ウェルビーイングとパブリックトイレに関する座談会

職場のトイレの快適性が人々を幸福感へと導く

上田雅夫(横浜市立大学教授)×西井正造(横浜市立大学助教)×石原雄太(LIXIL)×幸田織音(LIXIL)

職場のトイレの満足感が仕事の満足感に影響を与える

石原氏:

続いて、トイレの満足度が幸福感に繋がっていくことについて、感想をお願いします。

上田氏:

その点については、実感として非常によく理解できます。以前、職場のトイレが汚くて落ち着かず、気分の切り替えができないどころか暗い気分になった経験があります。落ち着ける場所の有無は、疲労感に大きく影響すると感じます。

西井氏:

職場のトイレが幸福感にまで影響するとは、正直想定していませんでした。特に面白かったのは、男女で分析を分けたことで、ニーズの違いが明確になったことです。男性は女性トイレを詳しく知りませんが、改修にあたっても男女で別個に考える必要があるという点は大きな発見でした。

石原氏:

男女でアプローチを分けるべき、ということですね。

西井氏:

その必要性を強く感じました。

石原氏:

私たちはこれまでの調査で男女のニーズの違いを見てきたので新鮮さは薄かったのですが、今回の分析で改めてランキングなどを見ると、新たな発見がありました。感覚的な部分と、機能的な部分の違いですね。

西井氏:

男性は機能性を重視する傾向があり、他の分野ともリンクしていて納得感があります。

公立大学法人横浜市立大学
先端医科学研究センター 助教
西井 正造氏
株式会社LIXIL
LIXIL Water Technology Japan
スペースプランニンググループ
石原 雄太氏

石原氏:

男女それぞれの意見を丁寧に汲み取らないと、真実がぼやけてしまうということが今回改めて示唆されましたね。ところで、今回分析を担当した上田先生のゼミの学生さんたちからは、どのような感想がありましたか?

上田氏:

シャワートイレ(温水洗浄便座)に対して、男性は評価が高い一方で、女子学生からは「公共の場での使用は、衛生面で少し抵抗感がある」という声がありました。

西井氏:

私は積極的に使っています(笑)。そのおかげで体調も良いのだと思っています。ただ、自宅のシャワートイレが2年ほど前から不調で買い替えたいのですが、家族からは「別に使わないからいい」と多数決で負けてしまい、なかなか修理できません。妻からは工事の立ち会いも面倒だと言われ……なので、職場では「待ってました」とばかりに愛用しています。

石原氏:

なるほど(笑)。それほど好みが分かれるのですね。男性同士だとシャワートイレの話で盛り上がりますが、女性メンバーではそうした場面はなさそうです。女性にも、その良さを知ってもらうために提案していかなければなりませんね。

西井氏:

男女でこれほど差が出るのは本当に面白いですね。

調査から見えてきた男女で異なるニーズ

石原氏:

女性の立場として、今回の調査結果をどう感じましたか?

株式会社LIXIL
LIXIL Water Technology Japan
商品戦略グループ
幸田 織音氏

幸田氏:

やはり、荷物置き場や上着を掛ける場所については、女性は必ず個室を使うので切実な問題です。「フックが高くて手が届かない」というのも本当に“あるある”です。冬場は、コートを着たまま便座に座ると裾が気になりますし、頻繁に洗濯できないので衛生面も気になります。面倒で脱がない人もいると思いますが、ちゃんと掛ける場所や、脱ぐためのスペースに余裕があれば利用すると思います。あと、男性の1位が 「におい」だったのは意外でした。(図2

上田氏:

それは確かにあるかもしれません。職場で聞いたところでは、男性は個室をあまり使わず、水を流さない時間が長いために臭いが着きやすいという意見がありました。

石原氏:

小便器での“尿ハネ”も大きな原因です。尿ハネが体だけでなく床にも飛散し、それが臭いになります。また、最近の設備は自動洗浄もありますが、小便器は尿を広い面で受けるため、臭いが定着しやすい。女性が男性トイレに入ると「くさい」と感じるのはそのためでしょう。この結果は、当然だと思います。

上田氏:

個人的に納得したのは室温です。女性は冷え性の方が多いので敏感なのでしょうね。実は自宅の便座温度がいつも高めで、私はそれが苦手なのですが温度を下げると妻にひどく怒られます。今、話を伺って、それだけ切実な要素なのだと納得しました。

西井氏:

男女でこれほどはっきりと要素が分かれるのは、見ていて清々しいですね。それぞれの意見を個別に聞くことの重要性がよく分かります。一括りにまとめてしまうと、実際のポイントが見えなくなってしまいますね。

上田氏:

平均化すると中間的な結果しか出ませんから。コートフックの話も良い例です。男性が設計すると高い位置に設置しがちです。

西井氏:

言われて初めて気づくようなことでした。今なら「スマホの置き場所」もニーズがありそうですね。先日の新幹線でも、器用にスマホを片手で持って小便器を使っている人がいました(笑)。今回の調査ではスマホは「小物」に含まれてしまっていますが、深掘りすると新しい発見がありそうです。

幸田氏:

女性は化粧道具や生理用品がありますが、今は男女問わずスマホが最大の小物ですね。

上田氏:

時代と共に変化する要素ですね。今後も定点的に調査を続けると面白いかもしれません。

石原氏:

確かに。一方で「ボーダーレス」という考え方も進んでいます。アパレルをはじめ男女で同じデザインにする動きがありますが、パブリックトイレにおいても男女ともにスタイリングコーナーを設置するなどの動きが見られます。これについて、どのようにお考えでしょうか?

西井氏:

ボーダーレス化の前に、まず男女お互いのトイレの現状を知ることが大切ですし、完全に共用化するのはまだ抵抗があるかもしれません。ただ、サニタリーボックスが男性用にも必要とされるなど、構造や備品が似てくる傾向はあると思います。

石原氏:

使ったことがないと良さが分からないものもありますから、メーカー側からの提案も大切ですね。

西井氏:

男女入れ替え体験会のようなことをすると、お互いに気づきがあって面白いかもしれません。

石原氏:

発想が広がりますね。ありがとうございます。では最後のテーマ「今後の展望」について、西井先生の研究されている「イネーブリングファクター」という観点から、パブリックトイレの可能性について伺えますか?

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公開日:2026年03月10日