収支を考えるとなかなか難しいですが、SKACではそれができています。頭を使ってスキームを組み立てれば、まだまだ色々なことができるのだ、と勇気づけられました。
ちなみに、空地や空き家の活用は、地方の方がやりやすいですね。そういう意味でも、地方で起きている尖った事例をもっと知りたいですし、それを都市へとフィードバックしていくことも考えたいです。将来的には東京も人口減少していくことは明らかですから、是非そうした目線で事例をリサーチしてきてください。

千葉大:

建築ダウナーズは仙台の印刷団地の一角の空き工場に作業場を借りています。周囲にも何か良い効果が波及するといいなと思い、印刷の刷り損じで出るやれ紙を活用した再生紙をつくり、什器の仕上げ材として使ってみたり、オープンスタジオやワークショップなどの交流の機会をつくったりすることから始めているところです。

連勇太朗:

松村淳さんの論考では、神戸市兵庫区の廃屋を修復していく「バイソン」が紹介されています。神戸という大都市の周縁で起きていることですが、同じようなことが仙台でも成立し得るのではないかと思いました。
個人的なことですが、最近鎌倉の古いお屋敷に引っ越しました。敷地面積が800平米あってその広さによる生活のバリエーションや、周りに土があることに可能性を感じています。以前のマンション暮らしではなかった想像力がどんどん湧き上がってきますし、空間によって想像力や時間の捉え方自体も変わるということを日々経験中です。
微圏経済を考えるうえで、空間のスケールや広がり、ネットワーク、時間との関係はキーになると思います。

働くことと生きることの距離

千葉大:

普段は1日いくらで何日間働くという人工を計算して見積りを出し、事前に計画を立てて仕事をしていますが、つくりたいものへの欲求と、日々の労働、お金の関係についても考えさせられています。長坂常さんの話のなかに出てきた、日本では価値のない古材を価値観の異なる海外に運ぶことで職人さんの人工を捻出する「DEKASEGI(出稼ぎ)」はとても興味深かったです。「お金を材料として捉える」という話もありましたね。

菊池聡太朗:

手刻みで伝統工法の家をつくっている南三陸町の大工・杉原敬さんと話をしていると、300年ほど前は貨幣よりも具体的な労働力のほうが価値があったのではないか、と言います。また、働きを通してつながりが生まれ、家をつくることは祝祭であったと。今でも、杉原さんは前につくった家のお施主さんや興味がある人たちに参加してもらいながら竹小舞の壁などをつくっています。お金を支払うかわりに、楽しい時間と場所、そしてある種の協働性を提供していて、それは価値の交換です。素人でも参加できる人工の計算には乗らない楽しい施工で、彼はそれをみんなが共有できる「道楽」と言い表していました。

連勇太朗:

今、改めて、日々の暮らしと働き方をどのようにしていくと良いのか考えてみたいですね。建築設計の領域でも、施工費に対して割合で設計料をもらい、スタッフを雇って朝から終電まで働くという従来のあり方とは異なる方法を模索している事務所は少なくありません。例えば、能作淳平さんは、クライアントに呼ばれて都心に通うのではなく、東京・国立で「富士見台トンネル」を運営し、収入源を分散させながら、働くことと生きることを近づけています。
「建築とまちのぐるぐる資本論」で取材してきた方々は、楽しそう、幸福そうに見えるという点で共通していました。お金のことを真剣に考えながらも、実はお金は二の次で、それが幸福なのではないかと感じました。取材を通して、私自身の仕事や生活にも影響がありました。

寺内玲:

私たちがまちづくりに関わる狛江市は典型的なベッドタウンです。そこに暮らす普通の人々の生活のなかで、どうすればまちのことを考えたり、活動に参加する時間を確保してもらえるかを考えています。例えば子育て世代はなかなかそうした活動に参加する時間がないのが現実です。木材流通の話も、生産される上流と日常生活には落差がありますね。それらをつなぐ仕組みのデザインが重要だと思います。

連勇太朗:

働く場所と住む場所が離れていて往復の通勤で2時間かかっていたら、なかなか原資となる時間が工面できませんね。多くの人が抱えている問題ですが、そういう人たちも勇気づけられる連載になると良いですね。

松岡大雅:

ReBuilding Center JAPANによる、長野県諏訪エリアでの古材・古道具のリユース、販売事業が紹介されていますが、持続的なビジネス、民間の力で広がりが生まれていてとても素晴らしいと思います。一方で、それは代表の東野唯史さんや東野華南子さんたちの能力によるところが大きいと思いますし、能作淳平さんや宮崎晃吉さんにしても、やはり人柄の良さやプレゼンテーションの巧みをもった方々で、なかなか模倣できないでしょう。
もちろん属人的な経済圏というおもしろさがあるのは事実です。しかしながら、まちには、コミュニケーションが上手にできなくても、特別なスキルがなくても、何らかの貢献をしたいと思っている人は多くいます。個人の能力や民間の力だけではなく、政策デザインによって掬い上げるというような可能性も考えてみたいです。

連勇太朗:

本多栄亮さんの論考では、ヨーロッパの建材リユースのための制度や支援について書いていただきましたし、山田宮土理さんの論考では、実践的な事業と公的な補助金を受けて行う非営利の研究・教育活動を両立させる組織のあり方について書いていただきました。
公共哲学などを専門とする玉出慎太郎さんが、例えば車の自動運転技術や、消費主義的なSDGsなど、世の改善を目指すシステムの設計を「倫理のアウトソーシング」と呼び、個人の生き方や倫理を問わないことでもあるのではないかと疑問を呈しています(★1)。また、環境管理型権力の議論も思い起こします。日本でどのような可能性があるのか、連載のなかで是非探求してください。

連載タイトルについて

連勇太朗:

さて、この連載のタイトルについて考えてみたいと思います。大澤真幸さんの「僕らの生活全体は資本主義という大きな枠組みの内側にあって、個々人が小さな実践をやっているように思われるかもしれませんが、そうではなく、ふと気がつけば枠組みが反転してむしろ資本主義が部分になっている、というようなヴィジョンをもって仕事をすることが大事だと思います」という言葉は大変印象的でした。
私は、かねてより「社会を複層化」を提言してきました(★2)。小さくてもいいので強固にシステム化された社会とは別のレイヤーをたくさん用意しておこうという考え方です。それは例えば小規模な事業、コミュニティやファンの可能性もありますし、家族や近隣との関係性も含まれます。イタリアのデザイン研究者であるエツィオ・マンズィーニは、「Design in a changing, connected world」という論文で、現代社会は情報化技術もあり世界がつながり合っているので、小さな実践(悪いものも同様ですが)が系全体に影響を与え得るということを言っています。つまり、小さな実践の積み重ねによって社会のレイヤーをたくさんつくっていくという集合的取り組み自体が、社会を変える原動力になるということですね。タイトルに「つくり方」というワードは入れておきたいと思います。

金田ゆりあ:

勤務先と家以外の拠り所があることで、何かトラブルがあったときに違う選択肢が浮かんできますよね。盤石なひとつの拠り所があるよりも、ひとつひとつは小さくても、複数の選択肢があることが安定をもたらすと思います。当事者研究でも知られている熊谷晋一郎さんが「一つのケアに依存するのではなく、広く薄くたくさんのものにケアをしてもらうという関係が自立なのではないか」というようなお話をされていたのを思い出します(★3)。

菊池聡太朗:

仕事の面でも、複数のチャンネルをもっていることはメンタルとしても健全だと感じています。僕たちが通っている丸森町の自伐型林業家の方も、基本的に兼業ですし、林業家としては木を伐って出す仕事とともに、森林を研修や交流の場としても活用しながら山をケアしています。またチップや建材だけではなく、薪やこけしなど複数の出口を模索している途中だそうで、土地に軸足を置きながらも、生業としてひとつの選択肢にとらわれない軽やかさを感じています。

吉川尚哉:

微圏経済という言葉には、都市や自治体のような大きな経済圏ではなく小さな泡のようなものがいくつも重なりながら、生まれたり動いたりしているイメージをもちました。山崎亮さんが、①見ず知らずの人とお金を介してやり取りする経済、②面識がある人とお金も含むやり取りをする経済、③家族や近隣でのお金を介さない行為や物々交換による経済の3つに分類し、①をなるべく減らし、②と③のコミュニティをつくることを提案していましたが、それは、たとえ場所を運営するなどの空間的な取り組みは難しくても、一生活者としての我々自身が日々の選択に取り入れることができるという意味で、すごく開かれた実践ですよね。

金田ゆりあ:

私自身も週3日会社員をしながら、今、住んでいるまちに関わろうとしていて、まさに微圏経済を探しているさなかです。
微圏経済は、圏という言葉が入っているように、つくることだけではなく既にある組織に参加することで、「もつこと」も可能だと思います。これは、路上園芸の鉢植えや園芸コミュニティが派生していくイメージに近いと思いました。鉢植えの木や植物は、容易に動かしたり、株分けによって増やしたり、交換や分け与えることもできます。ひとつの鉢が重要なのではなく、少しは減っても大丈夫という感覚も微圏経済のあり方として良いなと思います。

松岡大雅:

微圏経済をもつというのは、単に複数の財布をもつという意味だけではなく、交換のための複数のネットワークをもつということだと思います。資本主義経済に掴まれてしまっている私たちのライフスタイルも、微圏経済をもつことで徐々に解放されていくのかもしれません。
微圏経済というヴィジョンには、これからの社会を考えるためのヒントがあると感じています。思い起こすのは、生産様式ではなく交換様式から歴史の変遷を見てきた柄谷行人です。柄谷は交換様式を、A=互酬(贈与と返礼)、B=服従と保護(略取と再分配)、C=商品交換(貨幣と商品)、D=Aの高次元での回復、という4つに分類していて、現在の民主主義と資本主義が合わさった社会ではBとCが支配的だと書いています(★4)。今、僕らが生きているこの社会のオルタナティブを模索するときに、BとCに対抗するような実践を見出していくことが必要だと思います。それは柄谷の言う「高次元での回復」につながるかどうかはわかりませんが、微圏経済を考えていくことは、社会変革への想像力を育むことになると思います。

連勇太朗:

微圏経済を「もつ」というのはおもしろい視点で良いですね。もうひとつ私が大事だと思っているのは「描き方」です。今の建築やまちづくりのプロジェクトとしておもしろいものは、例えばそれまでの地域での長い時間や文脈があって建築が実現したものとか、クライアントのヴィジョンに形が与えられたとか、デザインプロセスに様々なアクターが協働して生まれたとか、あるいは完成した後の運営まで含めて連続していることとか、建築家以外の力や文脈に依るところも大きいのではないかと考えています。ところが、それを建築家やデザイナーが語るとき、メディア上で表現するときに、個人の能力や建築単体のデザインだけが表立って見えてしまうことには常々疑問を感じてきました。一方で、過小評価も良くない。しっかりと建築家の取り組みとして評価されるべきところは評価され、批評されることが大切です。ただ、私たちはまだ、そうした多様な主体が協働したプロジェクトの表現方法や語り方を十分にもっていないのだと思います。そういう意味でも、プロジェクトをどう描くか、文章やビジュアルなどでいかに表していくのか、その表現の方法も編集チームである皆さんには考えてほしいと思います。以上を踏まえて、連載のタイトルは「微圏経済のつくり方・もち方・描き方」でいきましょう。

★1──玉手慎太郎「強い制度志向と倫理のアウトソーシング」、『現代思想』2023年1月号、青土社、pp.8-16
★2──連勇太朗「住まいとセーフティネット──複層化する社会を生きる」

https://www.biz-lixil.com/column/urban_development/sh_review002/

★3──熊谷晋一郎、大澤真幸、上野千鶴子、鷲田清一、信田さよ子『ひとりで苦しまないための「痛みの哲学」』(青土社、2013年)

★4──柄谷行人『力と交換様式』(岩波書店、2022年)

文責・撮影:富井雄太郎(millegraph)
サムネイル画像イラスト:荒牧悠
[2025年6月26日 NPO法人CHArにて]

studio TRUE

寺内玲と松岡大雅によって2023年に設立。 デザインを通して共同体と循環をつくることを掲げ、建築・都市のリサーチデザインや自費出版、サーキュラーデザインやキュレーションなど多岐にわたる活動を展開。

建築ダウナーズ

東北大学大学院都市・建築学専攻の同期、菊池聡太朗、千葉大、吉川尚哉によるデザインチーム。展示空間の什器や家具の設計・制作のほか、近年は林業と建築のつながりに関するリサーチを行う。在学中より展示デザインなどに携わり、大学院を修了した2019年に結成。

金田ゆりあ

1994年鹿児島生まれ。2018年慶應義塾大学総合政策学部卒業。2024年より株式会社リ・パブリックに所属しながら、フリーのデザインリサーチャーとしても活動。

連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)

1987年生まれ。建築家、博士(学術)。明治大学専任講師、NPO法人CHAr(旧モクチン企画)代表理事、株式会社@カマタ取締役。
主なプロジェクト=《モクチンレシピ》(CHAr、2012)、《梅森プラットフォーム》(@カマタ、2019)など。主な作品=《2020/はねとくも》(CHAr、2020)、《KOCA》(@カマタ、2019)など。主な著書=『モクチンメソッド──都市を変える木賃アパート改修戦略』(学芸出版社、2017年)。
http://studiochar.jp

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公開日:2025年07月28日