INTERVIEW 006 | SATIS

大きな空がある家 ──
9世帯のコーポラ

設計:成瀬友梨・猪熊純/成瀬・猪熊建築設計事務所 + 塚本二朗 | 建主:Kさま

一箇所にまとめられた水まわり

一箇所にまとめられた水まわり。風呂場と洗面には扉はなく、見た目にもすっきりしています。

この建物は9世帯のコーポラティブハウスです。全体の計画を成瀬さん、猪熊さんのお二人が設計し、各住戸についてはプラス4人の建築家の方々が共同で設計をしています。コーポラティブという全体のフレームはある程度先に決めているものの、住戸内部については各住み手が建築家と打ち合わせをしながら自分の住宅をつくっていくという仕組みです。
Kさんのお宅は建築家の塚本二朗さんが設計を担当しています。塚本さんは、もともと公共事業や都市開発など手がける設計事務所に所属していてどちらかというと大がかりなプロジェクトを担当してきました。今回のような住み手の顔の見える仕事はやりがいを感じたと言います。住宅の設計で心がけるのは、将来の変化の可能性も見据えることだと言います。この家でもできるだけ仕切りを少なくして、開放感を保つと同時に将来子供部屋ができることも想定して計画をしています。また、今回は、外部とのつながりを感じさせたり、室内でも、視線が長く届く場所を設けることで、限られた空間の中でも広がりを生み出すことに注力したといいます。
建主のKさんはつい最近までドイツにお住いでした。この集合住宅に住まう奥さまの友人からこのプロジェクトへの参加を紹介されたのがきっかけです。海外の家から比べると日本の家は小さいので少し心配もあったようですが、ご主人の「すぐに慣れるよ」という言葉に勇気づけられ、奥さまも参加を決めたそうです。打ち合わせは遠距離であったこともあり、実際に見に来たり会って相談する時間も限られていたようですが、塚本さんの細やかな配慮で問題もなかったようです。ご主人は海外を飛び回るお仕事なので、また転勤などもあるかもしれませんが、今の暮らしを十分に満喫しているようでした。

寝室からリビング、子供スペースと視線が抜ける

寝室からリビング、子供スペースと視線が抜ける
photo: Masao Nishikawa

大きな空

この家の第一印象は大きな開口部から見える外の景色です。方向は西側になるのですが、目の前に高い建物がないため景色が広がっていて家のどこからでも空が見えます。Kさんもそのことがとても気にて入って、ベッドからも空をみたいと思ってこの配置になったようです。そしてその窓につけた窓台には、奥さまがつくられているというフラワーアートが飾られていました。かつては住宅のお仕事もされていたとのこと、インテリアのセンスも抜群です。海外での経験が暮らしへの美意識をさらに高めたのかもしれません。取材の中でドイツでは家族で過ごす時間が長かったし、時間ももっとゆっくり流れていたと言います。食事も出来合いのものが少なかったこともあって、手作りで時間をかけてつくっていたそうです。日本はデパ地下やコンビニなど便利ですが、知らないうちにみんなで忙しい毎日を送っているのかもしれません。

モルタル仕上げのカウンターが設けられた寝室

モルタル仕上げのカウンターが設けられた寝室。Kさんのセンスよく住みこなす様子が垣間みられる。

そして、その窓に向かって開放的なキッチンが家の中央に置かれています。お子さんもまだ小さく、毎日の食事やおやつなどキッチンにいる時間が長くなります。キッチンからいつも子供の様子が見渡せるのは安心ですし、長く過ごす時間なので、ベランダのある明るい、家の一番よい環境に配置しました。子供のベッドとプレイルームは階段を挟んだところにありますが、キッチンからも視線が通ります。お子さん二人が遊んでいる様子を眺めることができ、とても安心なようです。寝室の扉も大きく、天井一杯まで広がり、開けておけばほとんど全体が一室の空間のようになります。決して大きくはない家ですがそうした工夫や大きな窓があることでこの家は広々と感じます。

パントリーを考える

子供が小さいと様々なものが外に露出しがちですが、キッチンの隣にパントリーを配置したことで、キッチンにものが出ずにすっきりと暮らすことができています。オープンキッチンは家族とのコミュニケーションはしやすいですが手元がいつも見えて綺麗にたもっておくのに苦労するものです。背面の収納も十分につくり、調理家電などはパントリーに、また冷蔵庫も見えないようにパントリーとの間に格納されています。パントリーは収納とは別に外から一目で置いてあるものがわかり、大きさの違うものや収納棚には入らないようなものを整理するのにもとても便利です。

K邸の中心となるキッチン

K邸の中心となるキッチン。収納が多いのですっきり使われている。

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公開日:2018年01月31日