プレミスト有明ガーデンズ × LIXIL

普段の暮らしを楽しむ“大きな家”のような集合住宅

光井純、安部絵理香(光井純&アソシエーツ建築設計事務所)

超大判のタイルでデザインした落ち着きあるアプローチ

グラディオスが貼られたアプローチ

グラディオスが貼られたアプローチ。入口は住居棟とは別の建物としてつくった。住居棟のエントランスに向かって徐々に天高が低くなっていく仕掛けになっている

——アプローチにはLIXILの大形・薄型セラミックス「グラディオス」が採用されています。

光井氏:住居棟はとても大きな建物です。デザインの考え方になりますが、大きな建物は遠くから見た場合、分節が無いと圧迫感が出てきてしまいます。だから、大きな建物は小さな材料を用いて細かくつくる。それに対して入口は小さいので、少しスケールアウトさせる。小さいものこそ大きく捉える空間にすると迫力が出ますね。

安部氏:形や素材に集中できるように、ここではあえていろいろやらないようにしました。彫刻のように、素材を活かすイメージです。

光井氏:いじらずにドンとつくる。それもあって、タイルも小さい細かいものではなくて、LIXILのグラディオスが合ったのだと思います。

安部氏:先ほど共用部で天高の話をしましたが1階は天高が低くなっています。やはりマンションなので共用部で、多少箔が付くような雰囲気が欲しいというお話がクライアントさんからありました。それならと別棟で入口をつくって(以下アプローチ棟)、アプローチを進むと徐々に家に帰ってきたような感覚になる落ち着いた空間をつくろうと考えました。アプローチ棟入口の高さは約4mで建物の中で一番天高があり、建物のエントランスへ進むにつれてほら貝みたいに段々と天井が低くなっていきます。アプローチ棟の空間はしっかり威厳のある空間にしたかったので、ビシッと大きな、細々しない素材を使ってスケール感を出そうと考えました。普通の大きさではない3000×1000(mm)もある大判のタイルということでLIXILのグラディオスを採用しました。住居棟は色彩として白を取り入れているので比較的明るめですが、アプローチ棟は夜も昼も緑を映えさせることができるように、比較的落ちつたモカ色にして本物の土のような風合いを演出しています。

アプローチに表現されたフレーム

アプローチに表現されたフレーム。落ち着いた色合いのグラディオスが額縁として緑の風景を際立たせる

光井氏:アプローチ棟は大きな庇をかけ、壁の一部を開けて自然光が注ぐ窓のようにし、フレーミング効果を演出しています。壁の色が白だとそちらが目立ってしまう。やはり、フレーミングの方が脇役で切り取った絵が主役ですので、濃い土色だと一番緑が映える。夜になるとライトアップして光があるので全く違った雰囲気ですが、昼間はやはり抑えた落ち着きある空間としてアプローチ棟に入っていき住居棟を目指す演出になっています。このアプローチ棟部分と住居棟部分はコントラストがついていて、そこも面白いと思います。別世界に入っていく感じです。天井がだんだん低くなり、先に行くほど遠くに見える。パースペクティブ(遠近法)の効いたアプローチ空間を抜けるとエントランスに入るという仕掛けですね。

安部氏:私自身、グラディオスを扱うのは初めてでした。「こんなに薄い大判のタイルを使ったことがない」と当初は施工業者さんもかなり心配されました。見た目からそういうイメージを持ってしまいがちですが、手順に沿った施工方法を皆で共有し、採用に至りました。きちんと手順に沿って施工すれば割れることはありませんし、貼った後は丈夫です。
実際、使ってみたらとても綺麗に貼れるし、目地が少なくて済み、汚れたりしないのでとても使いやすいです。例えば、目地があると、サインをつくる時にどこにつけるかという問題が出てきます。グラディオスは面が広いので、とても綺麗にサインを設置できるのも良い点のひとつです。穴開けできるか心配でしたが、その点も問題ありませんでした。

光井氏:落ち着いていて自然の風合いもあって、素材感がいいですよね。なかなか良くできていると思います。パターンの繰り返しもほとんど分からない。以前聞いた話では、約50m角でひとつのパターンにカットしているのでリピートを見るためには50m離れないと見えない。そうなるとそれはもうパターンが無いのと同じ。通常の2丁掛けなどのプレスしたタイルは、繰り返しが見えてきてしまいます。グラディオスはそれが出ない。優れものですよね。

安部氏:このサイズを石でやろうとしても難しいです。こういう見え方にできるのは、大判のグラディオスならではだと感じています。

光井氏:だから、石をイミテーションしてつくったものという扱いをすると駄目でしょう。石を真似るとどこまでいっても模造品でしかない。新しい材料だと思って使わないといけませんね。全く違う、新しい概念で使うという点はデザイナーの仕事だと思います。

3000×1000mmのグラディオスはシームレスなデザイン

3000×1000mmのグラディオスはシームレスなデザインが特徴のひとつ。硬質感のあるプリント模様に細いラインの金属は相性が良くサインが映える

——タイルならではの空間を表現できるとお考えですか。

安部氏:タイルって楽しいですよね。私が最初に建築を始めた頃は、タイルは貼っていくものというイメージがあったのですが、建材としての振れ幅が非常にある。これまでも弊社を担当してくださっているLIXILの斎藤徳久さんを通してさまざまなタイルの試作をする中で、釉薬、形状、色合い、面状の表情、いろいろな形に変化できることがとても面白かったです。

光井氏:タイルは織物みたいで、とても好きな素材です。錦織や西陣織は糸を交ぜ合わせて多様なパターンができる。近くで見ると一本一本の糸が分かって、その一本の糸ですらさまざまな表情があります。全体で見るとある姿が見えてきて、近くからでも遠くからでもそれぞれの距離感でいろいろな見え方をする。こういった見え方をする材料というのは素晴らしいと思います。塗装だと近くても遠くても同じで変わらないけれど、タイルだと釉薬が掛けてあれば近くで見ると焼き物なので焼きムラが微妙に出たりしますよね。茶碗を見る時と同じです。それが引いて全体像になるとまた別の見え方をします。
時々、無理を言ってタイルの貼り方を一枚一枚組み合わせて変えることがあります。30cm角だったら、その中にパターンを4つ程つくっておいて、何番と何番を入れ替えながら組み合わせると、全体的にある新しいパターンが表現できる。そうすると本当に面白い。織物ですよね。それは石でも他の材料でも難しい。タイルにしかできないかけがえのない工芸品のようで、タイル文化は素晴らしいと思います。
例えば、スペインのタイル文化。ガウディもそうですがマヨルカタイルなどで壁全面にパターンをモザイクのようにつくっていきます。そうすると大変豊かな感じがして、ここでしか見られない建物ができあがります。
大きさによってもいろいろな表情が出てくる。グラディオスのように厚さが3.5mmや6mmだと軽くなるので乾式でも引っ掛けやすくなり使い方に幅が出ます。デザイナーとしては材料の使い方を極限まで突き詰めていかないといけないでしょう。そうすれば、新しい表現が生まれるかもしれません。

3000×1000mmのサイズに6mmという薄さのタイルだからこそ実現可能なスケール感

3000×1000mmのサイズに6mmという薄さのタイルだからこそ実現可能なスケール感。表面の模様は最先端技術でデジタルプリントされていて、自然な風合いが表現できている

建材として新しい可能性を秘めているタイル

——設計者が求めるタイルとは、どのようなものでしょうか。

光井氏:難しいと思いますが理想を言えば、タイルを曲げて施工できるとよりスムーズに仕上げられると考えています。多用している金属板は塗装になるので表情が無くなってしまうのに対し、タイルの場合は焼き物なのでひとつ一つに表情があり、その点は理想的です。ただ、金属と比べると曲げられないため、取り付けが難しくなります。金属は曲げてビス留めできますが、タイルはできません。下地をつくってダボ穴つけて引っ張ってと、タイルは取り付けで費用が掛かってくる。工法的な問題かもしれませんがスッといかない印象です。しかしながら、つい最近まではグラディオスみたいに厚さ3.5mmで3000×1000(mm)の大きさのタイルなんて見たこともなかったので、何か他にもいろいろできるのではないかと可能性を感じています。そうすると、金属でも石でもできない新しい表現が見えてくる。例えば、玉虫厨子(たまむしのずし)のように、見る角度によって表面にモアレが出るようなラメタイルやラスタータイルがありますね。漆っぽい表面のレイヤーが見えるような、そんなタイルがあったら面白いと思います。

安部氏:京都悠洛ホテル二条城別邸 Mギャラリーで使用したタイルも、私たちはできるかどうか分からないけれどもLIXILの斎藤さんに、「こういうのできませんか」と相談したら「ちょっと考えます」と言ってくださって。頂いたサンプルは頭の中で浮かんだものとは違いましたが、逆にこんなこともできると知りました。「じゃあ、これもできますか」と、どんどん挑戦的なボールを投げていって、結果的に綺麗なタイルが完成しました。半分だけ釉薬が掛かったグラデーションぽい、ひとつしか釉薬を使っていないのに3色位使ったように見える個性的なタイルです。最終品以外にも、プロセスの中で生まれた試作品に素敵なタイルがあって、採用にはなりませんでしたが机の引き出しに大切にしまってあります。

大型モニターに資料を映し、お話される光井氏
大型モニターに資料を映し、お話される光井氏

光井氏:タイルは焼き物で、高温で焼いているので風化もしないし色も変わらない。基本的に高い性能があって、塗装と違い、ノーメンテナンスだと考えれば、そこは変える必要はないと思います。フランスの作家ジュール・ヴェルヌの言葉で「頭で描がければ、できないものはない」とありますからね。イメージできれば何でもできる。そのうえで、後は表現の問題なのでどうやって使いたいかです。他の材料でできないことができると、石や金属板などでは取って代わられなくなります。今後もタイルの新しい使い方をどんどん模索していっていただきたいです。

このコラムの関連キーワード

公開日:2021年08月25日