住宅をエレメントから考える(前編)

床にまつわる8つのフレーズ

塩崎太伸(建築家)

『新建築住宅特集』2016年3月号 掲載

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番外編 床図面表現の変化

戦後から1960年代の床図面表現──具体的/添景情報多

戦後から高度成長期における住宅大量供給の過程で、必要最低限の用途を最小面積の床にいかに組み込むかが最小限住宅として試みられ、後に公団やハウスメーカーのnLDKシステムを生んだ。 そうした時代の図面は、フローリング張りなどの床仕上げや調度品としての家具の配置が具体性をもって詳細に描き込まれ、窓枠のディテール表現も具体的である。さまざまなスケールで何をどこに配するかといったプラグマティックな対応と、高度成長期のモノへの肉迫した執着が感じられる。 また、小津安二郎の映画のように日本人の視線の高さへのこだわりは、床に座るという慣習が影響しており、ユカ座とイス座の生活様式の混合や食寝分離も図面表現と無関係ではないだろう。

50坪の木造住宅(吉村順三1959年)
住宅No.28(池辺暘 1955年)

1970?80年代の床図面表現──抽象的/添景情報少

機能の配列と住宅の形式への建築家の冒険は、未だ知らない空間的慣習に向けられる。世界各地の集落調査や新しい家族像が探求され、そこから建築の新しい形式が模索された。つまり使用者が図式化され、図式的な空間形式が開発され、図面表現も図式化され、幾何学的表現へと向かった。室内の家具は極力記入が避けられ、描かれる際も記号化される。記号論が流行し、素材のもつ意味が漂白されたドライな建築表現が抽象的図面表現と一致した。一方、建築家の内的な情念の空間表現は、図面というより図画作品として制作された。

山川山荘(山本理顕 1978年)
中野本町の家(伊東豊雄 1976年)

1990 ?2010年代の床図面表現──抽象的/添景情報多

図面は手描きからCADへと代わり、正確で均質な細さの線による抽象性が加速する。マットレイアウトな空間形式の追求や、美術分野でのスーパーフラットムーブメントがCADのコピーペーストツールと非常に相性がよかったといえる。 AmazonやIKEAに代表される大量商品のストック大空間、Googleのデータセンターなど大量の情報をフラットにさばく時代に、住宅においては、室内にあふれる豊かでカワイイモノたちの粒立ちに改めて注目が集まる。その結果これまで図面に描かれなかったようなテーブルの上に置かれた本やコップやフライパンなどが建築の表現と等価に図面の中にあふれ出す。

森山邸(西沢立衛 2006年)
House h(石上純也)

補足:平面図と床伏図──抽象空間の投象としての平面図と具象面の記述としての床伏図

ここまで床の図面表現として平面図をクロニクルに見てきたが、実際には平面図を床の図面というのは正確とはいえない。確かに平面図には床が描かれているが、実際はテーブルの下部など描かれない床が生じてしまうからだ。 篠原一男は平面図と別に必ず床伏図を描いた建築家である。一般に床伏図は平面図と内容がほとんど重なることから意匠の実施図面においては省略されることが多い。しかしその図面の対比的意味はそのまま抽象と具象に置き換えられ得るのではないか。時代を通じて抽象図面表現を追求した篠原が床伏図を必要とした理由はそこにあるかもしれない。

上原通りの住宅 平面図(篠原一男 1976年)*<*提供:塩崎太伸>
床伏図*

編集協力・文(作品解説除く):塩崎太伸  資料収集:小林佐絵子 中村義人 竹村優里佳 塩崎太伸
特記なき写真撮影/新建築社写真部

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公開日:2016年06月30日

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