ウェルビーイングとパブリックトイレに関する座談会

職場のトイレの快適性が人々を幸福感へと導く

上田雅夫(横浜市立大学教授)×西井正造(横浜市立大学助教)×石原雄太(LIXIL)×幸田織音(LIXIL)

イネーブリングファクターとトイレの可能性について

西井氏:

ウェルビーイングには平均寿命、GDPなど数値基準で把握できる「客観的」と納得感、楽しさなど自分自身で感じる認識や感覚によって見えてくる「主観的」の2種類があります。日本人の健康寿命(客観的)は長いですが、幸福度(主観的)はそれほど高くないというギャップがあります。そこで、私たち研究室では、単に“健康(ヘルシー)”なだけでなく、“幸福(ハッピー)”も同時に高める要素を見つけ出せば、人々のウェルビーイング実現のサポートに活用できると考えました。健康に良いだけでは不十分であるという制約をあえて課し、幸福と健康の両方に寄与する特定の要素により、一挙両得の相乗効果を狙うという仮説を立てました。その要素を「イネーブリングファクター」と呼んでいます。従来の医療はヘルシー側からハッピーを目指す道でしたが、私たちはハッピー側を経由して、自然とヘルシーになる道を探求しています。トイレはこの「イネーブリングファクター」として高いポテンシャルを持っています。歴史的には下水道の普及などで命を救う(健康な要素)役割を果たしてきましたが、今後は主観的な心地よさ(幸福な要素)を高めることで、両面から人々のウェルビーイングに貢献できるはずです。

石原氏:

これまでトイレに関しては健康への取り組みが中心でしたが、今後はハッピーを通る道の要素も重要になってくる、ということですね。

西井氏:

良い製品やサービスは 「使いたくなる」「楽しくなる」みたいな要素が入っていて、トイレはすでにこの両方を満たしているのだと思います。今回の調査を通じて、自分の仮説がトイレという身近な存在に裏打ちされていると感じ、勇気づけられました。

ウェルビーイングとは
イネーブリングファクターの相対関係

石原氏:

今回は職場を対象にしましたが、商業施設や家庭のトイレでも同じような可能性はあるのでしょうか?

西井氏:

環境などによって求められるものは異なるでしょうが、ポテンシャルは満載です。例えば、蒲郡市役所での事例を他の公共施設へどう展開するかといった検証も進めています。場所や男女のニーズの違いを深掘りしていくことは、今後の大きな課題です。

石原氏:

ぜひ今後も共同研究をお願いしたいです。女性トイレの行列問題など、解決すべき公平性の課題も顕在化しています。調査内容も再検討しながら、公共トイレがイネーブリングファクターとなるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。

西井氏:

家庭のトイレのように、ある程度安楽な状態の中では求めるものも変わってくるでしょう。職場、公共、家庭、それぞれの環境を男女別に分析することで、新たな要件が見えてくることを期待しています。

上田氏:

ヘルシーな道は機能的価値、ハッピーな道は情緒的価値とも言い換えられそうですね。両輪で考えることが重要です。美術館などの公共施設においても、皆さんがリフレッシュできる場としてトイレの満足度が大きく影響するはずなので、ぜひ、取り組むべきですね。

西井氏:

研究課題は尽きませんね。

今後の展望

石原氏:

最後に、今後の展望や次年度への思いなど、お願いします。

上田氏:

今回の共同研究での調査は非常に有意義なものでした。今後は、女性の視点をさらに取り入れ、多様な世代 属性から意見を募るのが良いでしょう。また、経営者の方々には、トイレ環境への投資が仕事の満足度、ひいては企業価値に繋がることをもっと伝えていきたいですね。

西井氏:

同感です。

上田氏:

私自身、昔の汚いトイレでの苦労を思い返すと、環境改善の効果は絶大だと確信しています。洗面台の設計など細かな改善が、福利厚生の一環としてもっと認知されるべきだと思います。特定の社員に考慮した施策と違い、トイレの改善は全社員に平等に恩恵がある素晴らしい投資だと思います。

西井:

プロジェクトを進めている蒲郡市役所では、イネーブリングシティ基本計画の一環でトイレが改修され、ウェルビーイングなトイレとしてポジティブな反応を得ています。 「新しいトイレ見た?」と話題になるほど注目されていて、アンケート調査なども実施しているところです。こうしたデータを共有し、今後に活かしていきたいですね。

石原氏:

これからの公共トイレの新しいテーマになる取り組みですね。ぜひ、今後もご一緒に調査研究を進めていければと思っています。本日はありがとうございました。

LIXIL本社での座談会のようす。今回の調査研究では有意義な結果を得ることができた
■LIXILビジネス情報 施工事例サイト
【蒲郡市庁舎/本館2F】
https://www.biz-lixil.com/case/all/B250063/

取材 文/フォンテルノ
人物撮影/大島 利浩

上田 雅夫(博士(商学))

横浜市立大学データサイエンス学部 教授
2015年 早稲田大学大学院創造理工学研究科経営デザイン専攻 教授
2020年より現職
主たる研究分野 ビジネス サイエンス、ブランド マネジメント、顧客マネジメント、主観的厚生
上記の研究分野において、データを基にした実証的な研究に従事

西井 正造

横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション デザイン センター(YCU-CDC) 助教
株式会社Open Medical Lab 取締役
一般社団法人イネーブリングシティ協会 業務執行理事
2018年より現職
主たる研究分野 医学教育学、コミュニケーション学、デザイン学

このコラムの関連キーワード

公開日:2026年03月10日