INTERVIEW 007 | SATIS

ピクニックをするように暮らす家

設計:中山英之/中山英之建築設計事務所 | 建主:金子敦・泰子さま(グラフィックデザイナー)

2重の壁

またこの家は2重の壁で構成されています。内側の壁は縦に小幅板を繋げた壁でできていて巻き取るようにすると、その中から壁際の空間が見えてきます。その一部が部屋になっていたり、キッチンの収納や、水まわりなどがあります。閉じているとかなりミニマムなわかりやすい空間ですが、巻き取ると中身が見えて空間の関係性がそれまで理解していたものと違う複雑なものだとわかってくるのです。

蛇腹でつくられた2重の壁をめくると中から別の部屋や機能があらわれる。

蛇腹でつくられた2重の壁をめくると中から別の部屋や機能があらわれる。すべてを閉じるとミニマムな空間になり、見えている場所へどうやっていけるのか手がかりがなくなる。
photo: 中山英之建築設計事務所

レディメイドを使う

中山さんは既製品を使うことも好きなのだそうです。例えばこの家の階段はアルミの既製品をカスタムメイドして使っています。また地下1階の倉庫兼音楽スペースには仕事で必要な膨大な資料が可動式のスチールシェルフに納まっています。それが家の中央にあり、その棚の上面が1階の床より少し高く、また一段上がった床面に揃っていて大きな床のようにも見えます。この稼働棚は既製品です。しかし既製品を一品生産の建築の中にどう対峙させていくかということにとても興味があるのだそうです。特に既製品の中でも大衆的なものをあえて使うことで社会と自分の建築との関係を問い直してみたいのだそうです。それは慣れ親しんだ形や記号が見る人に安心感を持たせることにもつながりますし、同時にその組み合わせが新たな関係性をつくりだしているようです。とはいえその既製品と対峙させるために、寸法や色などを十分精査し、その既製品の方に一品生産の建築を合わせていきます。そのことで違う位相にあるものがどこかで揃ってくるということを精密に計算しています。バラバラに見えるものが実はどこかで揃っていることが重要なデザインコードになっているのだそうです。どこにでもあるレディメイドのものが、どこにもないような状態で置かれるようにつくりたいと言います。
そういう説明を伺うと、この家がまるで謎解きのゲームのようにも見えてきます。地下1階から飛び出しているスチールの稼動棚の高さがテーブルや窓の高さにあっていたり、梁や建具などに塗られているグレーが、既製品の色から決められたりしています。

バリアがあること

建築が人間の意識や行動に大きな影響を与えているのはもちろんですが、中山さんは、建築が人間をもっと解放させていけないかと考えます。この家は普通に考えるとバリアだらけです。段差もあり、場所から場所の移動も距離があります。目の前の場所に行くにも遠回りをしないと行けません。建主の金子さんは引っ越してきた当初は荷物整理に一日に何度も上がり下りし、家の中で1日3万歩歩いたこともあるそうです。しかし今では、上階の寝室から1階の事務スペースを移動する行為に合わせて、ものの場所が定位置に収まってストレスがなくなったと同時に、この家の暮らしを楽しんでいます。便利でないことが最適な状況を探して行くための創造的な動機にもなっているようです。

キッチンは排水溝のひとつ

先の既製品の話にもつながりますが、水を使うところをタイルで構成しています。キッチンとトイレは少し離れたところにあるのですが、よく見ると水を使うところは全て同じ平面になっているのです。中山さんは、このことを地形にたとえて、水が流れる場所は地形であれば、同じレベルにおくのが自然で、キッチンは少しだけくぼみがある水たまりのようなものだとも表現していました。そのことを示唆するようにこの床面は25ミリ角のタイルが敷き詰められています。家の中にあえてそういう仕掛けをすることでそのことに気づいた時にちょっと人を楽しくさせるとも言います。

キッチン

流れ着いたトイレ

中山さんはこの2重の壁が水ぶくれしたような構成と表現しています。トイレの位置はこの家の2重の壁が交わるところにあります。その水ぶくれが最後にキュッとしぼむところです。ちょうど水に浮かべてそれが自然に流れ着くような場所にトイレが置かれていると言います。トイレの気持ちになってトイレが行きたくなるような場所に置いたのだそうです。

つぼまっていく最後のところがトイレの位置になっている。

つぼまっていく最後のところがトイレの位置になっている。

ロフトから見た2階の水まわり

ロフトから見た2階の水まわり

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公開日:2018年01月31日